0699:ラジオライフの有害図書指定と条例規制
また面白そうな行政ネタが炎上している。
三才ブックスが発行する書籍三冊が、今年2月に鳥取県から青少年健全育成条例に基づく有害図書指定を受けた。この指定を受けた書籍は青少年(18歳未満)への販売が禁止される。違反した販売事業者には30万円以下の罰金が科される。条例なので、その適用は鳥取県内の販売行為に限られ、他県には及ばない。
しかし、今回の指定を受けて、当該書籍はAmazonでの販売停止が決まった。何故なら、2020年の条例改正により、インターネット通販事業者にも規定が及ぶことになったからだ(──という理解が今は流布している、でも実は誤りだというのは後述)。Amazonは全国区で、特定の住所地のユーザーに販売しないという匙加減は難しいと推察される。そのためAmazon自体での販売が見送られたわけだ。
慌てたのは出版社側だ。ラジオライフ編集部によれば(次のリンクの記事)全ネット書籍の中でAmazonの売上は9割を占めることから、Amazonで扱われないことは死活問題ともいえる。鳥取県ともAmazonとも調整を重ねるが自体は好転せず、『ラジオライフ』10月号の誌面で経緯を記事化するとともに、ホームページで当該頁のみPDFで読めるようにして、Twitterなどでも告知をしたのだ。(当記事のヘッダ画像は当該記事の一部)
ここで当の条例を確認しておこう。
仕組みを読み解いてみよう。11条で有害図書に自主規制をかけさせ(努力規定)、特に規制すべきものを13条で知事が指定する。指定された書籍は15条で「何人も」「譲渡」や「貸し付け」を禁止される。つまり個人間で18歳未満に渡したり貸したりすらできないのだ。ただし、これには罰則がない(そりゃそうだ、全て取り締まる世界はディストピアだもの)。しかし販売業者については16条で再度禁止を掛けている。これは、26条5項1号で罰金刑を科すために、「何人も」のうち「業とする者」だけを抜き出す構造だ。
問題となっている2020年改正でネット通販を明記した16条2項だが、当時の鳥取県議会議事録を検索すると、少し三才ブックス側の認識と異なる状況が窺える。
http://www.db-search.com/tottori/index.php/5938842?Template=doc-one-frame&VoiceType=OneHit&DocumentID=2137
ふむ。改正の前後で規制内容は何も変わらない、確認規定だと。
あらためてラジオライフ記事内のAmazonの回答書を見ると、「改正した条例ではネット通販を含む県外事業者を対象としている」とあり、Amazon法務部自体がそもそも勘違いしている可能性もあるし、そうではなく三才ブックス側への説明の容易さから言及しているのかも知れない(文章の雰囲気からは前者くさいけど)。
こうしてみると、ラジオライフ編集部が鳥取県庁と戦う上で、16条2項を対象とするのは難しいように思われる。この条文があってもなくても、今も昔も、ネット通販・県外事業者が規制対象の範囲に含まれていたことは変わらないからだ。その意味では、Amazonの判断の妥当性を争う方が多少はマシだが、これも勝ち目はなさそうな気がする。2020年改正で新たに規制されたというのがAmazonの誤解だったとしても、それ以前から規制対象だったわけでAmazonに警察の捜査が入り罰金刑をうけるリスクはあるのだから。
ただし、条例による規制が全国に重大な影響を及ぼしかねないネット社会の特性を、今回の事件は見事に示している。鳥取県が有害図書指定をすることで、Amazonのような全国規模の巨大企業を警察が捜査・逮捕できるわけで、それが妥当とは到底思えない。運用上鳥取県警がそのような捜査・逮捕をしなかったとしたら、条例は死文化する。いや面白いなあ(不謹慎)。行政法の問題としてじっくり検討・検証する価値はあるだろう。
しかし、これとは別に、今回の記事から鳥取県庁の運用上の重大な問題が見えてくる。それは、有害図書指定という不利益処分の審議過程を詳細に記録していない点だ。当然議事は全て録音されており、データはある筈だ。それを文字起こしまでしていないのだとすれば、指定告示の内部決裁に際してラインの誰も議事詳細を承知せずに決裁をしたということになる。ほんとにい? と元公務員としては首を傾げる。さすがにそりゃ不当といわれても仕方が無いのではないか。
ただ、青少年健全育成条例が警察絡みで敢えて立法を避け全国に押し並べて制定されている性格(議事録で述べられている横のネットワークというのもいやらしいよね)もあり、敢えて詳細議事録を作らない運用にしている可能性がある。これだけ民間事業者に大きな影響を与える「指定」行為について、その根拠を記録しない行政運営は果たして適正か。これは大きな問題だろう。
咄嗟に思い浮かぶ手がかりは録音データだ。ICレコーダーのデータは鳥取県情報公開条例の公文書の定義のうち電磁的記録に当たる。鳥取県青少年問題協議会有害図書類指定審査部会が公開開催なのか非公開なのかまですぐに辿ることができなかったけれど、会議が公開である場合、または会議非公開でもその非公開理由に抵触しない範囲で、情報公開の対象となる筈だ。法律家に相談しながら、ここから攻めて本丸の「条例規制が全国に大きな影響を及ぼすことの是非」の議論に繋がる事を期待したい。
■付記 続報を書きました
--------以下noteの平常日記要素
■本日のやくみん進捗
第1話第22回、3,452字から進まず。
■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積298h32m/合格目安3,000時間まであと2,702時間】
やらかした。実家に行った時にテキスト忘れた。そうならないようにと意識してた筈なのに、やらかした。というわけで、やらかしノー勉強デー。
■本日摂取したオタク成分
『Heaven?~ご苦楽レストラン~』第4話、この辺りから初見。
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