283:司法書士試験お試し受験記
700万円の公務員年収を捨てて司法書士試験を受けようと志したのは、昨年9月のこと。10ヶ月前のことだ。志すのは誰でもできる。勉強自体はそうではない。それをつくづく思い知る10ヶ月だったように思う。3月末で早期退職し時間の融通がきくようになった後も別のことに時間を割くことが多く、結局学習は基礎レベル講座で数周どころか一周どころか1/3周くらいの状況で、今日の「お試し」に臨むこととなった。以下、ダメ見本のお試し受験の様子を記録しておこう。
(1)会場入り
会場地が遠いので前日のうちに現地入り。時間的余裕はあったけれど、結局直前勉強はテキストを数ページ捲るくらいにとどまる。
当日朝、8時過ぎに宿を出立。宿から会場までは2.7kmとのこと、それくらいなら街歩きを楽しもうということで、徒歩。昨日時点の予報では一日雨の筈だったが幸い曇り空だ。会場に近づくと人だかりが。司法書士試験と他の国家試験が同じ会場で同日に行われるようで、関係予備校の教職員がエールと資料配りに多数立っておられた。某予備校(私の所属しているところではない)の直前対策ミニパンフをいただく。
8時45分頃に指定された部屋に入ると、すでに監督員数名がおられた。おそらく法務局職員なのだろうね。私も公務員時代、介護支援専門員試験などの監督員を幾度か務めた。試験の直接の担当者なり担当ラインは人数が限られている。大規模試験の運営には課の総出でも到底足りず、部内他課の応援が必須だ。司法書士試験は会場地が全国15箇所、そこに今年は14,988人が出願しているのだから、会場地法務局だけでは足りず他の地域からも応援を求めているのではなかろうか。
結局時間があまりなく、ミニパンフも最初のページをチラ見するくらいで鞄にしまい、9時からの諸説明に臨むこととなった。
(2)試験説明でのトラブル
私のいた部屋では、説明時点で二点ほどトラブルがあった。
まず第一に、声がくぐもってよく聞き取れない。音量は十分なのだが音質がクリアとは到底言い難いのだ。透明なフェイスシールドの下にマスクをして、マイクはマスクとフェイスシールのどの間に差し込むようにして喋っていた。マスクのせいなのか、それとも部屋のスピーカーのせいなのか、もしかするとマイクの使い方と指向性特性(軸の延長方向とか)がマッチしていないのか。途中で複数の受験生から「聞こえません」という苦情があり、ボリュームを上げる方向でひとまず凌いでいた。これは午後の事前説明では多少改善していたので、何かを調整したのだろう。
次に、持ち込めるペットボトルについて500ml以内とのアナウンスがあった。実は受験案内には「ベットボトル1本」が持ち込み可とあり、大きさの制限が書かれていなかった。受験生の一人が監督員を呼び、「500ml以内って、受験案内に書いてありましたか? ないですよね? 大きいのを買ってきてしまったんですけど、ダメですか?」と尋ねていた。さあ、どう対応するのかな、とドキドキしながら耳をそばだてていると、監督員は会場リーダーと相談してから戻ってきて「やはり500ml以下じゃないと認められません」といい、受験生は素直に諦めていた。
さあ、これ、どうなんだろうね。受験案内に書いてない新規の制限が当日の口頭説明で課され、受験案内の制限には違反せず飲料を用意した受験生が、それを飲めない事態となった。是か、非か。
会場建物内に現地司令部が置かれている筈だし、法務局や法務省にもそれぞれ司令塔があると推察するが、試験開始まで時間がなく、部屋内で決着すべき場面ではあった。判断権が試験実施者に属している、という意味では、その会場でそう判断しそう指示したのであれば、受験生は従う他はない。
しかし事務方内部の「振り返り」、どのような対応が一番良かったかの検証の視点ではどうだろうか。口頭説明で規制する内容が受験案内に書いてなかったのが一番問題で、来年からは書いておけばこの問題は起きない(もし来年書いてなければトラブルのフィードバックがなされていないということでそれはそれでアウト)。口頭説明による制限で押し切ったことの理としては、他の全国の会場で同じ口頭説明が行われている以上、受験生の「公平」の観点を重視した、ということになる。一方で犠牲となったのは、その受験生の、夏場の長時間の試験時間中に水分補給をする機会だ。その点では逆に他の水分補給している受験生との間で公平を失している。私のようにもともと水分補給なしでいいと考えペットボトルを持ち込まなかった人間は別に構わない、しかし彼は水分補給をしたいと考えて用意をしていたのだ。それなのに、当日新規に付け加えられた制限により、水分補給できなくなった。そもそもペットボトルの持ち込みを許容しているのは体調管理への配慮であり、それを妨げるのは実は大きなことだ。私が現職公務員で試験監督員の立場なら、会場判断で500mlを超えるペットボトルであっても持ち込みを許容したと思う。他会場との公平を失することは、それこそ仮にどこかで問題になったとしても、「水分補給の権利を奪うことの方が問題と判断した」「それぞれの現場判断に任せる&司令部が責任を負う」「来年からは受験案内に書いておく」で十分に関係者を説得できると思うんだ。なので今回の会場判断は正直(あ〜あ、形式公平に流れたか)と思った。
