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0245:(オプティ&ペッシィ001)「過払い金を取り戻す!」広告問題

■こんな派手な広告を見たことあるでしょ

オプティ:今朝の新聞に、こんな派手な折り込みチラシが入ってたよ。

ペッシィ:ぱっと見、なんか下品だなあ。金色の大きなフォントで「現金」云々って書いてあって、なんか体験談っぽい写真も……わかった、あれだ、開運財布!

オプティ:ぶっぶー。「過去にキャッシングをしたことのある人は、過払い金を取り戻せる可能性があるから、気軽に相談してね」という司法書士事務所の広告だよ。

ペッシィ:なんだ、やっぱり開運商法じゃん。

オプティ:関係諸方面に喧嘩を売る物言いはやめい! 法と資格に基づく適正な法律業務だよ。

ペッシィ:でも広告の雰囲気はまんま開運商法だとおもうが? が?

オプティ:そこまでいうなら、広告の中身を検討してみようか。

ペッシィ:よし、乗った。でもその前に、強調しておいた方がいいことがあるね。

オプティ:ああ、あれか、そうだな。じゃあ……せーのっ。

異口同音:(全力で)この文章はフィクションであり実在の事業者とは関係ありません!


■広告の生理的訴求力

オプティ:この広告を見て、開口一番「下品」といったのは、なんで?

ペッシィ:第一印象としては次の三つの要素かな。

①トップの見出しが金色きらきら「現金が戻る」
②表面に百枚以上のクレジットカードの券面を並べている
③裏面は黄色とピンクを主体とした派手な色使い

オプティ:色は目立つから。現金やカードは、広告内容のメインモチーフであるとともに、財産的利害の直接的指標で多くの人が強い関心を持つものだから。広告戦術として、インパクト重視は、ありだと思うよ。

ペッシィ:生理的訴求力が強いんだよ。「品」って、生理欲求を社会的に包み隠す作法だから、それをモロ出しにするものは「下品」と感じる。

オプティ:モロ出しゆーな。

ペッシィ:見る?

オプティ:何をだよ、見ねーよ、下品ネタやめい。

ペッシィ:ね? 下品と感じるものは、反発を生む。

オプティ:う、なるほど。でも、そこは価値観の問題だよな。性にしても資産形成・消費行動にしても、プライベートなものとして隠したい人もいれば、人の自然な欲求を隠すことの方がおかしいという考え方もある。

ペッシィ:AV観る人は多くても、地上波でAV流せと主張する人はいないでしょ。社会的な節度って、大事なんだよ。新聞折り込みで広く配布されるちらし表面の8割を百枚以上のクレジットカード券面で埋め尽くすのは、刺激が過剰で下品だ。


■広告のターゲット層

オプティ:その辺りは、広告戦略としてどういう層を振り向かせたいか、にも関わっていると思うな。

ペッシィ:まず大前提として、過去にキャッシングをしたことのある人、だね。

オプティ:そう。キャッシングの理由は人それぞれで一概にまとめることは危険だけれど、事業者がビジネスとしてキャッシングの心理的ハードルを下げるよう誘導しているのは気になるよね。

ペッシィ:「気軽に借りてちょんまげ~!」て奴ね。

オプティ:そんなCM見たことねえよ。

ペッシィ:じゃあ「はっじっめてっNo」

オプティ:馴染みのメロディで歌うなっ!

異口同音:(全力で)この文章はフィクションであり実在の事業者とは関係ありません!

ペッシィ:金を貸す方は貸しただけ儲かるから、借金を勧めるよな。でも借りる方は、利子の分だけ高い買い物をしているんだってことを、どれだけ自覚してるんだろう。

オプティ:繰り返すけど、個々の事情は違うから一概にまとめちゃいけない。でも、リボ払いとか気軽にしちゃう人は、危ういよね。

ペッシィ:ばk

オプティ:だーかーらー、よーのーなーかーにー、喧嘩売るな!

ペッシィ:ほう、素敵な消費生活の夢を食べる獏(ばく)の何が悪いと?

オプティ:ぐぬぬっ。

ペッシィ:消費社会は欲望を掻き立てる広告に満ちあふれていて、自分の購買力と消費生活のバランスを取ることに失敗すると、本来必要のない借入をしてしまうよな。

オプティ:えっ、真面目な話に戻るの?

