西藤

西藤です。 色々書きます。 見てください。

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記事一覧

獅子身中の虫

ある案件、当初はプランAで進んでおり、製品の認証も取れていた。量産もこれで始まるかと思われた。 しかしここで、ビジネスパートナーから要請があった。曰く、 プランA…

西藤
1か月前

彼女との会話(続)

「ねえ」 長かった夏が終わりを告げ、漸く秋を感じられるようになった今日この頃。僕は、彼女と御堂筋沿いを散歩していた。一時間ほど歩いて少し汗ばんだ肌に、冷たい風が…

西藤
7か月前

不平等比較の誤謬

知り合いに、良いやつがいる。邪気を感じないし、何といっても純粋なのだ。癒し系というのだろうか。 一緒に働いても、一緒に遊んでも、あの人から害意を感じたことは一度…

西藤
7か月前
2

彼女との会話

「ねえ」 彼女は僕の瞳を覗き込むようにして、口を開いた。何時ものことながら本当に人間かどうか疑わしいほどの無表情で、何を考えているのやら分からない。アンドロイド…

西藤
7か月前

不可視

私はタナトフォビアでは無いが、人並み以上には死を恐れていると思う。 死ぬとどうなるのか。 誰もその答えを知らない問いが多いときは日に数回、脳裏を過る。それに対す…

西藤
7か月前

数のクオリア(序)

ある日。 目が覚めると、あなたはいつもとは違う世界にいることが分かった。パラレルワールド、というやつだろうか。まさかこんなことが自分に起こるなんてなぁ、と他人事…

西藤
7か月前

脅威

やっとこさ居心地が良くなってきた場所に、突如現れた闖入者にどう対処するか。 それが喫緊の課題だ。 彼が、好きになれそうにない。 世間一般の評価でいうと、彼は確か…

西藤
7か月前
1

映画コンコルド

映画を観始めてから、およそ一時間半が経過した。身の毛がよだつくらいに面白くなくて、欠伸が止まらない。いつ果てるともしれないこの地獄は、いつまで続くのか。シークバ…

西藤
7か月前
1

物語はどこから

小説はめっきり読まなくなったが、朧気な記憶を頼りに思い返してみれば、楽しく読んでいたのは登場人物達の会話であり、心情描写だったと思う。 誰かが、いつもそこにいた…

西藤
7か月前
2

「知っている」とはどういうことか

ある単語を「知っている」とは、どのような状態を指すのか。 大部分の人は、こう主張するだろう。 それは、 単語を正しく使用できるとき、その単語について「知っている…

西藤
7か月前

ルートヴィヒの憂鬱(続々)

久しぶりに言葉の話をする気になってきた。 まずは、前回の結論をおさらいすることにしよう。 言葉は指示対象をもたない。しかし例外がある。 いきなりだが、問おう。こ…

西藤
7か月前
1

資本主義社会に生まれて

とある商社の営業さんと、酒の席にて。 「訊きたいんですけど、若い人は何に興味あるんですかねぇ」 「まぁ、僕もそこまで若くないですけどね」 「お酒飲まないでしょ?…

西藤
7か月前

『慣れ』について

転職して、今日で半年が経った。 職種はガラッと変わり、前職で身につけたスキルなど無い僕にとっては何もかもが新しくて、毎日てんてこ舞いだった。 一番苦労したのが、…

西藤
7か月前

未だ視ないあの感じ

今日、アレを体験した。 そう、いわゆるアレである。 昼食を摂った一時間ほど後の話だろうか。 いつものアレが、いつの間にか更新されていた。 一日一回とまでは行かな…

西藤
7か月前

痛み止め

勘違いかもしれない。 それでも、鬱状態を脱しつつあるという確かな予感を、僕は感じている。 誰彼構わず敵意を抱くことは 無くなった、とは言えないものの少なくなった…

西藤
7か月前

名は体を表す…のか?

