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824 ミスミGが納期革命、「複雑な大口注文」最短5分で提案基幹システム刷新 内製で新機能開発もDXTREND2023年3月22日 5:00

ミスミGが納期革命、「複雑な大口注文」最短5分で提案

基幹システム刷新 内製で新機能開発も

DXTREND

2023年3月22日 5:00

開発の内製化で業務サービスも素早く改善する

機械部品で世界最大級の品ぞろえを持つミスミグループ本社はデジタルトランスフォーメーション(DX)で、顧客の調達プロセスのムダを省く。自社と協力メーカーで3000万点超の規格部品の在庫データを一元管理し、複雑な調整のいる大口注文でも最短5分で完結させ、納期の提案スピードを100倍近くにする。5年がかりで基幹システムを刷新し、世界各国のニーズに合わせた製造・流通サービスの新機能を内製できる組織に変える。

「現地法人の要望に応えることができた」。入社3年目の浜西麻世さんは2月に東南アジアへ出張し、生産性向上への貢献を喜ぶ。機械部品の注文をさばく現地社員から「エラーメッセージなど、母国語ではない英語の複雑な説明文が分かりにくい」といった声があがり、業務ツールを改善。理解しやすいメッセージの表示方法に変えた。

活用したのは、プログラミングの高度な知識がなくても使える「ローコード開発プラットフォーム」だ。ミスミGが基幹システムの刷新で導入し、「パズルみたいで作業しやすい」(浜西さん)と若手も即戦力になる。事業や法規制の変化に合わせたシステム改善や機能追加を内製でこなし、開発を3倍速にする。

海外・大口も改善

ミスミGはファクトリーオートメーション(FA)や金型向けの機械部品を製造し、販売している。協力メーカーのサプライヤー製品も扱い、既製の規格部品だけで3000万点を超える。寸法の違いを含めると、バリエーションは800垓(がい、1兆の800億倍)。ウェブでの品ぞろえの豊富さや短納期を強みにし、「製造部品のアマゾン」と注目される。

ミスミグループ本社が手がける機械部品の生産現場

2016年からは特注部品を短納期で供給するサービス「meviy(メビー)」も始めた。顧客が3次元の部品設計データを専用サイトに送ると、人工知能(AI)が図面を解析し、価格や納期を示す。最短で翌日に出荷する仕組みだ。21年末から欧州、22年秋からは北米でも展開し、累計の見積もりデータ数は1100万件に達した。

車や携帯、家電などの生産に必要な機械部品は多種多様で、納品に数週間かかるケースもある。ミスミGは短納期にこだわって国内外の33万社超と取引しているが、大口注文で在庫がない場合や海外での時間短縮が課題だった。

最大のボトルネックは1989年からの旧基幹システムで、約200社のベンダーに外注し、増改築を繰り返してきた。最高情報責任者(CIO)の佐藤年成常務執行役員は「システム部門の丸投げ体質を打破しないと10年先の成長はない」と危機感を抱き、2019〜23年度に計200億円を投じて刷新を進めている。

旧基幹システムは「顧客」「社内」「仕入れ先」の3つの業務ごとに設計が独立。例えば入出荷サービスでの新機能追加など、業務横断の変更に時間やコストがかかった。新基幹システム「ニュートン」はまず3業務を1つのシステム内に集約し、機能の重複を解消した。その上で機能別の3層構造に変え、新たなデジタル技術を入れた。

1つ目の「アプリケーション層」は操作性のスピード改善を狙う。ローコード開発で、社員が業務サービスの機能や画面を柔軟に改良する。

コスト3分の1

2つ目は短納期を実現する「マイクロサービス層」だ。商品登録、選定、見積もり、調達、物流など注文から納品までの時間にかかわる30近い機能をまとめる。ミスミGが自社とサプライヤーの膨大な在庫データを一元管理し、可視化する。

3つ目が「エンタープライズ層」で販売や仕入れの各種伝票、会計などのデータをまとめて業務を減らす。一連の刷新で新機能の開発スピードを3倍、コストを3分の1にする計画だ。新しい基幹システムが全面稼働すると、商品選択、在庫確認、納期や価格の提示までの注文時間は全体平均で3分の1に縮まる。

ミスミGが提供する機械部品

特に課題だった機械部品の大口注文で、自社在庫では足りない場合の恩恵が大きい。従来は顧客とミスミG、サプライヤーの3者で在庫や納期の調整などが発生し、解決に420分かかることも。今後はミスミGと全国のサプライヤーの在庫データを自動で組み合わせ、最短5分で納期を提案。当日出荷など、競合より納期が早い商品数を3倍以上にする。

売上高の海外比率が6割近くになり、今後は北米や欧州、中国、東南アジアでさらに事業を拡大する。それに伴い、各国の成長産業や商慣習に合わせたサービス改善の課題は膨らむ。開発の内製化で、新機能や改善の年間件数を10倍にし、調達DXを加速する。

米中勢との競争は激しく

機械部品の需要は伸びる見通しだ。調査会社グローバルインフォメーションによると、世界のFA市場は2028年には2492億ドル(約33兆円)に達し、年平均成長率8.2%と推定する。足元は景気減速への懸念で投資抑制の動きもあるが、中長期で工場の自動化や電動化は欠かせない。
とくに軽量化が重要な電気自動車(EV)の部品を加工する機械では、高精度の様々な部品が求められる。立花証券の島田嘉一アナリストは「機械部品の熟練工は減り、多品種を短納期で提供するサービスの需要は高まる」と指摘する。
ミスミGは国内外の車メーカーも顧客に抱え、規格外の機械部品の需要も増える。特注部品を含め、欧米やアジアで製造・流通サービスを広げるが、米国のゾメトリーや中国の怡合達社など海外勢との競争は激しい。
新型コロナウイルス禍では機械部品の供給網が混乱し、企業は納期により敏感になった。「国際競争力を高めるには価格と短納期の要望にいかに応えられるかが重要だ」(島田アナリスト)。デジタル技術の内製化を進め、国ごとに異なる顧客ニーズや商慣習に素早く対応できるかどうかが成長を左右する。

(末藤加恵)

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