R.ストーンズこの3枚!

 ザ・ローリングストーンズ(以下ストーンズ)は息の長いバンドである。
1963年にシングル“Come on”でデビューして以来なので、今年(2024年)で60年以上活動をしていることになる。フロントの2人は80歳になるが、現在も果敢に全米ドツアーを行っている。
  しかも昨年18年ぶりのオリジナルアルバム”Hackney Diamonds”をリリースしたのみならず、それが傑作であったというおまけまでついた。

 過去リリースしたアルバムは、どうだろう、オリジナルアルバムだけで50枚はくだらないのではないか。それにベスト盤や編集盤、リマスター盤、デラックスエディション、スーパーデラックスエディションなどを加えれば、1000セットは超えるかもしれない。まさに史上最長寿のロックバンドである。
 それだけ継続できたのは、それ相応のファンの購買意欲を長年喚起し続けてきたからにほかならない。並大抵のバンドにできることではない。
 また、アルバムもこれだけリリースすれば傑作ばかりというわけにはいかず、愛情をこめて「駄作」とこき下ろしたくなるアルバムもないわけではない(特に1990以降。私見です)。
  しかしそこはストーンズファン、「問題作」「異色作」「Beggar’s Banquetの2000年代的展開」などと無理くり持ち上げてしまうのである。

 以前レコードコレクターズ別冊で、ファンと音楽評論家の好きな曲の投票があり、ランキングが発表されていたが、「なぜこの曲がこんな評価が低いんだ」「この曲で人生が変わった」的な思い入れの熱さは、その前に出版されたビートルズの同趣向本をはるかに上回るものだった。

 また、ストーンズが不良・反体制・ならず者的なイメージで一時期営業していたこともあり、ストーンズの「好きな曲」を語るとき、ファンはその曲に「若き日のやさぐれた自分」を投影させようとするのも特徴の一つであった。

 この一文は、私の空想の産物であるが、「俺のストーンズのアルバムベスト3」を勝手に何パターンか選出し、その選出した人物の人となりを描いてみようという試みである。特に面白いアイデアとも思わないし、おそらく意義などないであろうが、自虐交じりにこんなことをするのがストーンズファンなのである。

ケースA
・Let it Bleed
・Exile on the Main Street
・Sticky Fingers

 王道である。ふふん、どうよ、と鼻息が聞こえてきそうである。王道でもちろん間違いではないのだが、没個性ともいえる。
   ロック名盤紹介本などで選ばれる確率が非常に高いこの3枚をフェイバリットに挙げるその衒いのなさ。「真の」ストーンズファンには考えられないラインアップである。「真の」ストーンズファンはこのリストを軽蔑するだろう。理由は以下に述べる。
 まず、"Let it bleed"であるが、間違いなくストーンズの最高傑作である。これは断言できる。なぜか?そう問われれば、以下のように箇条書きで答えるだろう。
・ギターオリエンテッドロックの極北
・黒人音楽の高度な消化具合
・カオティックな時代の雰囲気を真空パック
・ジャガー&リチャードの作曲能力の最初のピーク
・録音のすばらしさ

 ギターオリエンテッドロック云々について説明する。
 まずは1曲目のGimme Shelterのみならず、全編にわたって鳴ならされるギターの音はむしろ静謐といえる音なのだ。大きなアンプを歪ませず、ボリュームを3/10あたりにした感じ。そしてそれを複数台絡ませることによって微妙なずれを生じさせ、それが全体に微妙なうねりを生み、自然なエコーをかける。アルバム全体を通じて、アタッチメントはトレモロ(Gimme~)程度ではないか。
   Midnight Ramblerの音は歪んではいるがアンプをナチュラルにオーバードライブさせている音触りだ。にもかかわらず、混沌とした世界を創り上げているのだ。ギターは正式加入前のMick Taylerが2曲のみ(Ry CooderはLove in vainのマンドリンのみ)、つまりKeithは一人で何台もギターをオーバーダブさせているのだ。
  そして私には経験がないのでここは推測だが、ドラッグ漬けの頭の中の情景のようなものをギターで音像化したのではないか。
  そう思われるくらいサウンドが「見える」のだ。「ギターで表現する」とはよく言われるが、ここまで表現されたことはないのではないか。しかも失礼ながら技術的にはさほどではないというのに、である。(正直に言えば筆者は、指を早く動かすことがどれだけ早くても、その行為に「感銘」を受けることはない。Keithのような心に訴えるギター技術を大いに好むものである)