僕は今、東京の神田にいる。 一緒に来ている部長は、三十年程前こちらに住んでいたらしい。 「懐かしいなあ」 なんて言いながら、嬉しそうにしている。最近、東京への出…

西藤
7か月前
1

獅子身中の虫

ある案件、当初はプランAで進んでおり、製品の認証も取れていた。量産もこれで始まるかと思われた。

しかしここで、ビジネスパートナーから要請があった。曰く、

プランAはコストが高いから、プランBを考えてほしい。客がそう言っている。

とのこと。客が言っているというターゲットコストは極めて厳しいものだった。

因みに、客と直接やり取りしているのはそのビジネスパートナー(技術協力会社)だ。又聞きではあ

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彼女との会話(続)

「ねえ」

長かった夏が終わりを告げ、漸く秋を感じられるようになった今日この頃。僕は、彼女と御堂筋沿いを散歩していた。一時間ほど歩いて少し汗ばんだ肌に、冷たい風が心地良い。

「なに?」

「なんで、恋人って手繋ぐのかな」

僕は自分の掌を見た後、続けて彼女の右手へと視線を移した。なるほど。そういうことか。ほら、とこれみよがしに左手を差し出す。

「なに?」

怪訝そうな顔で、彼女が僕の手と顔を見

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不平等比較の誤謬

知り合いに、良いやつがいる。邪気を感じないし、何といっても純粋なのだ。癒し系というのだろうか。

一緒に働いても、一緒に遊んでも、あの人から害意を感じたことは一度だって無かったし、これからも無いだろう。そんなあの人を、僕は心の中で密かに抗鬱剤と呼んでいる。会って喋るだけで、心が安定する。生活の一部になってくれれば、生けるビルトインスタビライザーのような存在になってくれるだろう。叶わぬ願いだろうが。

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彼女との会話

「ねえ」

彼女は僕の瞳を覗き込むようにして、口を開いた。何時ものことながら本当に人間かどうか疑わしいほどの無表情で、何を考えているのやら分からない。アンドロイドみたいだ。

何も考えていないだけかもしれないが。

でも、何となく嫌な予感がする。面倒くさい話か、長くなる話のどちらかに違いない。

また始まったよ、と嘆息したくなりながらも、そんなことはおくびにも出さず、平静を装って僕は聞き返す。

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不可視

私はタナトフォビアでは無いが、人並み以上には死を恐れていると思う。

死ぬとどうなるのか。

誰もその答えを知らない問いが多いときは日に数回、脳裏を過る。それに対するもっともらしい回答は、概ね下のようなものである。納得しているかは兎も角、何となく説得力があるように感じられる。

死ぬと、無になる。それが永遠に続く。

あなたが無神論者なら、凡そ上のような死生観をもっているかもしれない。死後の世界な

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数のクオリア(序)

ある日。

目が覚めると、あなたはいつもとは違う世界にいることが分かった。パラレルワールド、というやつだろうか。まさかこんなことが自分に起こるなんてなぁ、と他人事のように呟く。その暢気な声音からは、深刻さなど微塵も感じることが出来ない。

一見、元いた世界と何ら変わるところがないようだ。呼吸も出来るし、物理法則も同じ。勿論、日本語も通じる。じゃあ何故違う世界に来たことが分かったんだよ、というツッコ

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脅威

やっとこさ居心地が良くなってきた場所に、突如現れた闖入者にどう対処するか。

それが喫緊の課題だ。

彼が、好きになれそうにない。

世間一般の評価でいうと、彼は確かに社交的で明るく、礼儀正しく、結婚して身持ちが固く、人当たりが良いということになるだろう。嫌う要素が特に無い。

でも、俺は気に入らない。特に、あの愛想笑いが。他人の機嫌を取ろうとするような、顔に貼り付けたような愛想笑いが。

何故っ

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映画コンコルド

映画を観始めてから、およそ一時間半が経過した。身の毛がよだつくらいに面白くなくて、欠伸が止まらない。いつ果てるともしれないこの地獄は、いつまで続くのか。シークバーの位置から推測するに、今でようやく半分といったところか。

