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攻4¥2温もり99

※これの続きです。銀髪美少女になったハチェットちゃんが限界OLの涼ちゃんと一緒に暮らしてる。だけ覚えればたぶん読めます。


「あー!!本っ当にイライラする。どうしてこうも世の中はこうもストレスで溢れかえっているんだか……」

 帰宅して早々、私はスーツを脱いで床に寝っ転がりそう言い放った。

「おかえり涼ちゃん!服がシワになっちゃうからその辺に放り出さないで最低限ハンガーに掛けてってわたし前にも言ったよね?」
「ただいま。悪いけど掛けといて。私は疲れたもう何もしたくない死にたい。」
「帰ってきて早々ご機嫌ななめだね涼ちゃん。せっかくのかわいいお顔がシワになっちゃうよ?それとも涼ちゃんも私にアイロンがけされたいの?」

 眼の前の変な生き物は神界出身だけあって、外のストレスとは無縁らしい。倒れている私の顔を無邪気な笑みを浮かべながら呑気に覗き込んできている。

「また前言ってた地獄の会議でもやってたの?ほら、前涼ちゃんがTwitterのレスバの方がまだ建設的って言ってたヤツ。」
「あれはあれで最悪だったし二度とやりたくないけど、今日は1日を通してずっとゴミカスだった……朝電車でどこの誰とも知らんゴミカスにに足を踏まれるし、順調に進んでた仕事は上の『ごめんやっぱこっちで』の一言で振り出しに戻ったし、コンビニのレジは横入りされるし、おまけに初期手札にハチェットは3枚も来た。」
「最後のはいいことじゃん!」

 ハチェットから心底何が悪いのか分かってなそうな声が返ってきた。

 全くこの世界には私に優しくない事が多すぎると思う。私は預言者だぞ、本当は満員電車には私専用の席が存在するべきだし、上司が私に従うべきだし、私だけが使える専用のレジがあるべきだし、初期手札にはスーパーミラーが3枚あるべきだ。

「みんな本当にセンスないよね。わたしだったら涼ちゃん専用の電車を作るし、涼ちゃんを会社のトップにするし、横入りするやつは全員昇天させるのに。もちろん涼ちゃんの手札は全部わたしね。」

 私と同じ発想で私よりスケールが大きい考えのやつが目の前にいた。最後のは手札事故だけど。

 私のことを解ってくれる存在がいるという事実は嬉しいが、それが最弱神器ハチェットなのが納得いかない。それじゃあ私とハチェットが似ているみたいだ。

「とにかく、この世界は涼ちゃんのかわいさに気づいてないんだよ!」
「人に可愛い可愛いって言うのやめて。あんたの方がよっぽど可愛いから嫌味にしか聞こえない時がある。」

 ハチェットは「可愛いのにな〜」と小さく言いながら私の脱ぎ散らかしたスーツをハンガーに掛け、そのままタオルと着替えを取って渡してきた。

「はい。疲れてるみたいだし先にお風呂入っちゃって。その間に私がおいしい晩ごはん作ってあげるから。」

 そう言うとハチェットはにっこりと微笑んでエプロンの紐を締めた。

 私も疲れていたのでその言葉に甘えることにしてお風呂場に向かうことにした。
 
 服を裏返しで脱ぐとハチェットに洗濯が大変だと怒られるので裏返らないよう注意して脱ぎ、シャワーで体を流して湯船に浸かる。

 ぼんやりとお湯に浸かっていると、今日一日の嫌な出来事が、下の意見を全く聞かないクソ上司と横入りしてきたクソガキの顔付きで浮かんできて、それを頭から追い出すように自分の顔にお湯を掛け、天井を仰ぐ。

 何分経っただろうか。Twitterに載せる為のクソみたいなツイートを考えていると、肉の焼ける美味しそうな匂いがお風呂場にまで漂ってきた。世界広しと言えど、神器に飯を炊かせている人間は私くらいだろう。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないけど、少なくともハチェットの作るご飯は美味しい。

 お風呂掃除が面倒だからハチェットが来る前はシャワーだけで済ませることも多かった。でも今は彼女が毎日お風呂場をピカピカに磨いてくれる。食事も同様にコンビニ弁当から彼女の作る温かいご飯になった。

 預言者というステータスは心の中で「私は預言者だぞ!」って唱えてゴッドフィールドのレートでマウントを取ることで何とか平穏を保つくらいでしか現実で役に立つことはないと思っていたが、かわいい神器が私のために頑張って家事をしてくれるのなら預言者も良いものかもしれない。

 そんなことを考えながら湯舟から出て髪と体を洗ってお風呂場を出る。

 体を拭いて、ハチェットが渡してくれたジャージに袖を通す。ハチェットはいつも白いワンピースを着ていてそれはとても良く似合っているけど、私はこういう動きやすい服が楽だと思う。

