名前がふたつ

私は、今、日本に何万人いるんだろうかといういわゆる『Dynamite勢』だ。

2020年の冬。

ジャニーズに10年来推しているグループがおり（今でも推している。BTSと同じ日に情報解禁などあるととても忙しい。幸せ。）それ目的で音楽番組の特番を録画した私は、お目当てのグループの出演シーン以外をバッサリカットするべく、倍速で再生しながら編集していた。通常この作業で他の曲を再生して聴いてみたりすることはない。ジャニオタのHDDにはそんな余裕はないのだ。次の供給に向かって粛々と容量を空けておかなければならない。

その中でふと、あ…これ…ずっと前からすごく流行っている、韓国のアイドルグループが英語で歌ってる歌やんな…これめっちゃ流行ってるよな〜、と倍速の再生を止めた。

そう、止めた。止めてしまった。普段なら止めないのに。あの瞬間が始まりだったなぁと今でも思い出す時がある。

それを見ていた長女（ゴリゴリのジャニオタ、だがしかしこの時すでに彼女はこっちが知らない間に私よりひと足お先にBTSの深い深い沼へと足首ぐらいまではひたしていた）が、「あ！それ（録画に）入ってたんや！見たい見たい！この歌めっちゃ好きやねん、歌詞がな、なんか希望が見えるような、元気が出るような、めっちゃええこと言うてはるねん！！」

めっちゃええこと…言うてはるんや…何を言うてはるんやろうか…

長女がDynamiteを好き過ぎて隣りでめちゃくちゃ解説しながらしかもメンバー紹介もし始めた。オタクの早口&情報量過剰なラップのような語り口の併走によりDynamite初見は終わり、私に残った情報は「夜空を見上げれば7人の素敵な集団がいるらしい」ということのみだった。長女のプレゼン雑過ぎる。

しかしオタクが早口でしゃべる時にロクなことはない。危険だ。非常に危険だという事は察知した。

訳詞が見たいと言うと、すぐにYouTubeへ行くように言われ私のスマホは奪われロック解除され（なぜ解除できるんや）すぐにハイブをチャンネル登録された。

ジャニーズは最近になってやっとYouTubeにMVが上がるようになったので、私にYouTubeを見る文化はなかった。CDの初回限定盤に同梱されるMVおよびそのメイキングを死ぬほど見るのだ。

しかもその初回限定盤を手に入れるには予約開始とともに秒で予約をしておかなければならない。初回限定盤を無限に作ってくれはしないからだ。

そんな戦さを数々乗り越えて各CDショップに常にログインしなければいけない人生だったのに、YouTube。

無料。ウソやん。マジで言うてる？朝から晩まで無料？

長女は『Stay Gold』のMVを再生し始めた。おい、『Dynamite』の訳詞はどないなったんですか？

「『Stay Gold』はな、日本語曲やねん。スローモーションのシーンが多いから、メンバーの顔と名前覚えるのに1番良いテキストやから！」

テキスト…私は今からお勉強を…？？？

再生されるやいなや、また長女の早口&情報量過剰なラップが始まった。

「長男！ジンさん！照れ屋で面倒見の良い長男！ジャニーズで言うたら横山さんで覚えて！唇似てるやろ！次男！シュガ！ラップするのに普段は爺！色白！妹ちゃん（次女である）はこの人が推し！（え？次女にももう推しが？）三男！j-hope！ホソクさん！私の推し！あ、名前みんなふたつあるから後で覚えて！（な、名前がふたつ？？？）四男！ナムさん！英語ベラベラで物すぐ壊す！五男！ジミンちゃん！Dynamiteで声キレイやって言うてた人！（私がキレイな声…ってつぶやいていたらしい、もう記憶が…）六男！テテ！世界一の顔！やのに可愛い、性格が！どっちかで覚えて！末っ子！グク！とにかく末っ子！お母さん絶対好き、末っ子やから！（私のジャニーズの推しは末っ子）以上！分かる？」

これで分かる人、います？この世に。おったら神様やん。ジャニーズに例えてくれたん横山さんだけやし。もはや横山さんしか残ってない。横山さんはBTSの長男…（違う）

これはエライことになった…長女の熱量から見て只事ではないし、何しろ名前がふたつだ。なんなんだそれは。

なにより曲が頭から離れない。もう一度聴きたい、彼らの姿ももう一度見たい、そう思っていることに心臓がドキドキして落ち着かない。

さて、何から覚えればいいのか…私のお勉強が始まったのだ。