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グンマの人間ドック

我々日本人の心を捉え続ける日本最後の楽園グンマ

悠久の時間の中にあり、厳しくも鮮やかな自然に抱かれた豊穣の大地は、その恵みを糧に様々な独自の文化風習を醸成してきた。

毎年、多くの観光客が訪れるグンマではあるが、この土地に根付いた人間ドックの風習を知る日本人は少ない。
そこで私は遠い記憶を紐解き、懐かしい記憶の中に眠るグンマの人間ドックを皆様にお伝えたいと思う。

(以下は、私の曖昧な記憶のみに基づいた記述となります。事実とは異なる点が多数存在することを親愛なる好事家諸兄姉には予めご容赦いただきたい次第です)

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グンマの人間ドックは1日で終わる儀式ではない。
1週間前からその儀式は始まっている。
酒と贅沢な食材を絶ち、体内の浄化を7日間かけて進めてゆく。
体内の浄化に伴い肉体に宿る精神は研ぎ澄まされてゆく。
一方で、
人間ドックを取り仕切る司祭は更に厳しい試練を自らの心身に課すことになる。
水以外の摂取を禁じ、赤城おろしの寒風に身をさらし一切の穢れを落としてゆく。
最後の2日間の試練は壮絶を極めると聞く。

一方、
受信者は人間ドック当日、日の出前に起床しコップ一杯の水を口に含む。
そして、
穢れを落とした証として自らの排泄物を採取し、体内の浄化を証明する試練に挑む。
その後、長老への挨拶を済ませてから検診センターへと向かう。
長老は私にこう告げた。
「シャーマンのセイケンには気を付けろ」
その意味を理解せぬまま私は長老に深く会釈をした。

なお、
その姿を女子供たちに見られてはならない。
もし見られてしまうと不思議な力で死ぬことになる。

不思議な力で死ぬことになる

受診者は個人の情報を他人に知られてはいけないのだ。
それはグンマで生きて行くための掟でもある。

人間ドックの舞台となる検診センターは、5時間ほど歩いた先の荒野にあった。

グンマ検診センター

多くの地から集まる受診者は、到着順に番号を与えられる。
その番号は自身を特定するための唯一のものとなる。
広い空間に集められた受診者は司祭に仕える者にその番号を呼ばれる。
閉ざされた暗室へと連れて行かれた受診者は今日1日の儀式の説明を受ける。

・儀式を執り行うことは命の危険が伴うこと
・万が一の場合は一切を司祭に委ねること
・一切の意義を唱えないこと

これらを書面により意思表示する義務を課せられる。
もし意思表示を断ったら不思議な力で死ぬことになる。

もし断ったら不思議な力で死ぬことになる

その後、受診者は伝統的な装束に着替える。
司祭に使える者たちの指示に従うままに腕を差し出し生き血を抜かれ、特殊な光線を浴びて上半身に穢れが無いことを示さなければならない。
また、
薄暗い部屋で特殊な音波を体内に照射され、腹部に穢れが無いことも合わせて示さなければならない。

これらの経過を経て、穢れが無いことを確認された受診者は、晴れて司祭との謁見が許される。
番号を呼ばれた受診者は、司祭に仕える者に導かれ謁見の間へと向かう。
謁見の間に向かう途中、個室へと案内され、そこからは受診者一人に従者一人が付き添う事となる。
受診者は大きくリクライニングした椅子に座し両手両足を拘束されたのち、
「シャーマンの秘薬」を与えられる。
その秘薬を口に含み少しずつ体内に流し込んでゆく。
その傍らには常に従者が付き、受診者の状態を監視する。
秘薬の効用により受診者がトランス状態になったことが確認されると、従者は司祭に連絡を行う。
司祭は特殊な呪術を受診者に施し、その呼吸を維持しつつ、謁見の間へと受診者を誘導する。
謁見の間は薄暗く、一番奥にはモニターがあった。
モニターに映し出された受診者の過去の罪状に目を通したあと、司祭は受診者に与える試練を決定するのだという。
或る者は鼻から長い管を差し込まれる試練を与えられ、或る者は口から長い管を差し込まれる試練を与えられると事前には聞いていた。
覚悟はしていたつもりだが、いざその時を迎えると私の平常心は消えていた。