 ドライヤーで髪を乾かしていると突然洗面所のドアが空けられ、どうやら夕飯作りが上手く行ったらしいご機嫌な攻撃力4の生き物が乱入してきた。

「お風呂からお帰り涼ちゃん!ご飯できてるよ。」

 そう言うと何の前振りもなく私に飛びついてきた。彼女は人に使われる神器らしくいつも距離が近い。前はお風呂の中とか服を着る前に飛びついてきて、びしょ濡れになった事もあった。そんなだから、ドライヤー中ならまあいいかと私もすっかり感覚が麻痺してしまった。

 「涼ちゃん!のんびりしてるとご飯が冷めちゃうよ。」
 
 自分から飛びついてきて私の手を止めたやつと同じやつとは思えない発言が飛び出してきて、思わずツッコミたくなったが、私もご飯は温かいうちに食べたいので大人しくリビングに向かう。

 最近買ったダイニングテーブルにはチキンカツとキャベツの載ったお皿とご飯、それから味噌汁が二つづつ並んでいた。味噌汁の具は豆腐とわかめ。大根のような硬めの食材は攻撃力4にはご法度だ。

 「いただきます。」

 合わせた手を箸に持ち替えチキンカツを齧る。揚げたてのそれは衣がサクサクで美味しくてご飯が進む。

「どう?おいしい?」
「美味しい。また腕を上げたね。」
「でしょでしょ~。涼ちゃんがお仕事行ってる間にいっぱい勉強したんだから。」
  
 ハチェットが得意げにそう言うとカツを頬張ってニコッと笑う。 
 
 家に来たばっかりの時から既に私よりも料理が上手かったのに、更に勉強して腕を上げるとはすごい向上心だ。もしかしたらその向上心が災いして6/500という銅のこん棒の倍もある授かり率を生み、預言者たちを日々苦しめているのかもしれない。

 箸が食器に当たる音とハチェットの楽しそうな笑い声の中でそんなことを考えていると、いつの間にかお皿は空になっていた。

「私が洗い物やっとくからお風呂入ってきたら?」
「ありがと!」
 
 タオルとパジャマを持ってお風呂場へ向かったハチェットを見送って、洗い物を開始する。これが面倒で一人だった頃は自炊をしていなかったが、毎日私のためにご飯を炊いてくれるハチェットに比べたらこれくらいと思うようになってからは苦では無くなってきた。

 洗い物を済ませ日課の真剣タイマンを開始する。でも、5分でレートが54溶けたので怖くなってやめた。そういえば今日はツイてない日だった。

 やることが無くなったので下書きにネタツイを書いては消す極めて生産的な作業をしていると、瞼が重くなって来たので「信号機は人が寝てようが働いてんだからもっと評価されるべきだよな」とツイートして布団の用意をする。

「ただいまー!って、涼ちゃんもう寝るの?珍しいねー。わたしももう寝ちゃおうかな。」

 ピンクの可愛らしいパジャマに身を包んだハチェットが冷蔵庫からほうじ茶を取り出しコップに注いで一気に飲む。

「早寝するかみたいな雰囲気出してるけど、あんたはいつもこの時間には寝るでしょ。」
「バレちゃったか。じゃあそういうことでおやすみ涼ちゃん。」
「おやすみ。」

 目を閉じてしばらくもしないうちに布団の中に何かが潜り込んで来た。目を開けると、案の定攻撃力4の同居人だった。
 
「あんたの布団はあっちでしょ。」
「今日涼ちゃんお疲れみたいだから。」
「…答えになってないんだけど。」
「だからかわいいわたしを抱いて寝て疲れを癒して欲しいな~って思ったんだけど。」

 常夜灯の微かな明かり越しでも真剣な眼差しが見えてくる。どうやらこいつは本気らしい。確かにかわいいけど、自分で言われるとなんかムカつく。かわいいけど。

「狭いんだけど」
 
 聞き入れてもらえなそうだが、一応文句を言う。

「分かってないなー涼ちゃんは。狭い方がわたしとくっつけて疲れが取れるんだよ。人間はかわいい生き物と触れ合うと脳が癒されて疲れが取れるってテレビで言ってたよ。」
「日本のテレビは噓ばっかり!」

 諦めたようにそう言って横になる。
 
 ただ布団が狭くなるだけでは私が損をするだけなので、その分ハチェットが言うように目の前のかわいい生き物と触れ合って元を取ることにした。暗闇でも綺麗に輝く銀髪を撫でていると、いつの間にか可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 どうやら布団の中の侵略者は相当お眠だったようだ。

 流石に起こしては悪いので手を止めてそっと抱きしめると、とてもポカポカしていた。発火のワンドもついていないのに。

「おやすみ。」

 



 


 




 









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