スマホやタブレット端末は、全員一斉に全て机上に出して、電源を切ったことを確認し、カバンにしまう手順があった。これは合理的と思う。試験中にスマホ等の音が鳴ったら理由の如何を問わず失格だから。つまらないことで失格を出さないための丁寧なセレモニー。
(3)午前の試験
遅刻者を締め出す9時15分になると、試験問題と解答用紙が配布され、問題表紙の説明を読み上げ、解答用紙に受験地・受験番号・氏名を書く。これも一斉に専用の時間を設ける丁寧さだ。
周囲を見ると、受験番号シールが貼ってあるのに人がいない席がちらほらある。いろいろな事情で受験を諦めたのだろう。
9時半、試験開始。憲法民法商法刑法等35問。それぞれ選択肢が5つあって○×判断が必要になるから175題とも言えるが、全てを読まなくても試験としての正答には辿りつけるから、その辺りは他の試験と同様のテクニックになる。当然だがほとんど勉強していない商法系はちんぷんかんぷん、それでも一応目を通してそれっぽいものを選んだ。
途中、本人確認で監督員が回ってくる。「マスクを外して顔を見せてください」と書いた紙を持っていて、それに応じてマスクを外す。コロナ下特有の風景だろう。
問題冊子で頭から順に35問を解き終え、解答マークシートにぬりぬり。ある程度勉強して臨む試験ならこの段階で留保した問題を眺め直すのだが今回はもうそのまま転記。全て終えて鉛筆から手を離したのが95分経過時点、試験時間は残り25分だが、見直しをして得点が上がる状況ではないので、そのまま待機。途中退出が認められていないのがつらい。周囲を見ると、同じように手を離している人がちらりほらり。その姿はとても優秀で自信がありそうに見える。側から見ると私もそう見えてんのかな。
終了後、すぐに解答用紙回収。終わるまで待機。
(4)昼休み
解答用紙の回収が終わると11時40分。12時40分には午後の説明が始まるので昼休みは正味一時間だ。
私の受けた会場は、至近には飲食店やコンビニがなく、どちらの方向に向かうにせよ5分くらい歩く必要がある。事前に目星をつけていたラーメン屋に行くと行列が。並ぶか、コンビニで済ますか、迷いながら並ぶ。12時過ぎ入店、ラーメンの提供にはさほど時間はかからず、無事12時25分には退店。まあ結果オーライではあるけれど、こういう重要試験ならホントは安全な方を選ぶべきだよね。今年は試験を捨てているからこその芸当。
(5)午後の試験
不動産登記法商業登記法供託民事訴訟民事執行民自保全等。登記周りは本当に未勉強、問題を読むこと自体苦労する。
午後も本人確認があるかと思ったらなかった。みんなマスクつけてるから、髪型や服装が似ていたら途中ですり替わることも可能なんじゃないかな。まあ、それやったら永久欠格みたいなものだろうから(規定は知らないけど)、誰もやらんだろうけど。途中、マスクをずらしていた人がいたのだろうか、監督員がある受験生に「マスクを適切に着用してください」という紙を見せていた。
択一式35問をマークシートに転記した時点で午前と同じ95分経過、午後は3時間なのであと90分近くある。その時間は本来記述式2問に充てるのだが、全く記述式の勉強をしていないのではなから白紙で出すことにしていた。なのでつらつらと問題を眺める。これまで記述式の問題をちゃんと読んだことはなかった(模試も記述式はしてない)のだが、なるほど、これは実務の世界でありかつ択一式に必要な知識の総合問題だ。周囲の皆さんはバリバリ書いていらっしゃる。来年の受験時には私もこんなふうになっていなきゃ。
16時、終了。解答用紙の回収はマークシート1枚と記述式2枚をひとつずつ3週回収するので、結構時間がかかる。
(6)終了後
あー、疲れたーっ! 退職した四月以降で一番長時間集中した経験だった。
ともあれ、司法書士試験のレベルの高さと、それに比しての自分の非力を思い知る、良い経験だったよ。「勉強しなきゃなあ、しなきゃなあ」と言いながらサボってては到底辿り着けない。あと一年「もある」&「しかない」。noteでオタク成分だけじゃなくて司法書士試験勉強のラーニングログ付けるかな。
会場の建物を出たところで、朝の某予備校さんが午前の問題の回答速報冊子を配布していた。素早っ。
そこからまた街歩き。コロナ前には年1以上のペースで出張のあったこの街も一年半ぶりくらいだ。公務員を辞めることで出張機会も無くなった。自分ご褒美で少し高めの独りご飯を楽しみ、宿に戻ると疲労困憊、調べると今日一日で都合8kmくらい歩いていた。記憶の鮮明なうちにnoteに記録ガシガシ。
さあ、風呂に入って、ぐっすり寝よう。
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