蕎麦を楽しむ会

大学生のとき、加藤君という友達のお父さんの手伝いでよくバイトをしていた。

加藤君とはもう卒業以来会ってないけど、高校のときよくカラオケ行ってドブネズミみたいになりたいだとか叫んでいたので、今頃ドブネズミに転生してないか気になる。

そんな訳で加藤君のお父さんの手伝いだが、毎回色々なことをやらされた。

加藤君のお父さんは小説家なのかルポライターなのか、未だによく分からないけど文章で生計を立てている人だった。

なのでバイトも取材の手伝いだろうと思ったのだが、副業で便利屋でもやっているのか肉体労働が多かった。

なんだか訳ありそうな引っ越しや、個人経営のレストランのオープンビラ撒くのに東京から新潟まで手伝いに行ったり、今考えるとどういう経緯でそんな仕事をもらってくるのか謎だった。

毎回バイトしに行くたび目新しいことをやらされるし、友達も一緒だったし賃金も息子の友達価格でわりと多く頂けたので、結構楽しかった。

そのバイトで一度、長野のほうでやっている新蕎麦を楽しむ会の取材だったか設営の手伝いだったかに駆り出された。

当時僕は18歳の大学生。ほぼ高校生だ。

今でこそ病人みたいな食欲の僕も、油べトンベットンのとんかつとかチキンマックナゲットだとかアメリカ人のデブみたいな食生活だったので蕎麦なんて興味が無かった。

しかしこの新蕎麦を楽しむ会で蕎麦のおいしさに目覚めた僕は、道具を買い自分で蕎麦を打つまでのめりこんでしまった。

のめりこんだと言っても、何も知らないのにいきなり打つのが難しいとされる10割蕎麦から始めたので1日2日でうまく麺にならず飽きた。

間違っても蕎麦打ちの経験があると言い張れるレベルではない。間違えて蕎麦打ちの道具買ったのがまだ納屋に残ってますというレベルだ。

僕は友人にこの蕎麦の魅力を伝えようと自分が開拓した旨いと思う蕎麦屋に色々な友人を連れていったが、イマイチ反応がよくない。

皆、社交辞令で「え~!薄ハムさんモテそう~!」とかいう女のような濁った眼をしていた。

仕方がない。食べ物の好みは人それぞれだ。

蕎麦通は海苔やかまぼこなどをあてに酒を飲み、〆に蕎麦を食べるようだが俺はそうは思わないね!酒なんか飲んだら嗅覚が馬鹿になる。蕎麦屋にはいったらまずもりそば。酒はそれからなんだよ。分かる?

みたいな持論を彼女に熱く語ったこともあった。分かってくれなかった。

お蕎麦が好きなんだね~!将来は蕎麦職人だね~!みたいなtwitterで模範的なお母さんのほっこりツイートとしてプチバズりそうな反応だった。

仕方がない。食べ物の好みは人それぞれだ。

それに女は蕎麦よりもちもちしたものが好きなのだ。本当かどうか分からないけど。

「女はね、もちもちした物が好きなのよ、大体」

と同い年の友達が人生を悟ったように口ぶりで言ってたのが未だに印象に残っている。何目線なんだよ。

これからもきっと理解者を得られぬまま死ぬまで一人ずるずる蕎麦すすって生きていくんだろう。






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