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推しの子

それは、2021年の秋頃のことだった。


長女の様子が、どうもおかしい。
まだコロナ禍ではあったが、自宅待機が続いた彼女にもようやく新入社員ながら社会人として仕事が始まり、専門学校で得た知識が現場での作業で役立った時など帰宅後に疲れていても嬉しそうに話していた。


だが、休日になると、
まるでデートに出かけるようなメイクをして、
まるでデートに出かけるような髪の巻き方をして、
まるでデートに出かけるような服を着て、
まるでデートに出かけるような顔で、
「いってきます」と家を出るではないか。


……いや、デートなんよ、絶対。


長女は幼い頃から「好きな子いるの?」と聞いても教えてはくれなかった。
でも、見ているだけですぐに分かる子だった。
幼稚園の時はお迎えに行けば好きな子を「◯◯くーーーん!」と追いかけまわしていたし、
小・中学生の頃はずっと同じ子が好きだったようだが、教えてくれなくてもその子の話をする時だけ異常にしゃべる。1日中その子の事だけ見てたやろ?ってぐらいにしゃべるしゃべる。

とまぁ随分と分かりやすいタイプだったので、
その時も出かけて行く長女に行ってらっしゃいと手を振りながら「わぁ、好きな人ができて、しかも約束して会ってるって事はお相手も満更でもない感じ?イヒヒヒヒヒ…!!!」とほくそ笑んでいたのです。(こんな母親、イヤだなぁ…)


それが何度か続いたある日の夜、仕事から帰宅した長女が突然、
「私、あのー、今から出かけて、彼氏、あのー、彼氏と言うか、まだ彼氏じゃないけど今日彼氏になると思うので、そのまま泊まるから今日は帰って来ません!くわしくはまた説明するわ!」

……コレ、本当の話なんですよ。本当にこれだけ言ってまた可愛い服来て出かけて行って、帰って来なかったんですよ。

……正直過ぎません?あまりにも。普通、初めて彼と外泊する時って、ちょっと嘘ついたりしません?え?しないの?令和ってしない感じ?

そして翌日帰って来た長女から「彼氏というものができました。」と言われました。いや、順番!(粗品ボイスでお願いします)


ガッチガチのゴリゴリのチョンホソク命だと思っていたら、ちゃっかり彼氏。
パスケースにホソクさんのトレカを入れていたら落としてしまい、この世の終わりかというほど泣いて、「定期券買ったばっかりやったもんね…母、買ってあげるよ?」って言ったら「ちゃうやろがい!買うならホソクさんのトレカやろがい!あのトレカ見ながらでしか仕事行かれへんのじゃい!ウワーーーン!」って余計に泣かせてたら警察からお電話頂いて、ありがたくも届けて下さった方により無事に手元に戻り、取りに行った窓口で「これ、韓国の方やね〜」って言われて「はい!BTSのJ-HOPEさんです!」って大声で答えて受け取って帰って来たのにね…。
しかも(しかも、って)そのまま彼とのお付き合いは現在まで続き、今年、2023年の春に彼の転職が決まった為2人で関東で暮らすべく、
長女は我が家を出たのでした。


私は、娘たちにとって全然良い母親ではないはずです。手作りの離乳食をこまめに作っていたわけでもなく、可愛い通園バックを縫ったりしたわけでもなく、勉強を教えてあげられるわけでもなく、
ただ笑っていて欲しい、いつも笑っていて欲しいと思いながら長女と次女と私と3人輪になってそれぞれの推しの話をキャーキャー話していただけの母親なんです。

だから、どうしても気になってしまい、長女が彼と暮らす準備をし始めた頃に私は長女に「前からよく一人暮らししたいなぁって言ってたけど、我が家って暮らしづらい家だったかなぁ…?」と今思えば正直に答えにくい事を聞いてしまった。


すると長女は、
「いやいや全然!逆!逆に自分の家が楽し過ぎて。
休みの日、どこにも出かけへんかっても、家にいるのが1番楽しくて、母や次女ちゃんと話してたら面白くて、永遠に家におれるなぁと思ってて。
でも、それじゃあかんな、と思って。楽しいから、自分でここから出ないとあかんな、と思って。」


この時洗濯物を畳みながら「そうかぁ。楽しかったなら良かったよ〜」と、泣かなかった自分をめちゃくちゃ脳内で褒めちぎった。お前えらいよ、普段なんでも泣くくせに、えらいえらい。

私が泣いたら長女もきっと泣く。
あれよあれよと言う間に突然現れた男によって(言い方)オタク親子3人組が2人と1人になるのだ。
寂しくないわけがない。
ジャニーズを推していた時から、何回もドームに行き雄叫びを上げ、新しい曲が出れば耳がとれそうなくらいに聞いて、TVや円盤を繰り返し見て推しのカッコいいところをそれぞれに好きなだけ言い合った。

でも。
私のようなぐうたらな奴の長女への子育てが、こんなにも私にとってありがたく誇らしく、終わったのだ。
「楽しいから、ここから出なければ」と思って自分の人生を自分の力で自分の考えたように進んでみよう、そう思ってくれた事に感謝してもしきれない。

私の長女への子育てが終わった瞬間だった。

今までもこれからも、娘たちの人生の前でも後ろでもなく隣りを歩いてれたらいいなぁ、困った時にふと隣りを見てくれたら、そういえば私や夫という親がいるからちょっと頼ってみようかな、そう思ってもらえるような存在でいたいと漠然と考えて今まで一緒にいれたけれど、
隣り同士の道もすこし距離が離れて、でもきれいな平行線でやっぱり隣りをふと見た時はお互いを思いあえたらいいなと思います。

今回は全然BTSの話ではなく、ここまで長々と読んで頂いて申し訳ないです。
ナムさん、ジミンちゃん、テヒョンさん、ジョングクの入隊が正式に発表されて、今年の私はなんてたくさんの人たちを見送る1年になったのだろうと思って長女の旅立ちを書いてしまいました。

…ってほぼ毎日LINEしたり電話したり、となり町に住んでるんか?ってぐらいに度々帰って来てるのですが。

そんな度々帰って来てくれる長女も、2025年に帰って来てくれるBTSの7人も、
どうか帰って来てくれる時にはとびきりの笑顔を見せて欲しい。そうなるように今の場所で、つらい事より幸せな事がほんの少しだけ多い毎日が過ごせますように。

私の大切な大切な、大好きな大好きな人たちへ。

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