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第一章 第八話 目覚め始める者たち

「‥‥‥ここは? 誰か‥‥‥誰かおらぬか?」
(一体何が起きたのだ‥‥‥思い出せんが、この道は確か‥‥‥
館への道だ)

アイアス・レガは自分が倒れていた方向から、館に向かって
いた事は分かったが、理由は思い出せずにいた。

背後を見ると2名の兵士が倒れていたので、駆け寄って脈を取って
生きている事だけを確認した。
そして頬を叩いて起こそうとしたが、意識は戻らず、どうするべきか
状況から思案した。

三人ともが館に向かっていたと言う事は、館に答えがあると考えるのが
妥当であるとレガは即断して、二人を木を背にして楽な姿勢にさせた。

そして一人で館まで駆け出したが、すぐに足を止めた。
振り返って二人の位置を確認したが、明らかにおかしいと感じた。
身体にグッと力をめると、自分自身が感じた事の無い
確かな強さがみなぎっていることに気づいた。

森の木々の枝が重なり合って暗くなってはいたが、まだ0時を過ぎて
夜明けまで時間があるはずなのに、明るい光が射していた。
レガは木々を伝って行き、天の見える木の上まで登ると、唖然とした。

果てしなく見えるその先まで、雲が一直線に割れて、その裂け目から
天使と思しき大軍勢と、大地の方から溢れ出ている悪魔たちであろう
ものたちが、まるで小さな火花が散っていく、大きな花火のように、
空中での戦いを目にした。そして視線をゆっくりとこちらまで来ている
所まで視線を流した。

レガはすぐに木から一足で飛び降りて、目で追ううちに自らの上空でも
戦いが起きていた事に気づいたが、運良く多少のズレがあった事と、
闇に紛れる黒い鎧のお陰で助かったのだと、どっと疲れが一気に来る
ように荒々しい息を吐いていた。

レガはその様子を見て、記憶が蘇るように思い出した。
主が言っていた❝何か❞が起きた時に報告をしろと命じられていた
から、館へ向かっていたのだと理解した。

彼はすぐに地面まで飛びた事に、そこでも違和感を感じた。
何故自分は飛び降りれると自然に思えたのかが、
不思議で仕方が無かった。一足で飛び降りる様は主そのもので
あったが、自分が地面まで下りるまでには、この木でも途中で
枝を介さなければ無理なはずであったが、平然とそれができていた。

しかし、自分が取った行動は当たり前のように、
不自然を感じさせずに、軽々と飛び降りた。

彼がその意味を探ろうとしていた時、突如として
上空からまばゆい光が放たれてきて、
レガは木々の間を蛇のような動きで、闇の中へと
身を隠して、夜目で様子を探った。

そこには大きな天使と、見るからに邪悪な翼を有する悪魔らしき
ものが戦っていた。レガは不安から自分の位置を確かめて、
ここから脱して館にいく為に、木を背にして見つからないように
して、天空へと視線を投げるように送った。

どこまでも続く途絶える事のない一閃の光は、僅かに館から
ズレているのを確認して、安堵からのため息をもらした。
しかし、その安心感もすぐに崩れ去った。

天使の事は見えている位置が、その輝く光から特定する事は
可能であったが、悪魔は自分たちのように闇に紛れることが
できる事は、目視で届く距離にいる魔物から奴らの方が
遥かに厄介だと知り得てゾクゾクッっと鳥肌がたつと共に、
即座に思い立った。

意識を失っていた部下の元へ警戒しながらも、最速で彼らの
いる場所に向かうと、そこには何かがいた。

レガは黒刀を素早く抜きながら駆けると、
まずはサッと手を切り落とし、返し刀で頭部であろう部分に
斬りつけた。獣のような叫びを上げたが、死にはしなかった。

もう一太刀浴びせようしたが、横から何かが来たため、
後ろに一歩飛ぶように退くと、魔の者だとすぐに悟った。
凝視するまなこを背けたかったが、力がこみ上げて
くるのを感じて、目にも見えない速度で一刀両断して見せた。

しかも二匹同時に胴から上が滑り落ちるように、地面に落ちた。
それでも泣き叫ぶような金切り声を上げているのを見て、
仲間を呼んでいる可能性がある見て、頭部を完全に斬り裂いたら
静かになった。

