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第一章 第五話 ロバート王の秘策

「どうかされましたか?」
オリバーは彼女の表情を見て尋ねた。

「あなた方が敵ではなく、味方であることに
私たちの祖先に感謝しているだけです」
アビゲイルは何かを悟ったような表情を見せていた。

その安堵した柔らかくなったような笑みから
男は理解を示した。

「伝承をお読みになったのですね」

「八百年前の王であったロバート三世が
あなた方の領主である流威さまとの条約を拝見しました。
両人とも素晴らしい方のようでした。
一体いつから今のような関係になってしまったのでしょうか」
女国防隊長は立場を忘れ、本心からかしおらしくいった。

「この戦で我々のチカラを、世界は知ることになるでしょう。
平和すぎると人は弱くなります。
戦いを忘れ、此度のように自国の戦いでさえ、他人任せに
なるほどの年月が経ってしまったのではないでしょうか。
我らの主は実に尊敬に値する人物です。
大変な苦労の末に手に入れた技を発揮するよりも、主である
事を忘れずに高みから状況を見ておいででいらっしゃるのは
容易に出来る事ではありません」

黒衣の強者はドークスの陣営に指をさした。

「あれをご覧ください。あの様では立て直すことは
不可能でしょう。兵士の数はまだいますが、
大将があれでは話になりません。
士気も下がり、撤退すれば
二度と攻めてくることはないでしょう。
我々は幸運にも戦で殺しの技を振るう機会を得ましたが、
力が世界に示された今では、我らの世代や後世は当分の間
チカラを振るうことなく、人生を終えるでしょう。
再び厳しい鍛錬をして、それを伝承してゆく日々が
我々には待っています」

強者は大きく一呼吸して、ため息のように長い息を吐いた。

「アビゲイルさんはこの地で暮らすのがよいでしょう。
それほどに過酷な修業に耐えた者は多くはありません。
ここ二日程度の戦いぶり程度なら、
刃黒流術を極められなかった戦士でも全員の者が出来ます。
技を修めて、極め、そこまで鍛錬しても、
刃黒流術衆を体得することを諦める者も少なくありません」

オリバーは現実である実情を話した。
それは口数の少ない彼にとっては非常に珍しい事であった。

「すぐ傍に我らはいます。我らがいる限り、
エルドールが戦火に巻き込まれることはありません」

アビゲイルは目を閉じて、
大きく息を吸って大きく息を吐いた。
それは何かを考えていた答えを得たようにも見えた。

「ありがとうございます。今はまだこの地に留まり、
生きていきます。また考えが変わるかもしれませんが、
そのときはよろしくお願いします」

女騎士は傍らにいるオリバーを見上げていった。

「戦がなくても、ご用命があればいつでもご連絡ください。
これでも私は千人隊長ですので暇は作れます」

オリバーは笑顔でいった。

「匂い袋を渡しておきましょう」

男が差し出した匂い袋は、伝書鳩に嗅がせると
その地特有の場所まで行かせることの出来るものだった。

アビゲイルは手渡された匂い袋を嗅いでみた。
穢れのない気持ちの良い、緑芽吹く森の匂いがした。
 
そして遠方の敵陣営から白旗を掲げた一騎の使者が見えた。
彼女は風ではためく白い旗をしばらく眺めていた。
笑みを忘れたかのように、彼女の目は悲しそうに見えた。

「停戦の使者ですね‥‥‥」
喜ぶべき使者が近づくにつれて、
アビゲイルの心は哀愁に満ちていくのを感じていた。

「そのようですな。脱走兵も少なからず出たかと思います」
二人は城壁に並び、無言で同じ風景を共有した。

「今夜は勝利のお祝いをするよう伝えます。ご馳走を出すように」
アビゲイルは気持ちを切り替え、
若さ溢れる雲一つない青空の晴れた太陽のように眩しい笑顔で、
オリバーを見上げて伝えた。

たった三日の滞在であったが、アビゲイルとオリバーは
何かしらの気持ちで繋がっていた。
それは間違いなく二人の想いは同じだった。
互いにそれを理解していたが言葉には出さず、
また再び会うことがあれば、
その時は心ゆくまで話したいと二人は心の中で思っていた。

