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0407:消費者契約法の返還義務探求(昨日の続き)

 昨日の記事で、消費者契約法と民法の連動改正について記した。

 その中で、こんな理解を書いていたのだが……

 つまるところ、未成年者を含む制限行為能力者の契約取消は民法第121条の2第3項により、現存利益の範囲で返還義務を負う。成人の消費者契約法に基づく契約取消は第6条の2により、給付を受けた時に善意であった場合に限り同様で、悪意であれば第121条の2第1項のとおり原状回復義務を負うわけか。なるほどなるほど──。

 いや、まって、何についての善意・悪意なんだっけ?

■消費者契約法
(取消権を行使した消費者の返還義務)
第6条の2 民法第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、第4条第1項から第4項までの規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 意思表示が取り消すことができるものであること。これは具体的に何を意味しているの? A説「制度を知らなかった」、B説「制度に当てはまる状況と知らなかった」、C説「それ以外の何か(思いつかん)」。

 消費者庁の逐条解説をあらためて確認してみよう。

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 ……同語反復で説明になってにゃい。

 少なくとも、これが現存利益の返還でよい要件なので、この要件が満たされてなければ原状回復義務があるってことの筈。昨日はそう思っていたんだ。

 ところが、逐条解説の同じページのすぐ上を見ると、改正趣旨の説明の中にこんな一文があった。

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 「従前どおり……現存利益に限定」。「限定」。例外は、ない? オール現存利益と理解すると要件規定が意味をなさなくなる。要件規定に意味があるとすれば、それはどういうことなのか。

 そもそも返還義務は法4条1~4項の規定に基づく取消権を行使したことが前提だ。同条項には、事業者が消費者に嘘を言うなど不当な勧誘をして、消費者に誤認や困惑が生じた場合に取り消せることとなっている(4項の過量販売は高齢者の次々販売が想定されている筈だが条文上は消費者の状況に触れられていない)。つまり

取消権を行使した=契約時には誤認・困惑があった

ということだ。

 民法改正前は、消費者契約法に基づく取消権を行使した場合、返還義務は民法703条以下の規定が適用された。

■民法
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 ここでの善意・悪意は「それが不当利得に当たること」を意味する。誤認・困惑している消費者は契約時点でそれが相手の不当利得だとは思いも付かないわけで、素直に「善意」として現存利益の返還で済んでいたわけだ。

 これが民法改正により、取消関連規定として新たに設けられた121条の2に参照先が切り替わることになる(それを避けるために消契法6条の2を制定した、というのが逐条解説の説明だ)。

■民法
(原状回復の義務)
第百二十一条の二 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

 この場合、2項は「無償行為」、3項は「制限行為能力者」の特則なので、直接適用できない。民法は一般法だから、特例法に基づく取消の効果は当該特例法に定めるべき、ということなのだろう。

 その消契法第6条第2項が、民法第121条の2第2項と同じように「無効であることを知らなかった」と書かれていれば、文意は明快だ。しかし実際は「取り消す事ができるものであることを知らなかった」という文言になっている。同時期に改正されているのに違う表現ということは、意味内容が違うと考えられる。

 仮に誤認・困惑を指して「取り消す事ができるものであること」と表現していると解釈することは可能か。いや、それは意味がないのだ。6条2項に辿り着く消費者はそもそも誤認・困惑しており、全員が要件に当てはまってしまうのだから。仮に困惑類型で、押し売りが長時間居座って帰らない場合に内心(消費者契約法で後で取り消せるからいいや)と思いながら契約に同意して見せた場合(心裡留保だなこりゃ、でもそこは公序良俗に反する押し売りへの対抗としてチャラか?)を6条2項の悪意として排除すると、不当販売行為の規制が成り立たなくなる(制度を知っていた方が損をする)から、解釈として取りづらい。

 「意味のない要件である」という理解をぎりぎりまで回避するならば、他にこの要件の例外事態を想定しなければならない。言い換えるなら「消費者契約法に基づく取消を実施したけれど、現存利益にとどまらず原状回復義務を負うのは、どういう場合か」ということになる。現時点では頭を捻っても思いつかない。

 そうではなく、上述の消費者庁逐条解説のとおり「現存利益に限定」することが立法者意思であり、6条2項の要件の例外は実は存在しないのだとすれば、「意味のない要件である」ということを受け入れなければならない。じゃあなんでそんな規定を設けたの? なんで逐条解説にそれを書かず、わざわざ「~が要件である」と明示してんの?

 うーん、頭がぐるぐる。どなたか識者、御教示プリーズ!

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積148h08m/合格目安3,000時間まであと2,852時間】
今週末の家業イベント準備でイレギュラー家業デー、というわけでノー勉強デー。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『交響詩篇エウレカセブン』第46~47話、クライマックスに向けて凄い盛り上がりだなあ。で、次があの神回だっけ? 『吸血鬼すぐ死ぬ』第4話、私は余所事しながらであまり観て無かった。飽きてきたかも、と密かに思っていたら妻が「好きになってきたかも」と逆反応。じゃあまあ今後も観続けよう。『暗殺貴族』第5話、絵的には省力回だったけれど話のテンションは落ちない。『sonny boy』第9話、前回が凄かったけど続きを観るのに時間がかかって少し話を忘れてる。でもおもろい。『ジャヒー様はくじけない!』第9話、魔王様が開運商法に……。『青天を衝け』第25話、平九郎の無惨な最後に本放送時にはTwitterのタイムラインが阿鼻叫喚だったっけ。

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