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0547:(GaWatch書評編012)染谷みのる『刷ったもんだ』第6巻

 執筆中の小説『やくみん! お役所民族誌』は、私が27年間勤務した県庁を舞台のモデルとした公務員小説だ。自分がそういうものを書くようになると、他のお仕事物語も気になっている。

 そんな今、特に注目しているお仕事作品がふたつある。ひとつは泰三子『ハコヅメ 交番女子の逆襲』、といっても原作は1巻の前半くらいしかまだ読んでおらず、主にアニメ版で追っている(本作の所感は別の機会に譲る、できれば原作とドラマ版も押さえてから)。そしてもうひとつが染谷みのる『刷ったもんだ』である。最新第6巻が発行されたのでさっそく読んだ。

刷ったもんだ 第6巻
著:染谷みのる
発行:講談社(モーニングコミックス)

 未読の方は、今なら第1巻が無料のようなので、こちらをどうぞ。

 本作は印刷会社が舞台。元ヤンの主人公が印刷会社に就職してすぐの辺りから物語は始まる。コメディとしての設えの下、キャラの立った同僚たちと少しずつ人間関係を作りながら、印刷という仕事の魅力とやり甲斐に気付いていく主人公の成長物語という鉄板・王道のお仕事物だ。

 そして第6巻に至り、2年目に突入した主人公の前に三人の後輩が登場する。それぞれの個性の後輩たちが新しい環境の人間関係に揉まれ、元々いた人たちも新人との接し方に苦労する。一年前と違うのは、主人公は新人を迎え入れる立場にいるということだ。その視点の変化が、ここまで読んで来た読者には新鮮に映る。

 印刷会社が舞台ということで、本作には印刷会社の様々な蘊蓄が物語に盛り込まれている。印刷は表現技術のひとつの粋であり、いわばチームワークで表現活動を行うのだから、そこを舞台とする物語が面白くならない筈がない。ただ、他の表現者物語と決定的に違うのは、印刷会社はクライアントの要望を実現することが仕事という点だ。自分の表現したいものを打ち出せば良い、という世界ではない。そこが本作のひねりに当たる部分だろう。

 私も公務員時代に多数の印刷物を発注し、印刷会社の方にはいろいろとお世話になった(なので「やくみん!」のとうしゃんは印刷会社営業課長に設定しているわけだ)。印刷物成果品はアウトプットだ。クライアントはその印刷物を発行することで何らかの目的を達成したいと考えている、これはアウトカムだ。印刷のプロでないクライアントは、自分でアウトカムに最適のアウトプットを生み出すことができない。だからプロの印刷会社に発注する。そして印刷会社は、クライアントの求めるアウトカムを見据えて、デザイン・色彩・判型・紙質などの総合による「印刷物」というアウトプットを生み出す。それはまさにプロの仕事だ。

 印刷の仕事は日本の隅々にある。けれども印刷会社以外の人は、印刷の現場を知らない。本作は、そんな「どこにでもあるのに知られていない仕事」に焦点を当て、エンターテインメントとしての骨組みと表現をしっかりと仕上げた、間違いのない作品だ。多くの人にお勧めできる。

 で、実写ドラマ化、マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積222h00m/合格目安3,000時間まであと2,778時間】
 ノー勉強デー。週ナカ家業デーでバタバタしたということもあるが、どうも試験勉強のエンジンがかからない。ツーストロークバイクのキックペダルを何回蹴っても始動しないみたいな。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『重神機パンドーラ』最終話、大団円。ここで家族契約条項を連呼とは、ずるいなあ。ここまで観てたら盛り上がらない筈がないじゃないか。前回のエミリアの扱いといい、序盤から小ネタのように出してきたものをしっかり物語の駆動力に使ってるのはうまい。

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