停戦が決まり、黒装束のものたちは四日目の早朝に、
帰り支度をしていた。
関所に預けていた馬にまたがり、
三百騎の乱れのない隊列の先頭にオリバーはいた。

西関門の兵士たちは内側に向け勢揃いして、
中央を通り抜けるかれらに敬礼して敬意を表した。
「お元気で! 王には私から戦果を伝えておきます」
国境である関門の上から彼女は叫んだ。

「よろしくお願いします。あなたが幸せであらんことを
願っております」
オリバーは関所の影に身があり、容易に上を見上げることが
できたので、アビゲイルの目をしっかりと見て返答した。

そしてお互いに優しさがにじみ出るような笑顔で相槌をうった。

「いくぞ!」
オリバーが馬の速度を上げて、
関門を通過し黒装束たちはそれに続いた。

彼は振り返ることなく、大きな背中の姿が見えなくなっても
アビゲイルは見つめ続けていた。

それ日から10日余りが過ぎた頃、彼女は伝書鳩に心休まる
緑の香りを放つ小袋を取り付けると、青空に向けて飛ばした。

そして彼女の見つめる方向へ羽ばたいていくのをじっと
見つめながら、自分自身も大きく羽ばたくと心に誓った。


リュウガは時の経過も忘れる程、
流威が書いた本を読み続けていた。
三冊目まで一気に読み終えると、
ふーっと一息をつくような息を吐いて、
それまでの内容を頭の中でまとめ始めた。

(流威も書いていたが、この❝神の遺伝子❞が
勝敗の決め手になるのは分かったが、
含有率が神々にも分からないのが問題でもあるが、
分からない事が俺たちにとっては有利とも言える。
この融合さえしなければ、問題は無いが
天使と悪魔の戦いだが、戦場はこの世界になるのは
避けたいところだが、それは無理なようだ。
それよりも驚いたのは人類以外を味方にするか、
上手くぶつけるように動くのが重要になるな。
状況はだいたい飲み込めたが、
現実的に考えるとこの地は捨てて、
ロバート王と民たちを連れて
イストリア王国に行くのがいいだろう。
エルドール王国もここも守りに適してるとは言えないが、
イストリアなら守りを固めて、特殊能力者たちにもよるが
少なくとも俺たちは充分な力が発揮できるし、
ミーシャの心配もせずに済む。
問題は人間たちが合意するかどうかも問題になるが、
敵対国に期待するだけ徒労に終わるだろうから、
まずは現実的に可能な事から始めるべきだな。
しかし、考えていたよりもずっと難解ことだらけだな。
神の遺伝子が50%のあるモノが全てを握る事になる。
俺たちの手で必ず探し出してやる)

リュウガは自分の基礎的な能力が上がりつつあるのを
実感しながら、流威の本だけを革製の鞄に詰めていった。
行ったことはなかったが、このホワイトホルンには
❝高閣賢楼❞という、この大地が誕生してから
全ての歴史書、文献を収めている場所があると聞いた
ことがあった。
そこには常に番人が守っていて、その周辺へは
軍勢が通ることも、侵攻や戦いを起こしては
ならない決まりがあると、
ロバート王から聞いたことがあった。

しかし、流威の本までは無いだろうと思い、
流威やその後の領主たちが書き残した本は
ないであろうと考え、一族の本だけを
入れていき、今度は装備を宝物庫に取りに行こうとした時、
ふと円卓から両開きの扉を見た時に思い出した。

流威の血文字の文献を取ろうとした時に、
当て身程度の弱い拳を当ててヒビ割れを
作ろうとしただけだったが、
ガラスは塵のようになって吹き飛んだ。
あの時から1時間近くは経っていた。

リュウガは鞄を机の上に置いて、左手に力を込めた。
それだけで一瞬の躊躇ちゅうちょが生まれた。
放つ前からこれまでに感じた事の無い力が
みなぎるのを感じたからだった。

