見出し画像

0323:(GaWatch書評編006)『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』

『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』
著:ありま猛
発行:小学館(サンデーうぇぶりSSC)

 作者であるありま猛というキャリアの長い作家のことを、私はほとんど知らなかった。近年『連ちゃんパパ』がSNSで評判になったので手に取り「あー、確かにパパ鬼畜で面白いや」と楽しんだという点で、世の中の多くの人と同じ立ち位置にいる。

 一方で、主人公であるあだち勉のことは、四十年前に知っていた。記憶が定かではないが、おそらくは講読していた『中一コース』またはその前の小学校高学年向け雑誌で見掛けたのだと思う。当時、あだち充も同誌で連載を持っていたのだが、私には勉と充の区別がついておらず、一人の作家がえらく傾向の違うものを描くんだなあと、もちろん充のパンチラにドキドキしながらぼんやり思っていたものだ。それでもいつしか兄弟であり別人なんだと認識するようになった。

 やがて充は『陽あたり良好!』『みゆき』『タッチ』と人気作家の階段を一気に駆け上がり、一方で勉の作品を見掛けることはなくなった。二十歳頃まではたまに思い出して「弟が人気作家になったので辞めちゃったのかなあ」と考えていた。

 彼を主人公に据えた本作『あだち勉物語』のことは、サンデーうぇぶりで連載が始まった際にSNSで情報を見掛け、その名前を懐かしむとともに、こんなマイナーな作家の伝記漫画って面白いんだろうか、とも少し首を傾げたものだ。

 そして、いよいよ単行本第1巻が発売された。ちとお高い価格設定に半日躊躇して、結局ポチった。当時勉のファンだったわけではないのだが、思春期の入口に充の作品と二重写しで刷り込まれた何かが自分の中にあるのかも知れない。そしてもちろん「連ちゃんパパ」が面白かったから、というのも大きい。

 第1巻は1970年代前半が描かれる。私は小学生だった。勉は学生時代にプロデビューして、弟・充と二人で暮らしながら漫画を描いていた。そこに作者ありまが弟子入りをする。やがてあだち兄弟はフジオ・プロに入り、赤塚不二夫、古谷三敏といった当時の人気作家やそのアシスタントたちと共に漫画を描き、日常を共にする。勉は、ギャンブル好きで、過激ないたずらをする人物として、フジオ・プロの人間たちの渦の中心で駆動する台風のような存在だ。連ちゃんパパのモデルであり、あだち充作品の愚兄賢弟の構図の実物であり、充の後書きによれば「勉の本当に面白いエピソードは表に出せないモノばかり」というのだから、相当に破天荒な人物だったのだろう。そのキャラクターの起こす騒動と、昭和のギャグ漫画界を牽引した表現者たちの現場を描くこと。それが本作の眼目だ。

 本作刊行を機に、ねとらぼに作者インタビューが掲載された。本書製作の背景事情などがよく分かるので、こちらもご一読を。

 さて。

 本作をどう評価するか。難しい。私は、面白かった。二巻も買うだろう、続きが読みたい。けれどもそこには、昭和の少年漫画をリアルタイムで読んでいた世代としての感性が間違いなく影響している。当時を知らない今の若い人たちが、本作を同じように面白がってくれるかどうかは、分からない。

 ただ、本作には現時点でも二つのアドバンテージがある。ひとつは、あだち充という国民的人気作家が登場し、勉との独特の距離感で行動していること。充は現在も最前線で活躍する大作家だ、その来歴を知りたいファンは多いだろう。もうひとつは、「連ちゃんパパ」のスマッシュヒットにより、ありま猛の漫画のテンポに馴染んだ人が少なからずいること。連ちゃんパパが面白かった人にとって、本作はそのリアル版(残念ながら現実から「毒を抜きオブラートにくるんで」(充の後書き)いるのだが)として愉しめる筈だ。

 というわけで、本書を広く積極的にお勧めすることは、しない。しないのだけれど、バーのマスターがこれと見込んだ常連客に裏メニューを耳打ちするように、こっそりと本書を紹介しようと考えてこの文章をしたためている。

--------(以下noteの平常日記要素)

■【累積43h58m】本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
実績93分。相変わらず会社法はなかなか頭に入りにくい。でも定着するまで足踏みするんじゃなくて、まずはひととおり最後まで学ぶのが初心者の進むべき道だ。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『小林さんちのメイドラゴンS』第6話、安定の京アニクオリティ。でも、原作でもそうなんだけれど、ルコアと翔太はどうも読んでて(観てて)居心地が悪いんだなあ。カンナとリコも基本尊いんだけど、リコの弾ける表現は微妙に引く。『ジャヒー様はくじけない!』第2話、相変わらず他愛ない内容。悪いわけじゃないんだけどね。『迷宮ブラックカンパニー』第5話、アリA出世。ホワイトでわろた。『ぼくたちのリメイク』第6話、エロゲー製作。ここまで観てなかった長男が原作ファンだそうで、今回見せたら「おお、動いてる!」と感動しとった。『女子高生の無駄づかい』第1~2話、本放送時も笑いながら観てたけど、あらためて観ても、笑うわー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?