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【空想読み物】プロ野球 無惨なパワハラ会議

今から数ヶ月前、2020年の11月末。
都内某ホテルの会議室―
絨毯敷の床の上に演壇とそれに向かい合うように3つずつ2列に並べられた計6つのパイプ椅子。
たったそれだけの決して広くない会議室に、セ・リーグ各球団のマスコットが勢揃いしていた。

ドアラ「セ・リーグのマスコットのみ集められている。こんなことは初めてだぞ…」
いったい何が行われるのか。状況が把握できず戸惑っているセ・リーグ各球団のマスコットたち。
その中で、ジャビットだけは独り顔面蒼白でうなだれている。

そこへ、見ず知らずの初老の男と若い女性が入ってくる。
ドアラ(何だ?あのおっさんは誰だ?)
女性「本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、日本野球機構コミッショナーより皆様にお話がございます。」
初老の男「頭を垂れて敬え。着席せよ。」

「!!!」
マスコットたちはあわてふためき、一斉に最敬礼して席につく。
ドアラ(に、日本野球機構のコミッショナーだ…わからなかった(顔知らんから(笑)))

つば九郎「も、申し訳ございません。お顔を存じ上げなかったもので。」
コミ「誰が喋って良いと言った?貴様共の下らぬ意志で物を言うな。私に聞かれたことにのみ答えよ。」

コミ「日本シリーズでジャイアンツが負けた。0勝4敗だ。」
ジャビットの肩がビクッと動く。
コミ「私が問いたいのは一つのみ、なにゆえにセ・リーグの球団はそれほどまで弱いのか?」
「プロ野球選手になれたからといって終わりではない、そこから始まりだ。より練習に励み、より上手くなり、ファンの声援に応え日本プロ野球界を盛り上げるための始まり。」
「ここ数年、日本シリーズの勝者はパ・リーグばかりで変わらない。交流戦の優勝もほとんどがパ・リーグの球団だ。
だがセ・リーグはどうか?何度優勝争いに絡んだ?」
DBスターマン(そんなことを俺たちに言われても…)
コミ「そんなことを俺たちに言われても、何だ?言ってみろ。」
DB(!! 思考が読めるのか、…まずい!)
コミ「何がまずい?…言ってみろ!」
コミッショナーに ぐしゃりと帽子を掴まれ、頭を強引に引っ張り上げられるDBスターマン。
DB「お許しくださいませコミッショナー様!どうか、どうかお慈悲を!」
「申し訳ありません、申し訳ありません。申し訳ありま……あぁぁ!!」
無慈悲にDBスターマンの首(の被り物)がもぎり取られ、会議室の絨毯の上に転がる。

つば九郎(何でこんなことに…"ピー"されるのか?)
ドアラ(せっかく人気マスコットになれたのに、なぜだ、なぜだ!)
つ・ド(俺はこれから、もっと、もっと…)

---
コミ「日本球界よりもメジャーリーグの方が魅力的か?」
スライリー「いいえ!」
コミ「お前の球団の選手はいつもFA権を取得した場合、メジャーリーグか巨人阪神に移籍しようと思っているな。」
スラ「いいえ思っていません!私どもの選手は、カープファンの為に命をかけて戦います!」
コミ「お前は私が言うことを否定するのか?」
スラ「……(涙目)」
スライリーの首(の被り物)が宙を舞う。

ドアラ(ダメだ、お終いだ。)
つば九郎(思考は読まれ、肯定しても否定しても"ピー"される。)
ドアラ(戦って勝てるはずもない(権力的に)。)
ドアラとつば九郎、ここでアイコンタクト。
ド・つ(なら…)
素早く立ち上がるや否や、退室を試みる二人。
ド・つ(逃げるしか!)

そんな二人を見てトラッキーがぽそり。
「アホやなぁ…」

会議室を飛び出しひたすらに走るドアラとつば九郎。
ドア(何とか逃げ切れ、何とか!)
つば(これだけ離れれば……!)
しかしふと気が付くと、コミッショナーの両脇にドアラとつば九郎の首が抱えられている。
ドア(やられている?)
つば(そんな?!秘書の女の差し金か?いや、あいつは何もしてなかった。)
(ぐぅぅ何故だ、こんなおっさんごときの腕から逃れられない。)

ドアラとつば九郎の首(の被り物 )をもぎ取り、それらを無造作に絨毯に投げ転がすコミッショナー。
コミ「もはや日本プロ野球はパ・リーグのみで良いと思っている。セ・リーグは解体する。」

残っているのはジャビットとトラッキーの二人。
コミ「最後に何か言い残すことは?」
ジャビット「私どもはまだお役に立てます!もう少しだけご猶予を頂けるのならば必ずお役に!」「なにとぞリベンジの機会を!」
コミ「具体的にどれほどの猶予を?お前はどの様な役に立てる?今のお前の球団の力でどれほどの事ができる?」
ジャ「ほ、補強を!FAでもっと補強させていただければ、私どもは必ず選手を球団に順応させてみせます!」「より強力な球団となり戦います!」
コミ「なぜ毎年のようにFA補強しているにも関わらず日本一になれぬ球団の言うことを信用せねばならんのだ。」
「甚だ図々しい、身の程をわきまえろ。」
ジャ「違います、違います、私どもは!」
コミ「黙れ。何も違わない。私は何も間違えない。全ての決定権は私にあり、私の言うことは絶対である。お前に拒否する権利はない、私が正しいと言ったことが正しいのだ。」「お前は私に指図した。"ピー"に値する。」

---
ジャビットの首(の被り物)が、絨毯の上に横たわっている。
一人残ったトラッキーにコミッショナーが問いかける。
コミ「最後に言い残すことは?」
トラッキー「そうやなぁ~…ボクは夢見心地でございます。貴方様直々に手を下して頂けることを。」
「他のマスコットの断末魔を聞けて楽しかったぁ~、幸せやったぁ~。」
「敵チームを倒すのが好きやから、特に巨人のボケをシバくのが夢に見るほどむっちゃ好きやさかい、ボクを最後まで残してくださって、ほんまにおおきに~。」

しばしの沈黙。
コミッショナー、突然トラッキーの胸ぐらを掴み引き起こす。
コミ「気に入った。お前の球団には関西学生野球リーグのスラッガーを与えてやろう。」
ドラ1で佐藤輝明がタイガースに与えられた。
コミ「ただしお前の球団は充分に育てきれず戦力にならないかもしれない。だがうまく育成できたならば、さらなる強さを手に入れるだろう。」「そして日本プロ野球界を盛り上げる役に立て。パ・リーグの球団を倒せ。」
「鷹のマスコットの球団を倒せば、もっと戦力を与えてやる。」

掴まれた胸ぐらを離され、トラッキーがふらふらと床にへたりこむ。

女性「本日の緊急会合は以上となります。皆様お疲れ様でした。」
会議室からコミッショナーと秘書が去る。

トラ「うぅ、これで来シーズンも甲子園にファンの皆様が流れ込んでくる…」
  「ふふ、ふふふ、パ・リーグと鷹の球団を倒せばもっと戦力を頂ける。夢心地や~。」

そして、2021年のペナントレースが幕を開けるのであった…

(おわり)

【次回予告】
~セパ交流戦篇~
パ・リーグの参(位)、マー君現る。
「素晴らしい提案をしよう。
 お前らもパ・リーグに入らないか?」

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