   初期のようなブルースのストレートカバーはなく、ロバートジョンソンの”むなしき愛”はコード進行すら変えて、ロッカバラードのように演奏している。まるで別の曲のようである。アルバム全編ストーンズのロックとしか言えないようなアルバムなのだ。
 つい興奮して長くなってしまったが、”Let~”をはじめ、この3枚がストーンズの輝かしい時代を象徴する3枚であることは、それ自体は間違いないのだ。また、人によっては”Sticky~”の替わりに”Beggar’s Banquet”を推すだろう。
  いいだろう。推したまえ。私も”Beggar‘s~”は只事ではないほどの傑作であることを認めるにやぶさかではないのだ。正直に言うと私もどちらにしようか相当迷ったのだ。ただし、そうするとまさに「絵にかいたような究極の3枚となってしまうため、あえて外したのだ。

 私が難癖をつけるのは、このセレクトにはストーンズのベスト3をどんと打ち出すことによって見えてくるであろう自我、自己主張といったものが希薄なのだ。そんなものはストーンズファンでも何でもないのだ。ただの音楽ファンなのだ。「ロック名盤ベスト100」などとかいうガイドブックを片手に順を追って1枚2枚とアルバムを買い揃えてくような己のなさがそこにあるといってもよい。権威主義的な態度といってもよい。
 これがだめな理由である。

ケースB
・1st
・12X5
・Aftermath

 これはわかりやすい。つまりBrian Jonesがリーダーの時期が最高だと言っているのである。Brianがリーダーシップをとっていた時期にこだわっているかのような「ポーズ」が透けて見える。
 ただし“Aftermath“は全曲Jagger&Richardsの作曲なので、リーダーシップはすでにJ&Rに移行しているとみてよい。Brianの目立った仕事はデビュー当時からうまかったブルースハープや、ダルシマ、シタール、マリンバなどの装飾的楽器であった。もちろんこれらがこのアルバムの強いアクセントになっていることは否定できない。
 実際Brianがバンドの創設者であり、The Rolling Stonesというバンドの命名者だった、ブルースハープとスライドギターが抜群にうまかった、女には凄腕だった、とかいうことで評価をされているが、作詞作曲はできない、歌えない(1stの“Walking the Dog”などで、そのだみ声のバックコーラスは確認できる)のである。
 また選曲面では、”Down Home Girl“(”Now!”収録)など、かなり狂信的な黒人音楽の選曲を彼がしたといわれ、そっちのセンスはあったのかもしれないが、これも今となってはジャガーやキースが見つけ出してきた曲だったのかもしれないではないか。もしかしたらBrian Jonesとは、シカゴブルースまでの人だったのではといわれても反論は難しいかも。
 デビュー当時のルックスとファッションセンスは抜群であることは、おそらくは万人が認めるところであろうが、これを言ったら本当に熱狂的なファンの怒りをかってしまうかもしれないが、クラッシュにおけるPaul Simnon的な存在というか、なんというか、ルックス担当だったのではないか!? 
 言ってしまった。

 ”1st”にしてからすでにギターの主導権を握っているのは間違いなくKeithであろう。聴けばわかる。
 例えば”Rout 66”では、Keithがあのチャッチャラ チャーララのリフを刻み、Brianはチャックべリー的な5,6弦のリフを弾いている。印象に残るのは当然前者である。