実戦のような構えにして、
接近してから拳を打ち込もうとした。

距離にして10歩ほどはある扉を敵に見立てて、
イメージをして跳躍した――――――氷上を最速で
滑るような感覚で一気に
扉まで遥かに予想に反して接近していた。

拳の距離としては近づきすぎているのを瞬時に見切り、
ギリギリの位置から半回転を加えて両手を交差させ、
体を横向きにして掌底を左右の扉に対して、
右左の掌を打ち込んだ。

手が当たった瞬間、爆発的な威力で扉は小さな木片
となって吹き飛んでいった。
リュウガはそのまま暫く思考が止まったように、
動きの速さと、威力の恐ろしさに驚嘆していた。

それと同時に流威が書いていた本の事を思い出していた。
彼の父と祖父は神々の中でも海の支配者である
リヴァイアサンとの戦いに於いて、流威の祖父は敗北は
したが、手傷を負わせたと書かれていた。

自らの手を見つめながら、何となくではあったが、
己の力が身体の中から込み上げてくるような不思議な
感覚を覚えた。そしてその上昇していく何かが身体の
中に沁み込むようにしていく様が連続しているようで
あった。

それが繰り返され続けている事に対して、自分の力と
なる事に冷ややかな汗が出ていた。
これはまだ序盤に過ぎないと考えるだけで、
祖先に対して多大なる敬意を払った。

いくら列島諸国だったとは言え、個である人間が、
神々の中でも得意な領域にいるのを知りながら
攻勢に出るには、勇気とは軽々し過ぎるものだと
悟った。

ただ、人間であっても天使や神々、悪に染まった
神々たちはお互いの強さは感じ取れないのは救い
であると言えた。

しかし、力を感じ取る能力者の事も書かれていた
事から、絶対的と言えるものではない事から、
用心は必要不可欠だと強く思った。

そして、まだ初期症状だけでこれほどまでとはと、
驚きを隠せずにいた。
流威の本には特殊能力者には大きく分けて2種類
に別れているとあった。

身体上昇系が大半を占めるが、中にはそれが特殊能力
の場合もあると。
そして特殊能力を覚える者の特徴は、まず身体上昇が
完全に上がり切った後に、性格や思想、戦い方等に
よる影響が特殊能力に大きく関わるとあった。

特に❝神の高遺伝子❞を持つ者の場合は、特殊能力自体
も特殊で、あらゆる要素から目覚めるので、全く同じ
能力者はいなかったと書いてあった。

流威の祖父である│秋煉《しゅうれん》も、
父の│海厳《かげん》も特殊能力者でありながら、
身体能力の資質も異常なまでに高かった。

そして二人ともが、一族の中でも最強だと言われて
いた程で、流威も特殊能力者ではあったが、身体能力
だけが高い者であっても、特殊能力の方が必ず強い
訳では無いとあった。

リュウガは己が吹き飛ばした分厚い扉に目を向けた。
完全に大きな穴が開いた状態で、掌底を打ち込んだ
周辺も吹き飛んでいたのを見て、油断という文字を
彼は自身の脳裏から排除した。

そして、完全に忘れていた事を思い出して、
宝物庫まで駆けて行った。頑丈な錠前がついていたが、
力を込めてグッと引くと、脆い粘土のように簡単に
引き千切る事が出来た。

そして中に入ると、金銀財宝が山のように積まれている
中を素通りして一番奥まで進んだ。

自分自身、一番奥まで来た事は無かったが、もしもに
備えて流威が名匠に創らせた装備がガラスのケースの
中に掛けられていた。

各所の防具、フード付きマント、そして見た事も無い
形状をした通常よりも大きな黒刀、そしてリュウガは
実物を初めて見たが、本に書いてあった投げナイフよりも
多様性に優れた黒刀と同じ材質で出来た多数の苦無と
呼ばれるものが、鋼の糸のようなものに通されていた。
その数はざっと見ただけでも30本以上あった。

リュウガは流威が再び天魔大戦がいつか起こると
予想して、一族の無念を晴らす為に、激闘の中を
生き抜いた名匠だからこそ創れる装備を一式創らせていた。

彼はそれを見つめて、心の中ではこれでミーシャを守れる
と思っていた。今度はケースを破壊した場合、速度のある
ガラスの破片で傷が出来ないように慎重にケースに手を
かけた。


