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0974:お役所の著作権感覚

漫画家の近藤ようこさん(三十年来のファンです)が自治体との契約についてつぶやいていらした。事前の合意もないのに役所側が「無償で著作権を譲渡」という契約書を提示してきたというのだ。

https://twitter.com/suikyokitan/status/1670958818891796481?s=20

うーん。著作権を巡る契約としては「あり得ない」と思う一方で、役所の実態としては「ありそうなこと」とも感じてしまった。

まず背景を押さえておきたい。件の自治体がどの程度の規模かは分からないが、公務員は3年前後でまったく異なる部署に異動することが習いだ。その都度に仕事の内容はがらりと変わる。広報系の仕事は割と幅広く行われているが、例えばパンフレットを作るような契約だと印刷会社に依頼して成果物を配っておしまい。その契約書に著作権規定があることは希だ(ちなみにその場合、パンフレット自体が著作物で印刷会社に著作権があるが、自治体による成果品の配布は暗黙の合意があるということになる)。だから、著作権に関わる契約を経験したことのない公務員が大半で、ある日突然異動先でクリエイターと契約をする事になる、なんてのはザラに起きる事態だ。

今回は著名作家への依頼なので、パンフレットのように成果品を配っておしまい、というわけではないのだろう。イラスト・カット・漫画いずれにせよ、それを何らかの媒体に利用することが想定されている筈で、そこまでは合意がある筈だと思う(まさか「何に使うか決めてないけど絵だけ描いて」という依頼ではなかろう)。問題は役所側がそのイラスト等を当初計画以外のいろいろなもの(ネットとかね)に流用する可能性を残しておきたいと考えた場合だ。

複製権、上映権、公衆送信権、二次的著作物の利用権など、自治体側が押さえておく必要のある著作権はいろいろある。イラストの一部を転用することがあり得るならば、委譲不可能な著作者人格権のうち同一性保持権に関する合意も必要だ。「何を、どこまで」自治体が押さえるかは当然ながら契約条件であり、契約金額とも連動する。自治体は作家と話し合ってそれを取り決め、契約書に記載する。それが本筋だ。

しかし今回は合意なく「無償で著作権を譲渡」と契約案が示された。そりゃあ作家は驚き怒るさ。だって著作権はプロとしての経済的源泉なんだもの。作家のそのような意識に想像が及ばなければ、役所はこういう契約案を安易に示してしまう。そしてこじれる。

私の公務員時代に、こんなことがあった。庁内のある部署が川柳作品の公募を始めた。そのチラシに「著作権は役所に帰属します」のひとことがあった。要は入賞作品をいろんなところで使いたいけれど、具体的な使用方法まで決まっているわけではないので、著作権の細かな規定は面倒だからもう全部役所のものにする(それを応募条件とする)、という体だ。私はこういう著作権召し上げ規定にクリエイターの不満が渦巻いているのを知っていたので、担当さんにメールで「これまずいすよ」と伝えると「それは知りませんでした、今年はもう募集開始しちゃったので来年から直します」という返事があった。翌年、規定は変わっていなかった、というオチ(担当さんが異動して引継ぎがされなかった可能性……)。

つまり、一般の公務員(≒非クリエイター)の著作権に対する意識ってその程度、ということなのだよね。

立場が違うのは仕方のないこと。大事なのはコミュニケーションなんだ。契約書の形にする以前、仕事に着手する前の段階で「こういう条件でお願いしたいんですけど、如何でしょうか」と著作権処理を含めて提示し、「予算上これ以上の金額は苦しいんです」等のぶっちゃけ話とかも交えて交渉していれば、作家側から「無理です」とか「この値段ならこういう条件(著作権の一部のみ譲渡または許諾)で受けます」とか「地元のためならサービスしましょう」とか、はっきりした意思を確認できた筈だ。そのような調整の結果を契約書の形にする、という手順を踏めば、トラブルは起きない。

今回は丁寧なコミュニケーションを欠いた役所側の失点だ。ここから学んで意識を変えていってくれることを願う。

--------以下noteの平常日記要素

■本日の小説進捗
ノー執筆デー。

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積328h30m/合格目安3,000時間まであと2,672時間】
ノー勉強デー。

■本日摂取したオタク成分
『BLOOD+』第17~23話、おー、核心に迫ってく。でもまだ物語の半分なのだよな。『どうする家康』第23話、ようやく放送に追いついた。展開的には地味回。『焼きたて!! じゃパン』第25~27話、アフロ話ワロタ。

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