私には口から長い管を差し込まれる試練を与えられることが決まったようだ。
司祭は私を試練の間へと連れてゆく。
朦朧とした意識で歩く私に司祭は次のような話を告げた(と記憶している)

・試練の間にはグンマの全てを司るシャーマンがいる
・この試練はお前の身に余るほどの幸運をもたらすだろう
・シャーマンの目は決して見てはならない。もし見てしまうと不思議な力で死ぬことになる

不思議な力で死ぬことになる

試練の間にたどり着くと、その中央には生贄台があり、その四方を松明が赤く照らしていた。
松明の揺れる明かりの向こうにシャーマンの姿が揺れて見えた。
不気味な機械音が響き渡り、遠くからは他の受診者の泣き叫ぶような嗚咽が聞こえる。

司祭は小声で私にこう告げる
「繰り返すが、決して、決してシャーマンの目を見てはならない。お前は一切言葉を発してはならない。」
そう言い残して司祭は闇へと消えた。

シャーマンの傍には幾人かの女達がいる。
シャーマンの身の回りの世話をする女達だ。
年越しの夜、彼女達と私は邂逅していたはずだ。
生贄台に横たえられた私の口には拘束器具が差し込まれ呼吸以外の自由は奪われた。
女がシャーマンに小声で何か告げると、シャーマンは立ち上がりこちらを向く。
その手には異形の黒い管を持っている。
管の先端は眩しく点滅し、それは私の口の中へと差し込まれる。

女が私に告げる。
「欠伸をしろ」

その言葉に素直に従うと、前面のモニターには管の先端に取り付けられたカメラからの映像が映し出された。
私はいま、試練の時を過ごしているのだ。
シャーマンは奇妙な動きを繰り返し、何やら呪文を唱えている。
そのたびに、モニターの映像が切り替わる。

、、、何があったのか?
シャーマンの動きが一瞬止まり、呪文を唱える声は早く大きくなった。

「セイケン!」

シャーマンが発した言葉に弾かれるように女達の動きが慌ただしくなった。
あるものは細長い何かを持ち込み、或る者は私の背中をさすり、あるものは、同じ言葉を何度も復唱している。
何かが起こっているようだ。
シャーマンの怒りに触れたのだろうか?
背筋に冷たいものが流れるのがわかる。
慌ただしい状態は数分間続いた。
その間、シャーマンは奇妙な動きを繰り返し何かを捉えようとしている。

硬直した体のまま成す術もなく時間が流れたその数分間を経て試練の時は終わった。正直に言えば、私は良く覚えていないのだ。
気が付いたときは、謁見の間の入り口で先ほどの司祭との再会を喜びあっていた。
その後、司祭に使える者に案内されて謁見の間を後にして、残りの儀式を滞りなく済ませた。

身に着けていた特殊な装束を脱ぎ、いつもの服装に戻ると、検診センターの受付で手続きを行う。
シャーマンの「セイケン」の言葉に従い秘薬を受け取り、この先1週間は秘薬を服用することを念押しされた。
その後は、何事もなかったのような平穏さの中で、用意された食事を採り、精進落としの儀式を済ませ検診センターを出た。

今後だが、
3週間を目途にシャーマンのお告げが届くという。
その結果により、今後の運命が決まるという。
それまでは、祈りの日々は続く。

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 我々日本人の心を捉え続ける日本最後の楽園グンマ

そこで行われる人間ドックは、怪しくも厳かな伝統に守られた神聖な儀式であることを強く感じた1週間だったように思う。
願わくは、一人でも多くの人がグンマの神聖な儀式に触れ、自らの健康状態を見つめ直すきっかけを得て欲しいと思う。

終わり

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