リュウガが15歳の頃、イストリア王国の王女である
ミーシャ・ゴードンの11歳の誕生祝いの招待状が
ロバート王に届けられた。

ロバートはこれを機にと思い、イストリア王国の王
アレックスに連絡を取り、ある策を思いついた。
その話にアレックスも同調し、ロバートが動く事になった。

一人は領主であるオーサイ、そしてもう一人は
オーサイの息子であるリュウガに同じ手紙を届けさせた。
リュウガは手紙を読むとサツキを呼んだ。

「ご用命でしょうか?」サツキが彼の部屋へきた。
「ああ。つい先ほどエルドールのロバート王から要請があった」
「どのような要請でしょうか?」サツキは尋ねた。

「エルドールの友好国であるイストリア王国のお姫さんの
誕生日らしいから、顔合わせも兼ねて、俺たち刃黒流術衆にも
来てほしいらしいって内容だ」青年は手紙をサツキに手渡した。

「イストリア王国の情報はよく耳にしますが、
非常に民にも優しく城塞都市としても大陸で一、二を争う
規模のようです。王子と王女は双子らしいですから、
姫君の誕生日というのは変ですね。王子も誕生日になりますので」

「そうなのか、さすがだな。サツキは世界情勢に
詳しいから助かるよ」
二人とも不思議な顏を見せた。

「手紙は若様に直接きたのですか?」
サツキは尋ねた。

「そうなんだ。そこが何故なのか不思議だったんだが、
王子も誕生日なら尚更よくわからんな。
まあ領主に届けても、結局行くのは俺になるのは
明らかだとしても、うちの領主じゃなくて、
俺に直接使者がきたと知れたら、ロバート王と
うちの馬鹿領主との間に火種がうまれるのは明白だ。
ロバート王ならそれくらいの事は、分かっているはずだ」

青年は思案したが、明確なこたえには至らずにいた。

「無断で出発するべきか、
一言いうべきかどちらがいいと思う?」
王の子は意見を求めた。

サツキは即答できなかったが、
一呼吸程度のあとに苦笑いを交えて答えた。

「イストリアまでは距離があります。
急を要する要件でもありませんし、
王の様子を見てからでも問題はないと思います。
しかしロバート王の真意はわかりかねますね‥‥‥」

「俺にもわからない事は色々あるさ。
バレてないだけで知らないことだらけさ。
俺とサツキは同じ歳だし、サツキがわからないなら
俺にも分からないよ」若者は笑いながらいった。

「なかなか手強い謎かけみたいだ。
あー、‥‥‥なるほどな。見えてきたぞ。
そういうことか」
彼はしばらく考え込むと、何かに気づいた。

「何かお分かりになられたので?」

「いや、王子も誕生日という話さ。
その話には一切触れてない。
サツキの答えが真の答えだと気づいたよ。
なるほどな。ありがとう」
十五歳の若者は、笑みを浮かべていった。

サツキはきょとんとした表情で、思案を巡らせていた。

「うちの親父殿はプライドだけは高いが、
はっきり言って無能だ。ロバート王の立場上、
領主にも手紙を出さないと、
後々色々面倒な事になってくる。
今、俺と領主の不仲が表立つのはまずい」

サツキはハッキリとは理解できないまま話を聞いていた。

「まだ親父殿が何も言ってこないところをみると、
頭の悪い母が何か悪巧みでも
巡らせているのかもしれない。
イストリア王国は南部では、一番力を持った大国だ。
あの母親なら、俺に行かせたくないはずだ」

サツキにも色々見えてきて、謎が解けだした顏を見せた。
言い終わりごろに扉を叩く音が聞こえた。

「はいれ」

「ロバート王の使いが参りました。
イストリア王国の王女さまの生誕祭が
行われるので刃黒流術衆の名代として、
イストリアに祝いの品と生誕の言上を
お伝えするようにとのことです」

