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『居酒屋の失敗』第六章「宣伝広告とグルメサイト」2.グルメサイト(3)ホットペッパー「死闘編」前編


(3)ホットペッパー「死闘編」

 そして、いよいよ最も振り回されたサイト、真打ち「ホットペッパー」の登場である。ホットペッパーとの攻防は、タイトル通り「死闘」と言っても過言では無い壮絶なものであった。

① 概略

 元がクーポン付きフリーペーパーの「ホットペッパー」。以前は、自分でもクーポンを良く利用したものの、店では絶対にやりたくないと思っていた。とにかく「激安設定のクーポン」というイメージが強く、紙面自体にも品格があまり感じられず、あまり印象が良くなかった。
 そしてその印象は、インターネット主体になってからも変わらず、とにかく安かろう悪かろうといったイメージが非常に強かった。
 また、3大サイトで唯一無料会員が無いため、当初から最も利用するつもりが無かったのである。

 しかし、実は3大サイトの中で最も人間による営業に力を入れているのがホットペッパーである。立川は、ターミナル駅という事もあり、ホットペッパーの営業所があったのだが、そこの営業は、それこそもう片っ端から飛び込みで店を回っている感じで、当然自分の店にもオープン前から来ていた。

②担当者1人目

 担当者は、自己紹介シートを持ってフレンドリーな営業をしてくるのだが、利用するつもりの無い人間にとってこれほどウザいものはない。しかも週2くらいのペースで来る。そしてそれを続けていれば必ず使ってもらえると思っているから更にタチが悪い。

 最初に来た担当者は、5回くらい来たところで猛烈にアタックしてきた。もちろんやる気なんかさらさらないのでこっちも強めに断った。「万が一やるとしてもオープンして落ち着いてからだ」とも言った。
 すると事もあろうに「それじゃあ手遅れになりますよ!」と言ってきた。さすがにそれまで仏の対応をしていた自分もキレて「何だと!フザケルナ!二度と来るな!」と追い返した。
 しかし、実はそこからがホットペッパーとの腐れ縁の始まりだったのである。

③担当者2人目その1

 話を進める前に先に説明しておくとホットペッパーの最大の特徴は、「営業担当者の変更が異様に多い」という点。1年未満のうちに5人も変わるという有り様だった。そのうち一人は、強制的に代えさせたのだが。

 さて、オープン前の「手遅れになりますよ!」と言った1人目の担当者。かなりキツく怒鳴りつけてやったのでホットペッパーは二度と営業に来ないと思っていた。
 そして営業を始めて1ヶ月ほど経ち、あまりの営業不振に今まで強気で前向きな事しか書いてなかった店のブログに珍しく弱気な事を書いた。本当に心身弱ってしまい、それを恥ずかしながら吐露したといった内容だった。

 すると翌日、妙な女がやって来た。かなり派手な化粧に黄色のマニキュアをした、やたら上からっぽい女だった。訊けばホットペッパーの新しい地区担当者だという。
 そしておもむろにパワポで作成したA4のペーパーをバッグから取り出し「ブログを読ませてもらいましたが、かなりお困りの様子だったのでお手伝い出来ればと提案書を作って来ました」と言ってきた。

 こちらは本当に弱気になっているのに、それをチャンスとばかりに、しかもあまりに早いタイミングで来たので一瞬にしてアタマに血が昇った。
 「フザケンナ!前の担当者も失礼な事言いやがったから文句言ったんだよ!お前もなんだ!人の弱みにつけこみやがって!帰れ!」と提案書も見ずに追い返した。
 しかし、これで終わるようなヤワな女ではなかったのである。

④担当者2人目その2

 宣伝広告の項でも書いたが、店を始める前から色んな媒体の居酒屋情報をくまなくチェックしていた中で、自分的に良いなと思い、知人の店主も利用したという不定期発行の有料地域グルメ本があった。これには絶対載せたいと思っていたら、なんとある日その編集部から直接店に売り込みに来た。渡りに船とばかりに快諾し、次の刊行分への掲載が決まった。

 それで少し良い気分になって仕込みをしているとホットペッパーの女がやって来た。実は先の騒動後に一度謝罪に来ていたのだが、その時も怒りは収まらず速攻で追い返していた。
 しかし、この日は気分が良かった事もあり、油断して普通に迎え入れてしまった。そして広告の話になったので、ついその本に載る事を話してしまった。

 するとその女、「そうなんですか。良かったですね」と言った後、あろうことか

「でもあの本、私は一番効果が無くて載せる意味が無いと思うんですよね」

と言ってきた。

 もちろんまたも大激怒。怒鳴りつけて速攻で追い返した。結果的には、女の言っている事は正しかったのだが、人が決めた事にイチャモンを付ける根性が気に食わない。
 が、しかし、それから間もなくしてその女との壮絶バトルは、呆気ない幕切れとなるのであった。

⑤担当者2人目の最期

 ある日またしてもホットペッパーの女がやって来た。
 しかし、いつもの図々しい態度がなく妙に神妙だった。そして口を開いたと思ったら

「私、この度辞める事になりまして…」

と言ってきた。

 少し補足しておくと、女が店に来るようになったのはほんの1ヶ月ほど前。それも以前ホットペッパーで働いていて、一度辞めて出戻ったとの事だった。
 これはホットペッパーの営業全般に言えるのだが、とにかく「私に全てお任せください」的な営業をしてくる。それが1ヶ月で辞めると言うのだ。これが笑わずにいられるだろうか。
 あまりに可笑しくて半笑いで対応していたのだが、女は終止神妙な面持ちで帰って行った。

 そしていつもの黄色のマニキュアがその日は黒だったのである。

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