殺人出産

村田沙耶香さんの小説、「殺人出産」を読んだ。恋愛を経ての妊娠、出産という概念が消えつつあり、人工での妊娠がスタンダードとなった世界の話。10人出産した人は1人の人を殺める権利が得られる設定。その権利を得るために出産をし続ける人のことを「産み人」と呼ぶ。
主人公の姉も「産み人」である。彼女は幼いころから破壊衝動に駆られることが多く、その衝動に動かされるように産み人となった。最終的には面識もあまりない人を殺したことからも、相手は誰でも良かったのだろう。
この本には表題作以外にも、3人での恋人関係が一般となっている「トリプル」、性行為をせずに妊娠する価値観の「清潔な結婚」、医療技術が発達して自然死の概念が消滅し、死期を自ら選択できるようになった「余命」が収録されている。
どの作品にも共通して言えることは、今ある価値観を疑う視点で世界が描かれている点だと感じた。恋愛での妊娠出産や2人での恋愛など、日ごろ当たり前と感じている価値観が揺らぐような体験が大きな魅力なのだろうと思う。突拍子もないお話と一蹴することは簡単かもしれないが、あり得たかもしれない世界の話として読むと視野が広がるし、面白いなと感じた。

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