しかし、一体何のために、何が悲しくて、俺はこの苦行に耐えているのか。

もういいじゃない。折角の休みなんだから、今日はこの辺で切り上げてさ。本でも読もうよ。続きは、また今度観れば

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物語はどこから

小説はめっきり読まなくなったが、朧気な記憶を頼りに思い返してみれば、楽しく読んでいたのは登場人物達の会話であり、心情描写だったと思う。

誰かが、いつもそこにいたのだ。

純文学と呼ばれるジャンルには、くどいほどに情景描写を捩じ込んでくる作品が多い。空がどうだの、電車の窓の向こうに広がっている景色だの、寂れたビルがどうだの、といったようなことだ。読み飛ばす人も結構な割合でいるんじゃなかろうか、と疑

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「知っている」とはどういうことか

ある単語を「知っている」とは、どのような状態を指すのか。

大部分の人は、こう主張するだろう。

それは、

単語を正しく使用できるとき、その単語について「知っている」

というものだ。

例えば。

僕は「知っている」の使い方を知っている。

僕は上の文で、「知っている」を正しく扱えている。だから、僕は「知っている」という単語を知っている。

本当にそうか?

上の文を書いたのは、僕にとっては生

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ルートヴィヒの憂鬱(続々)

久しぶりに言葉の話をする気になってきた。

まずは、前回の結論をおさらいすることにしよう。

言葉は指示対象をもたない。しかし例外がある。

いきなりだが、問おう。この「例外」とは何か。

実は、例外のうちの一つは、上の文中に既に登場している。

スクロールする前に、是非頭をひねってみてほしい。

正解は、「代名詞」である。つまり、これ、それ、あれ、等だ。

何故、代名詞が指示対象をもつなどと言え

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資本主義社会に生まれて

とある商社の営業さんと、酒の席にて。

「訊きたいんですけど、若い人は何に興味あるんですかねぇ」

「まぁ、僕もそこまで若くないですけどね」

「お酒飲まないでしょ?」

「ええ」

「まぁ、飲む必要も無いと思いますけどね。煙草も吸わない?」

「吸いませんね。韓国でも、健康志向が強くなってきたらしくて。若い人は吸わないらしいです」

「へえ。じゃあ、滅茶苦茶女好きとか?」

「興味ないです」

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『慣れ』について

転職して、今日で半年が経った。

職種はガラッと変わり、前職で身につけたスキルなど無い僕にとっては何もかもが新しくて、毎日てんてこ舞いだった。

一番苦労したのが、業界特有の専門用語の数々だ。PET、TAC、PMMA、LCA、Hz、TT、Ra、Φ、プライマー、コロナ、プラズマ、OLED、QD、LCD、開始剤、アニール、極性、Pfas、Tダイ、グラインドゲージ、超音波ホモジナイザー、CHC、etc…

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未だ視ないあの感じ

今日、アレを体験した。

そう、いわゆるアレである。

昼食を摂った一時間ほど後の話だろうか。

いつものアレが、いつの間にか更新されていた。

一日一回とまでは行かないが、二、三日に一回は確認していたのに、気づかなかった。

変だなと思いながら、経理の女性に訊いてみた。

「これ、なんか新しくなってるんですけど、いつからですか?」

「私が見た限りでは、前と同じですが……?具体的に、どこが変わり

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痛み止め

勘違いかもしれない。

それでも、鬱状態を脱しつつあるという確かな予感を、僕は感じている。

誰彼構わず敵意を抱くことは

無くなった、とは言えないものの少なくなったように思えるし、

絞首台に向かう死刑囚の気持ちで歩いていたいつもの通勤時間も、前ほど辛くはない。

希望はないが、絶望もない。

穏やかな気分だ。

これが誰のおかげかなんて、言われなくても分かってる。

ありがとう、◯◯◯◯◯。

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名は体を表す…のか?

僕は今、東京の神田にいる。

一緒に来ている部長は、三十年程前こちらに住んでいたらしい。

「懐かしいなあ」

なんて言いながら、嬉しそうにしている。最近、東京への出張はすっかり少なくなったそうだ。

この辺りは自分の庭同然ということで、夕食の店選びはお任せすることにした。関西といえばうどんだが、東京では蕎麦が美味しいという。自信に満ちた足取りで歩いていくその後ろを、僕は追いかける。

正直なとこ

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