王の近衛兵の態度から、リュウガに手紙が来たことは
やはり内密なのだと察した。

「わかった。下がっていいぞ」近衛兵は一礼して出て行った。
「すでにロバート王と側近は、
うちの親父殿に愛想を尽かしたらしいな。
イストリア王国は確か南東だったよな」

「サツキも一緒にきてくれ。兄のアツキにも来るよう伝えてくれ。
あまり目立ちたくないし、後三名の内、二人は女の手練れを
連れていこう。人選はサツキに任せる」

「わかりました」

「しかし、ロバート王はなかなかのやり手だな。
思い通りに俺たちを操っている」
ディリオスは笑いながらいった。

「サツキなら多くを読めてきただろう」
サツキはリュウガと同じで十五歳であったが、
才色兼備で皆に認められていた。

「申し訳ございません。ご参考までに
ロバート王のお考えを、お教えいただけますか?」
聡明な女の子はたずねた。

「サツキは深く考えすぎだが、まあいい。
ロバート王は十五歳である俺を試したんだ。
馬鹿親父殿は、エルドールにさえ行かないほど
面倒くさがり屋だ。
片道半月もかかるイストリア王国に行くはずがない。
必ず俺に名代として行かせるのはわかっているが、
直接俺に手紙を出したのは、もしもが無い為のものだ。 
直々に王国の王から、王子に依頼するのは異例なことだ。
親父殿ではなく俺に直接頼めば、
俺が断らないことをロバート王は知っている。
ロバート王は俺と直に、イストリア王国との交友を
交わして欲しいんだ。
だから念のために、俺にも使者を出した」

サツキは感心しながら話に夢中になっていた。

「そして大国であるイストリアの
王子とお姫さんの生誕祭ではなく、
お姫様の生誕祭に大陸随一の一騎当千と云われた
伝説の刃黒流術衆が行くとなると、
イストリア王国の生誕祭に、来る予定の無かった
それほど親交が無い国や、敵対はしてないが
疎遠な部族や国も、兄妹の生誕祝に品を届けに来るだろう」

少女は昔話でも聞いているように目を輝かせていた。

「祝いの品を届けるのはあくまでもついでで、
本命は俺たちだ。お姫様の生誕祭に
後継者である俺が行くとなると、
深く勘繰る者もいるだろう。
そして、誰もが関心を抱く事は、
もう二百年くらい前の強さは、
今もまだ継承され健在なのか?」

「この疑問を持つものたちのほうが、
遥かに多いだろうからな。
兄妹への祝いの品や言葉だけで、
終わるはずはない。
必ず我々に演舞などを要求してくるか、
腕試しと称して、我らの実力のほどを
知るために何人かとは戦うはめになる。
どこの国も部族も、一番強い者を選抜して
連れてくるはずだ」

サツキは彼の洞察力には、いつも驚かされていた。
それと同時に従者ではあるが、
自分が気づいていない所で、
彼は何度も死線を潜り抜けてきたのだろうと思った。

「刃黒流術衆はエルドールとしか、
深い友好関係にないのは皆が知っている。
我らの実力はエルドール王ならよく知っているから、
我々の強さが今も健在だと再び世界に示せる
良い機会だと考えたんだ。
これはロバート王とイストリア王が共に
熟慮したはずだ。
この事からエルドール王国とイストリア王国は、
どうやら既にかなり深い盟友だと分かる」

サツキは先の先まで見通せるその眼力に
言葉を失っていた。

「エルドールは我らがいることで今も安泰だが、
イストリア王国は大国だ。
敵対国や部族間の問題で、度々出兵している。
今までエルドールの生誕祝いにしか
この五百年の間で参加したことのない我らが、
イストリア王国の王や王子ではないお姫さんの生誕祭に、
次期領主と謳われている俺が参加するとどうなる?」
若者はサツキの目を見た。

「エルドールとイストリアと刃黒流術衆の間に、
特別な友好関係が結ばれたのだと思いますね」
サツキは深く計算された事を見抜いた主に感心し、
そして両国には出し抜かれたと思っている
複雑な表情を見せた。

サツキは沈黙したまま、笑顔でリュウガを見つめていた。



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