レガは仲間に目を向けたが、一人は酷い有様で誰だか分からない
まで喰い殺されていた。もう一人のラグアはまだ息はあったが、
助からない事は明白だった。

はらわたから食われ、胴から下はそこら中に肉片として
飛び散っていた。ラグアは何かを言おうとしていたので、耳を
口元に近づけて最期の言葉を聞き取った。

その言葉は謝罪の言葉であった。真の戦士だとレガは思い、
彼にその事を告げようとしたが、すでに息絶えていた。

レガは意識さえ戻っていればと思ったが、己も危険な状況だと
判断し、その場を後にした。見慣れた森の中を疾走する中、
己の主は一歩、二歩先を行っている場合、大抵は危険な時だと
知っていた。

つまりは予測済みで行動しているという事に、繋がりを見せて
いることを意味していた。

同刻、突然、気を失っていた人々が目を覚まし出していた。
手が悪かったものは、手が自由自在に動かせるようになり、
視力の悪かったものは、ハッキリと世界が見えるようになっていた。

そして最早、夜とは思えない程の天使が夜空を明るくしていたせいで、
これは神々の慈悲だと思う人達も大勢いた。

しかし、中にはリュウガと同じように、気を失わずにいる者たちも
いた。そういった人物や動物たちは、誰よりも何よりも早く力が
増すのを体感できるほど、強くなっていた。


そしてリュウガは装備が入れられたケースに悪戦苦闘していた。
最初は丁寧に開けようとしたが、何かでくっついているかの
ように全く開けなかったので、先ほどのようにガラスを割って
取ろうとしたが、力を以てしても開けられず苛立ちを覚えていた。

リュウガはこれには何か理由があるはずだと思い、
再び流威の本を鞄から取り出して、まだ読んでいない4巻か5巻
のうち、もし自分が書くならと、5巻を手にして読み始めた。

流し読みをしながら、これに関係のある文字を探していた。
そして、目を引く文字が200ページ程の所に書かれていた。

「目覚めし者よ。我らはエルドール王国により、一族を再び
繁栄させる事が出来るように取り計らってくれた。
いつの日か天魔の戦いは必ず起こる。
その時、エルドール王国に恩返しをする者が領主である事を
願って、特殊な合金で長年をかけて作らせた防具、黒衣、武器
を選ばれし者のために残す。この領土では天魔の戦いを目に
した者は誰一人としていなかった。
しかし、奴らは必ずやって来る。証を持つ者に共鳴するように
創らせた。真の勇気ある者が身につけるに相応しい証と、
ケースの中にあるものが共鳴すれば、
ケースは自然と崩れる仕掛けを施した。
私たちは平穏に過ごせたが、技を磨き、それを受け継ぎ、
世界の助けとならん事を祈っている。
我らの真の力を身につけて、奴らに我らの存在を思い出させて
くれることを、名も知らぬ我が血を引く末裔に我が願いを託す
とする。その装備は強き者が使えば最強の力を発する。
我が想いの後継者となり、世界を守ってくれる事を託す」

特別なものである事は分かったが、証とは強さの事では
ないようだと彼は気づいた。
そして半信半疑ではあったが、左腕につけている黄金の腕輪
かざして近づけてみた。
何も起きないため、馬鹿馬鹿しいと思いながら腕を引こうと
したが、耳には聞こえないが、確かに波長のようなものを
感じ出していた。

そのまま試しに翳していると、ガラスが振動を受けるように
小刻みに震えはじめると細やかな砂シルトほどのもの
となって、ガラスは粉々になった。

リュウガは細工師に後で尋ねるとして、大振りな黒い曲刀を
手に取った。片刃の柄の近くには刻みが入っていて、
恐らくは刀で受けた時に、この刻みを利用して相手の武器を
無効化するものだとリュウガは思った。

そして自分の愛刀を抜き、比べてみると圧倒的に軽い合金で
あったが、武器を扱い慣れていたからこそ、すぐに感じること
ができた。
長年使ってきた愛刀も、鍛冶屋の自慢の一品であったが、
羽のように軽くて、刃の反対の反り返りの部分には、5つの
円形の金属がついていた。上から順に大きさが変わっていて、
用途に関してはすぐに分かった。

相手が剣の場合ならこの円形の中に通して、折るなり奪う
事も容易く出来ると思った。あらゆる局面に対して対抗でき、
扱う者次第にはなるが、武器にも防具にもなる素晴らしい
一品だった。

リュウガは試し斬りに選んだモノは、重戦士用の重たいが
硬さでは比類無きものを選ぶと、鞘に納めてから斬る事の
困難な角度から斬りつけた。斜め下から上に向けて刃を
抜いたが、抜いた実感も、斬った感覚もほとんど感じられない
ほどのものであったが、確かに斬っていた。

