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【ネタバレ有】『ドブ川に散りぬ初恋の』感想


■乙女ゲームとサキュレント作品

今年の3月頃に何気なくDL Siteを見ていたら、おすすめに上がってきた『おそ咲きの花』が気になり、2000円代とそこまで高額なゲームでも無かったことから試しに乙女ゲーとはどのようなものかとプレイしてみた。
したら、劣等感やどうにもならない現実のやるせなさなど、普段心に浮かんでくるけど「でもこんなこといちいち気にしてられないよね」って忘れたふりをするものの完全には消えてくれず、落ち込んだ時などに再浮上してくる・・みたいな形にし辛いけど確実に存在する人間のネガティブさが見事に表現された作品でした。

今回プレイした『ドブ川に散りぬ初恋』もその系統を継いだ作品で、3時間ぐらいで読了しましたが内容はとても濃かった…。

ちなみにデジタルノベルというカテゴリーなので立ち絵はありません。
ビジュアルはメインメニューのものだけ。でも公式サイトに行くと周年記念イラストがありました!メインメニューの絵は目閉じてるけどこちらは目を開けてておおーってなりました!てか秋奈かわいい♪文章だけだと暗そうなイメージが浮かぶけど・・。まぁその気になればすぐに彼氏が出来るんだから見た目は良いのだろうな。

ちなみに、サキュレント作品をやるまで乙女ゲームって「イケメン達に囲まれてみんなに好かれてあーどーしよー////」みたいなノリのものばかりだと思ってて避けてましたが、何事も偏見はヨクナイ。
まぁちゃんと知るまで「エロゲ」もHばっかりしてるものだと思っていたので「エロゲで感動ってどういうことや?」って昔は思ってたなぁ。

■内容の感想

◆ストーリー概要

小学生の時に周囲に馴染めなかった秋奈と春一彦は小説がきっかけで仲良くなり、文学や映画・人生観等を語り合うことで2人だけの美しい時間を紡いでいった。
しかし、中学生になり主人公の秋奈への苛めが酷くなり、それが原因で転落事故に遭い怪我をする。秋奈は転校し、親の意向から元の学校での人間関係を一切断ち切ることに。その時に春一彦との関係も終わってしまった。
2人は両思いであったけど秋奈は汚れた存在である自分が綺麗で特別な存在である春一彦を汚してしまうことを恐れ、当時は恋人同士にはなれなかった。

新しい街での生活を通し、恋人も出来た秋奈であったが、前に抱いた「自分は卑怯で愚かで汚れた存在」という意識、つまり自分を好きになれない思いが消えることはなく、恋人からも振られてしまう。その出来事を通して、過去の美しい思い出にすがりたくなり、昔住んでいたこの街に7年ぶりに戻り、そこで春一彦に再会する、という一見感動的なストーリーなのですが・・再会して今もお互いを想い合っていたことが分かり、キスしそうになったときに秋奈が自分以外の男と付き合っていた過去を知り、春一彦は猛激怒。女の子に物は投げるわ蹴るわキッツイ言葉を投げかけるわで、ひどいひどすぎる!
しかし、お互いの本音をぶつけ合い、最終的にはドブ川に飛び込んだ秋奈を春一彦が助けることで新たな一歩を踏み出そうとするところでEND
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一応希望のある終わり方なのに何でだろう!終わってからこのゲームの内容を思い出そうとすると、キスしそうになった以降の春一彦くんの言葉が真っ先に浮かんで来て憂鬱な気分になります。彼が言ったことは秋奈にだけでなく自分にも当てはまるよなーって思ってしまったので。

◆「処女じゃないなら死んでくれ!」

最悪の再会をした次の日に、勇気を出して秋奈がもう一度春一彦に会いに行った時に言われたこのセリフ。
一晩経ったら怒り鎮まってるんちゃうかなって思ったけど甘かったですね。
でも、この「処女じゃないなら~」のセリフは、ネットの処女厨的な意味で使われているのでなく、変わっていないと思っていた秋奈が遠くにいってしまった、そして潜在的に感じていた「秋奈はいつも自分を置いていってしまう」という不安や悲しみが爆発した為の発言だったと思います。切ない…。
因みに、ゲームクリア後のエクストラの秋奈の声優さん、今谷皆美さんのコメントが面白かったw

◆初恋の思い出

秋奈と春一彦が小学生の頃、小説を通じて仲良くなっていくシーンは羨ましかったな~。彼氏とかじゃなくても自分にもこんな友達が欲しかった!
「あの頃私たちは、同じ色と形をしていた」作中で言われてたように、2人でどんどん海底へ潜っていけるような・・そこで神殿を見つけられるような。たとえ周囲に馴染めなくても生きていていいって思える場所があるってすごく心の拠り所になる。2人が大人になっても、この美しい時に囚われてしまっていた理由もすごく分かるんだよなぁ。
あと春一彦が周りにからかわれた時に発狂したそらまめ。さんの声の演技もよかったです。追いつめられてる感じが自分のことのようですごく切なくなりました。