ケースC 
・Their Satanic Majestie‘s Request
・Between the Buttons
・Steel Wheels

 サイケデリック!と言っているのである。60年代のあだ花文化であったサイケデリック時代のストーンズが最高!と主張しているのである。声高に。   
 しかし本当にこれを最高だと思っているのか?これらのアルバムにはSatisfactionもJumping Jack FlashもBrown Sugarも、入っていないのだぞ。それでいいのか?"魔王賛歌"とか"魔王賛歌Pt.2"とか、"Miss Amanda Jones"とかで、本当にいいのか。
 確かに個人的には”Satanic~”のやりすぎてしまったトリップ感に惹かれるものはある。が、それにしても、それならば”1st”と”Let It Bleed” の間に紛れ込ませるくらいの配慮は欲しい。サイケ時代にストーンズの神髄はないのである。受け狙いすぎである。「思想」を出しすぎである。
 ちなみに”Steel Wheel”を選んだのは「Continental DriftにBrianの影を見た」かなんか言いたいのであろう。
 だがもはやGlyn Johnsが暴露してしまったようにジャジョウカでのモロッコ音楽をフィールドレコーディングしたのはGlyn Johnsであるということがわかってしまっているのである。Brianはいつもの通りらりって宿泊先の電話機を壊すなどして厄介者扱いだったとか。
 諸君、幻想は捨てようではないか!

ケースD
・Love you Live
・Get yer ya ya’s out
・Still Life

 イエイ!つーか、ストーンズはライブ最高っしょ!である。
 それはそうである。すごいときのストーンズは、ひたすらうねり、際限なくグルーブし、グルーブは高速化し、見たことのない世界をあなたに見せるだろう!だから3枚ともライブ盤で決める気持ちは良く分かる。
 私もストーンズ初体験は”Get~”で、最初は全く分からなかったものの、聴くほどに徐々に毒されていく感じがたまらなかったものだ。”Love you Live”もリアルタイムで聴き狂ったものだ。オリーEブラウンがパーカッションで加わっていてリズムがヘビーで、曲によってはアンサンブルは崩壊寸前で、実にスリリング!(ものは言いようである)。
 ちなみにSACDの臨場感は異常な生々しさ。
 ”Still~”だって大学の時に、「地味になったな~」と思いながらも結構聴きまくってたのである。
 しかし、ストーンズのライブの最高峰といえば、NHKヤングミュージックショーで放送された1976年のパリライブにとどめを刺すのだ。
 ”Love you~”は同時期のライブではあるのだが、やばさにおいてやや引けを取ると思う。それはあの映像が欠けているからではないか。
 いや、これを言ったらしまいなのだが、私自身あの映像を見なかったら多分その後のストーンズへののめり込み方は相当違ったような気がする。特にファッション!ロンのお披露目ツアーだったわけだが、キースとともにカッコよすぎるそのセンス!
 そしてゼマティスのどくろ印のギターであの音を弾きまくるキースはここだけで見られるのである!
 難癖をつけるなと言いたい奴は言えばよい!NHKヤングミュージックショーの1976年パリライブこそが最高なのだ!ふん!

ケースE
・Dirty Work
・Bridge to Babylon
・Goat’s Head Soap

 おまえは誰だという感じである。これらのどこにお前の好きなストーンズがいるのかという話である。外そう外そうとして、その人格すら想像できない有様になっているのである。やはりこれはやりすぎで、おいおい本音を聞かせろよと言いたい。
「いや、”Dirty Work"はミックの不在をKeithの頑張りでカバーした傑作だと思うよ。アップテンポの曲も多いし、気合入りまくりだよ」
  しかし曲の出来が今ひとつだし。これは”Talk is cheap”以外のKeithのソロワークに通じるような・・・。
「へえ、お前はKeithが嫌いなんだ」
 ではなくて、Mickとのコラボレーションがないと、マジックが生まれないというか。しかし、2位に”Bridge to Babylon”って。
「俺的にはいぶし銀って感じかな。何度聞いても飽きないこの味わい(本当は2回しか聴いていない)」
 飽きないというか、メロディーが平坦・・・。
「じゃあ3位の”Goat’s Head Soap”はどうよ。大傑作"Angieをはじめ、ハード且つファンキーなHeartbreaker、まさにR&RのSilver Train、Star Starとか、もろにストーンズイメージの名曲だぜ!」
 個々の曲は悪くないが全体に散漫なイメージが残ってしまう。彼らのキャリアの中で息抜きのような位置づけでは?
 次作が一気に開き直ったような”It’s Only R&R”だけど、まだ新しい方向性を模索しているような中途半端さが透けて見えるんだよね。典型的なストーンズスタイルを踏襲する曲の間にニューソウル風の新機軸を試す、といったような。
 ところでお前は無人島にストーンズのアルバム3枚だけ持っていくとしたら、この3枚なのか?
「なわけねーだろ!」