ペッシィ:私は常に真面目だ、君もふざけるのはやめたまえ。

オプティ:ぐぬぬぬぬっ。(気を取り直して)広告の技法の話になるけど、どれだけ平易な文章であっても文字だけでは届かず、生理的刺激によって初めて届く層というのは、確かにあるよ。

ペッシィ:ケーキを三等分できない、みたいな?

オプティ:それも一例だね。「文章を読む」って、それこそリテラシー(原意は「読み書きの能力」)の問題で、実は誰もが同じように得意というわけじゃない。絵を描くのが得意な人と苦手な人がいるように、文章を読むのが得意な人も苦手な人もいる。誰もが「見たまま描ける」わけじゃない、誰もが「読んだまま理解できる」わけじゃない。

ペッシィ:なるほど、生理的刺激なら多くの人をカバーできる、というわけか。商売人はやることがエグいな。

オプティ:言い方! ビジネスにおけるマーケティングは本質的にそういうことだよ。如何にして顧客の需要を喚起するか、だからね。

ペッシィ:そのような広告戦術に対抗できる消費者側の武器がリテラシーというわけだね。そのことと、この広告の対象層とは、関係があるのかな。

オプティ:一概にはいえないけど……

ペッシィ:自己防衛強杉ワロスwww……おや、血の涙?

オプティ:いちがいにはいえないけどっっっっ! 大まかなモデルとして考えると、資金に余裕のある高所得層はキャッシングの必要がない。一定以下の所得層だと審査に通らない。結果的に中間層がキャッシングのメインターゲットになる。その中で、いろんな事情でお金を借りざるを得ない人もいれば、そこまでじゃなくても気軽に借りてしまう人もいる。後者は、何かを買いたいという欲求と、利子を払ってまで急いで買う必要があるかどうかの、比較衡量判断が生じる。事業活動なら機会費用の問題があるから、借入をしても利子以上の利益を事業で稼げれば、問題ない。個人の消費欲求の場合は……

ペッシィ:ばk……あ、夢を食べてるという意味ね。

オプティ:だから言い方だってば、敵を作っても何も解決せんぞ? 利子だけ高くついても今を愉しみたい、その想いを否定したら消費経済社会はうんと貧しいものになる。

ペッシィ:マクロとして正しいよ、それは否定せんよ。リテラシー概念は個人の話だからね。

オプティ:リテラシーに関連していうと、家計の経済力と子弟の学力には強い相関関係があって、経済格差がそのまま教育格差に繋がっているとOECD生徒の学習到達度調査(PISA)でも確認されている。

ペッシィ:経済格差が教育格差になり、教育格差がリテラシー格差になって生涯を左右するなら、格差は固定するということだな。下剋上の道は学習のみ。ドラゴン桜万歳。

オプティ:何度も繰り返すけど、一概にはいえないけど……自己防衛強くて何が悪い表現の正確性を求めた結果だよえーん。

ペッシィ:何も言ってないよ、泣くなよ。

オプティ:キャッシングをする層とリテラシーの低い層が一定程度の相関関係があるとするならば、リテラシーの低い層に向けて広告を打つ必要があるよな。

ペッシィ:あっ、そうか、これまでの迂遠な会話はそこに繋がるのか!

オプティ:迂遠ゆーな。

ペッシィ:だから下品な広告で生理的に訴求するのか!

オプティ:下品ゆーな。そんな表現するから、この話を届けたい人に届かないんだ。


■広告主の利益

ペッシィ:でもさ、多額の広告費用をペイできる商売なわけでしょ。一度依頼すると次々と有り難い壺とか買わされるとか。

オプティ:だからそれは開運商法だ! てか、手口に詳しいな。

ペッシィ:悪質商法の行政処分事例を見れば分かるよ。安価な開運財布にあんなに広告費用かけてペイするわけないからね。購入者は開運効能を信じる人ということで、その後にいろいろな開運商法の誘いが待ち受けている。数百万円かけて広告しても、数万人の読者のうち数百人が安価な開運グッズを買って、そのうち十人が継続的に数十万数百万の開運グッズを買ってくれれば、広告費用を大きく上回る利益があがる。あー、世の中信じられん信じられん。

オプティ:悪質商法はともかく……なんだか生きづらそうな性格だね。卸値と小売値の差額を気にするタイプ?

ペッシィ:経済回転の仕組みは承知してるよ、それを否定するほど愚かじゃない。

オプティ:だから、安易に愚かゆーな。

ペッシィ:今回の広告の場合だと、広告主である司法書士事務所の利益はどのくらいなんだろう?