◆イジメと別れ

具体的なイジメシーンの描写がそこまで多く鮮明に書かれていたわけでは無いのですが、「自分に存在価値はない」そんな意味の言葉をずっと投げかけられたという表現や、アソコに指を入れられるシーンの「俯瞰で見られる余裕なんて無くなっていた」という所から辛いものが充分伝わってきました。

因みに、エロゲの『素晴しき日々』というこれまた素晴らしい作品があるのですが、この作品のイジメ描写はイジメっ子の立ち絵も声もついていたので憎たらしさ倍増だったなぁなんて思い出しましたw(途中でこいつら〇ねと一人でリアルに呟いてしまったw)

秋奈はチクリをしたことでハブられるようになったとありましたが、間違ったことをした子が大人に怒られているのを見て少し気分良くなっていた・・というのも一見最低なんだけど分かるような気もするんですよね。ぶっちゃけ自分は何もしてないけど何かすごいことやってやったわみたいな気分。

前にプレイした『おそ咲きの花』もそうだったんですが、ヒロインが呟くネガティブ発言が共感出来るものが多い。非難されるから黙ってるけど実際そういう風に思ってしまうよねって所を、シナリオライターの山野詠子さんは上手く捉えすぎです・・天才だ。

あと中学生の頃に春一彦にドブ川で救われた時のシーン、一見少女漫画とかにもありそうなんですけど、このドブ川って表現が綺麗すぎなくていいですよね。川じゃなくてドブ川。うちの近くにもあるわw

そして事故で怪我をして春くんと別れ、その後秋奈は順調に過ごしていったかのように思われますが・・やっぱこんな素敵な時間は絶対消えないよなぁ。
楽しかった思い出って、その後に辛いことがあったり特に感動することも無かったりするとどんどん美化されてくよなー…。

◆自分を好きになれない悲しさ

「彼を汚したくない」秋奈が春くんに対してよく使う言葉。でも春一彦にとって秋奈も永遠の美しさの中にいる存在でした。綺麗なままで終われたら、その瞬間って永遠になるんですよね。でもそれが再開した秋奈を傷つけてしまうことになる。
春一彦の言葉で「(振られたことなんて)黙ってれば分からないだろ!」「お前が勝手に罪悪感に耐えられなくなって、俺を騙すみたいになるのが嫌だっただけだろ!」とありましたが、1番自分が気にしてることを落ち込んでる時に好きな人に言われるってどんな気持ちなんやろ…。
他には、ざっとしたまとめですが「卑怯で臆病な精神がむき出しで、どっかで思い上がっている。自分は悲劇の運命に選ばれたって・・人のことを怒らせるくせに原因が自分にあるって思ってるのに思ってない」という所もぐさっときた・・。

秋奈は自分がそういう指摘された通りの人間だって分かっている。でも「春くん」ならそんな自分も受け入れてくれるという淡い期待も抱いてこの街にやってきました。
相手には自分の思う綺麗な姿でいて欲しいくせに、自分のことは分かって欲しい、勝手かもしれないけど秋奈の気持ち、私も否定出来ないな・・。
結局は誰かに自分のことを分かってもらいたいんだよね。

秋奈の失恋は振られたから悲しかった、というよりかは自分なりに努力したにも関わらず一般人になれなかった悲しみというのが大きかったように思います。Ci-enのドブ散りのページで春くんに会いに行く前の秋奈の心情のSSがありますが是非読むべき!この辺の心情がよくわかります。誰かと親しくなるためにやってるようなコミュニケーションって確かに難しい。私も大学生の時にそれがしんどくなって友達が出来なかった思い出があるのですごく共感出来ました。

あと、よく「自分を愛せないと人も愛せない」って言われるけど、本当にその通りだと思います。相手が大切になればなるほど自分のことが嫌なものだから相手が何故自分なんて大切にしてくれるんだろう?って思って苦しくなる。

春一彦と秋奈は止まってしまった思い出の中でお互いの存在を現実よりも美しいものに変えていってしまったけど、春一彦はそれを支えに生きていた。
秋奈も同じように春一彦のことは忘れていなかったけど、思い出の中の相手が綺麗過ぎて、そんな人と自分が一緒に居るのが辛い、そう思ってしまうんだと思う。

でも、こんなめちゃくちゃに傷つけあいながらもこの2人は最後の最後でちゃんと向き合うことが出来たんでしょうね。美しい向き合い方ではなかったけど、Ci-enでアフターSSを読んで、不安は完全には無くならないけどぎこちないなりにも少しずつ2人で生き方を探っていくんだろうなーって感じました。
何か悟って前向きに生きていこう!みたいな展開にはならないけど希望はちゃんと見えるような・・このギリギリのラインでの表現がいいですね。

最後に、、とにかく色々痛い所を抉られる作品でした💧
どうすればいいのかは分からないけど、こういう気持ちってあるよねってことを言語化してくれた作品です。
サキュレント様、素敵な作品をありがとうございました✨
他の作品ももっとプレイして色んな気持ちを抉られたいと思います!w

あと、自分語りが多く読みにくい文章でごめんなさい💦
読んでくださってありがとうございます。

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