 それではお待たせいたしました。私の選んだザ・ローリング・ストーンズ・アルバム・ベスト3を発表します。
・Rolling Stones in Concert Max20
・Discover Stones
・Gathers No Moss

 これで決まりである!
 1は日本編集盤で”Got Live if you want it!”と”Get yer ya ya’s out”(以下Got~とGet~)を1枚のLPのAB面にカップリングした日本独自編集盤で、高校の時に買って聞きまくった。
 収録時間の都合上、”Get~”からMidnight RamblerとLittle Queenieをカットしてあり、私がその2曲を聴くのは大学3年ごろのことだった。
 まずは”Got~”。とにかく熱いのである!1曲目のUnder My Thumbからハイスピードで飛ばす!2曲目の一人ぼっちの世界もスタジオヴァージョンの倍くらいのスピードで飛ばしまくり、チャーリーのバックビートがオンビートになったような印象すら受ける。で、せこなスタジオ録音の没曲に歓声をかぶせるなどやりたい放題。
 後半はSatidactionのリフであおっておいて実はLast Timeといった子供だましから始まって、終盤のSatisfaction~Mother in the Shadow、あ、逆だMother in the Shadow~Satisfactionへと怒涛のように突き進んで行く!
 「演奏は決してうまいとは言えないが」などとよく言われるが、いや、上手いよ。これ以上上手くなる必要ないくらいうまい!つまりここでのストーンズはガレージパンクとしては最上級で、この楽曲にはベストな演奏ということ。ガリゴリと掻き鳴らすNot Fade Awayのギターリフ!腹からシャウトしているボーカル!トップシンバルを叩きまくり焦燥感をあおるドラム!疾走感とはまさにこのことだろう。
 うまいといったが、特にうまいのはチャーリーワッツのドラムだろう。見事なリズムキープで演奏を暴走の一歩手前で演奏として成り立たせているのだ。
 一方”Get~”は、「余裕」である。チャックベリーのキャロルを2曲目に持ってくるなど、ロックの新しい流れ(ハードロック、プログレッシブロック)などどこ吹く風という感じで、マイペースで行く。Stray Cats BluesはスタジオヴァージョンをさらにBPMを落とし、じわじわとしたグルーブで迫る。スタジオではエンディングのKeithのリズムギターが冴えわたっていたのだがライブではあっさりとそれを捨てて、新顔ミックテイラーのクラプトンもかくやというほど流麗なギターに置き換える。「ストーンズ、変わったんだ」と、オーディエンスは痛感する。
 Little Queenieが端折られたのは痛いが、それは後で思ったことで、Sympathy~Live with me~Honky~Street Fighting Menと続く流れと、オーラスでの盛り上がりはまさに鳥肌物で、たかがロックでここまで行ける!という金字塔のようなアルバムである。
 この2作品が1枚に収録されているのだ。言うことないではないか!

 2のディスカバーストーンズは日本独自編集で、あまり有名でない曲の寄せ集め盤だが、いぶし銀のようなストーンズを堪能できる。Bye Bye Johnnyとか、Poison Ivyとか、Moneyとか、この編集盤で聴いて、初期ストーンズの、というよりは1stアルバムリリース以前のストーンズの荒々しさ、ガレージ度の高さを初めて知ったのだ。ジャケットはExile~のフォトセッション時の写真がカラーになっている。これまたかっこよろしい。

 3のGathers No Mossは日本独自編集で、まずジャケットがかっこいい!というか当時は日本では未発表だった、December’s Childrenのジャケをセピア色に加工しているもの。かっこよくて当たり前なのだ。これは未発表曲、別テイク集ということで、いつか買おう買おうと思いながらも、オリジナルアルバムを優先して買っていたためなかなか買えず、いまだに買っていない。

 大変失礼しました。

追記
「Brianが生きていたらEnoのような存在になっていたかもしれない」と言った山名昇氏に賛同します。


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