その斬り口は何度見ても、見本としても充分に通用するほどの
ものであった。見事なまでの斬れ味に暫くの間、見惚れるほど
見事なものであった。

大きな刀であったので、邪魔になるかと思ったが、相手によって
用途が変えれる事が出来るものだと、手にしてから気づいた。
実に1人から多数を相手にする実戦向けの刀であるとして、
鍛練は落ち着いてからにするとして、防具に関しても金属では
無いが、非常に伸縮性の高い素材で出来ており、本来は固いもの
が材質として使われていたが、編み込む事により防具としての
機能を果たしていた。

黒衣は非常に軽いもので、刀と同じものが使われているのか羽の
ように軽かったが、即座に身を包めるように、一番外側は二重に
織り込むことによって、重りに近い役割を担っていた。

それらを丹念に調べた後、本にも書かれていた苦無くないという
投げナイフに近い形状をしていたが、先端はナイフより鋭く、突きに
関して非常に効果のあるものだと思った。

ナイフの場合は突きと斬ることも可能にした、あくまでも、小太刀の
用途に近いものであったが、苦無の場合はナイフと違い、先端は鋭く
一点集中の形をしている事から、投げに対しての効果を強め、頑強さ
を強くするためか、中央部分は厚みがあった。

そして諸刃の形状から、ナイフと同じように斬る事も可能にしていたが、
中央の部分は盛り上がるように、なっているのは受けが主体では無く、
受け流すことを可能にしていた。

受け流しから即座に投げに転ずる事や、斬る事に転ずることができる
形状になっていた。

リュウガは本に目をあてながら、装備に関する確認をしていき、
元の装備から新たな装備を身につけていった。
新たな大きな愛刀は背中につけて、守りの効果も強めて、
これまで使い続けてきた愛刀は帯刀することによって、
咄嗟にも対応できるものとした。

彼は全ての装備をつけながら思っていた。
以前の装備よりも遥かに軽く、そして守りへの力も強い、
実際に遥かに強い敵と闘った流威だからこそ、この装備は
完成したのだと、流威の思いを胸に込めて、本を入れた
鞄と新たなる装備を身につけた戦士は館を後にした。

彼はまず医療室に向かった。
さすがにもう起きてるだろうと思いながら足を運んだ。
室内に入ると、誰もが目覚めてはいたが、リュウガを
見たサツキは立ち上がろうとしたが、掌を以て座って
いるよう制した。

「大丈夫か?」
リュウガはサツキの近くに行き様子を尋ねた。
「何とか‥‥‥リュウガ様は大丈夫なのですか?」

「少し頭がくらっとしたが、問題ない」

「いえ‥‥‥わたしがお尋ねしたのは毒のことです。
あれは猛毒でした‥‥‥治療なさったのですか?」

リュウガはサツキに問われて、思い出した。
確かに毒を盛られた事を。

「ああ。お前たちのお陰で助かった。今はお前たち
がゆっくり休んでおけ」

サツキを横に寝かせて、薄い生地の毛布をかけて
休むよう伝えた。
「ありがとうございます」そういうと目を閉じて
浅い息を立てていた。

「アツキ。お前も今のうちに休んでおけ」

壁を背にして座っていたアツキはリュウガに尋ねた。
「一体、何事ですか?」

その問いにリュウガ自身も目で見た訳では無かった
が、明らかに流威の本と似ている状況にある事から、
知っていることを話した。

「俺も実際見た訳では無いが、天魔の戦いが始まった
可能性がある。あくまでも予測の範囲内だ」

アツキは眉間にシワを寄せて、信じられない顔つきを
見せていた。

ギデオンも近くにいたので、その話を聞いて驚いていた。

「もしもの時には、我らの出番になる。だから今のうちに
休んでおけ。予想通りなら嫌でも戦いになる」

それはギデオンに向けての言葉でもあった。

「俺は外の様子を見て来る。ここは地下だから安全だと
思うが、レガに何か異変を感じたら報告するよう伝えて
いるが、お前たち同様、気絶した可能性がある。
ギデオンも気絶したなら、有り得ることだ。
いいな? ここで休んでおくんだ。すぐに戻る」

「分かりました。お気をつけて‥‥‥」
アツキもそのまま目を閉じてすぐに寝息を立て始めた。

「ギデオン。まだ実際の所は分からんが、恐らく言った
通りの事が起きたと思われる。お前は隊長だ。どうすべき
か考えておけ」

それだけ告げると、リュウガは上に上がって行った。

酒も飲んでいたせいでか、誰もが眠りについていた。

彼は外へ出る扉を開けると、明るい夜空がそこにはあった。


次回予告 第一章 第九話 コシローの恐るべき謎の力



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