オプティ:そこなんだよ、受任費用についてはこの広告に何ひとつ書かれていない。受任する以前の調査段階の広告だから、という抜け道だよね。場合によっては100万円以上取り戻せるような表示をしながら、そのうち何%が事務所の受任費用となるかは書かれていない。ただ、返金額の範囲内だということだけは、書かれている。だから依頼しても損はないという保証はされている。もしかすると100万円取り戻せても90万円は費用で消えて、手元に残るのは10万円かも知れない。そこまで高額なことは普通はないと思うけど、広告からは何も分からないんだ。

ペッシィ:費用が99万9999円で、結局戻ってくるのは1円だったりして。

オプティ:なわけあるかーい。

ペッシィ:率・額はともかく、広告主が儲かるからこれだけ手を広げてるのは、間違いないよね。

オプティ:それは否定できない。広告は、広く依頼者を募る投網なんだ。


■広告の心理誘導技術

ペッシィ:この広告、よく見ると「現金が戻る」と金色の大きなフォントで書いてある下に、目立たない白色で「可能性があります」て書いてある。裏面にも大きく太いフォントで「料金はいただきません」の上に小さな文字で「過払い金が戻ってこなければ」とある。なーんか、フェアじゃないなあ。こういう広告って、ありなの?

オプティ:いわゆる「打ち消し表示」だね。度を超せばアウト、これがどうかは、消費者庁などに聞いてみるしかないな。打ち消し表示の問題は消費者行政のひとつのトピックだから、基準を作ろうとしてるんじゃないかな。

ペッシィ:「昔○万円借りただけなのに○十万円戻ってきた」主婦○○さん、その横に顔写真。これ、本人? どこの芸能事務所?

オプティ:「○○さん」は仮名かも知れない。さすがにその横の顔写真の人と無関係は通らないと思うけど(それやってたら誇大広告)、事務所の顧客または職員で実際に過払い金返還のあった人なら、嘘ではないねえ。

ペッシィ:「しょぼくれた人生を送ってたけど、この財布を買ったらウハウハ」って美女に囲まれ札束風呂にはいってるオサーンと……いやなんでもない。

オプティ:おや、この短時間で処世術を覚えた?

ペッシィ:学びの達人と呼んでくれ。

オプティ:法律事務所の広告だから、一線を越えないように注意はしてると信じてるよ。

ペッシィ:無視? ねえ無視?

オプティ:ただ、同じように過払い金返還の広告をばんばん打っていたアディーレ法律事務所は、キャンペーン不正で行政処分されたことがある。法律事務所だから万全、というわけではないんだ。不正の摘発はどうしても事後になる。だから我々は自己防衛として、広告不正には注意した方がいい。今回この話題を出したのは、そういう趣旨なんだよ。

平成28年2月16日消費者庁「弁護士法人アディーレ法律事務所に対する景品表示法に基づく措置命令について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160216premiums_1.pdf

ペッシィ:覚えてる、これ。

■まとめ

オプティ:広告の是非はともかく、法的権利を持つ人にいくらかでもお金が戻ってくるのならば、それは間違いなく依頼人の利益だよ。眉をひそめるような扇情的広告を打っても、その広告によって法的権利者(敢えて「被害者」とは呼ばない)を掘り起こし、権利に基づく金銭を返還してもらい、依頼人と事務所に利益が上がるのなら、それは決して悪いことじゃない。

ペッシィ:広告の是非は?

オプティ:いたずらに批判するのではなくて、経済的インセンティブによって社会が正当に回る、そのことの利点にも目を配る必要がある。そう思うよ。

ペッシィ:広告の是非はー?


■本日摂取したオタク成分
『LOVE STAGE!!』第2~3話、3話でガチBL表現に突入。男子向けのエロ表現と同じでこのジャンルの必須要素なのだろう。まあそんなに抵抗はないし、話自体が面白いので問題なし。『WORKING'!!』第2話、やっぱり山田のキャラ好きだな。『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』第6話、なんだろう、性を話題にしながらメインキャストは禁欲的という。その分「安心」があるんだけどね。『ドラゴン桜2』第4話、日曜劇場定番の熱血だよなあ。『さよなら私のクラマー』第8話、ほぼBGV。『やくならマグカップも』第4~5話、完全BGVで全然観て無かった。見返したいとも思わず、切ることとする。

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