1016 ソニーグループ吉田会長が「クリエーション・シフト」を宣言 ソニーが「家電メーカー」から「エンタメ企業」に転身宣言

メモ。

5min2024.9.27

ソニーグループ吉田会長が「クリエーション・シフト」を宣言

英紙も注目 ソニーが「家電メーカー」から「エンタメ企業」に転身宣言


英紙のインタビューに応じたソニーグループの吉田会長 Photo by Alex Wong/Getty Images


日本の大企業ソニーグループは、ネットフリックスやアップル、アマゾンら強敵がはびこる3兆ドル規模のエンタメ業界に参戦する方針を公表した。オリジナリティを追求したコンテンツで勝負する戦略をソニーグループの吉田会長に英紙が聞いた。


クリエーション・シフト


日本を代表するテック大企業ソニーはいま、数十億円を投じ、よりオリジナリティを追求したコンテンツを提供することに社運を賭けている。この「クリエーション・シフト」によって、3兆ドル(450兆円)の規模を誇るエンタメ業界で莫大なシェアを獲得するねらいだ。

本紙のインタビューで、ソニーグループ会長の吉田憲一郎は、知的好奇心をくすぐるコンテンツを配信するのではなく、自ら生み出す方向にフォーカスすることがいまのソニーには必要だと話した。この転換により、ソニーが家電メーカーから世界的なエンタメ企業に転身することを目指していると吉田はいう。

「私たちには確かな技術がありますし、クリエーションは私たちが愛し、もっとも貢献できる分野です」と吉田会長は語る。さらに会長は、生きたエンターテインメントを生み出すうえで、カメラやセンサーをはじめ、ソニーがこれまで築いてきた家電製造のルーツも有効活用できると続けた。

吉田の指揮のもと、ソニーグループは過去6年間、10億ドル(150億円)規模でエンタメ分野に力を入れてきた。ゲーム、映画、音楽。この3つのビジネスは、ソニーグループの年商の60%を占めている。

市場リサーチ機関によると、この方針転換により、ソニーは2024年に2500億ドル(3兆7500億円)もの市場規模に発展した世界のエンタメ業界に足を踏み入れることになる。ライバルはネットフリックスやアップル、アマゾンなどの大企業。言うまでもなく強敵ばかりだ。

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ソニーの切り札


ソニーはこれまで、他の企業とは異なるアプローチをとってきた。コンテンツ配信元の企業と競合するのではなく、それらの企業に対し、自社の映画やテレビ番組を配信する権利を売るという形で戦ってきたのである。ソニーがエンタメ業界により深く参入するにあたり、ソニーにとってこのビジネス関係は重要な切り札だ。

吉田はこう語る。「クリエーションに力を入れるということはつまり、配信する側の企業が取引相手になるということでもあります。私たちがいままで配信元のテック大企業と良好な関係を築いてきたことがいま、私たちのビジネスに大きな利益をもたらしてくれているのです」

ソニーはあらゆるメディアビジネスに投資し、獲得したコンテンツからより大きな利益を上げてきた。近年では、プレイステーションの人気ゲームからテレビドラマ化された『ザ・ラスト・オブ・アス』や、やはり人気ゲームで映画化された『アンチャーテッド』の成功が挙げられる。

こうした莫大な投資の数々を経て、ソニーの幹部たちは、自社がより大きな利益を得るためには、もっと早い段階からコンテンツのクリエーションに専念すべきだったのではないかと考えた。

「ゲームにせよ、映画にせよ、アニメにせよ、私たちは最初から制作を手がけてきたわけではありません。私たちには、イチから制作した作品がありません。それが問題なのです」と、吉田の後継者としてよく知られるソニーグループの十時裕樹社長は語る。ソニーは長年、国内市場ですでに人気のあるコンテンツを世界に売り込むことを得意としてきたのだ。

ジェフリーズ証券会社のアナリスト、アトゥル・ゴヤルによれば、今回の決定は、ソニーが総合メディア企業として進化するうえで当然のことだという。しかし投資者たちはソニーに対し、着実なプランを提示して、新たなフェーズが今まで以上の利益をもたらすことを確約してほしいと求めている。

「まず必要なのは、知的財産となる作品を作ることです。それが第一段階です」と、ゴヤルは指摘する。「自ら作品を生み出しもせず、他社の作品の権利を買うこともしなければ、他人に先を越されてしまうでしょう。何もしないことこそ、最大のリスクなのです」


成功のカギ


「クリエーション・シフト」が成功するかどうかは、世界で圧倒的な人気を誇る日本のアニメから、ソニーがいかに大きな利益を得られるかという点にかかっている。2021年、AT&Tのアニメ配信サービス「クランチロール」は12億ドル(1800億円)もの規模で日本アニメを米国に大量に導入し、その人気は全米でとどまることを知らない。「日本のアニメは社会現象になっています」と、クランチロール社長のラフール・プリニは語る。

クランチロールは現在、年間200近いアニメ作品をリリースしている。4年前に比べると、そのリリース数は2倍に激増した。「私たちのリサーチでは、世界には8億人もの日本アニメファンがいます。数年後には、10億人を超えるでしょう」

しかしプリニは、この数年間で、アニメのプロデュースにかかるコストが平均40%から60%も増加していることも指摘した。この背景には、日本のアニメクリエイターたちの報酬が上がりつつあること、そしてアニメーターの人材そのものが限られていることが挙げられる。

1500万人もの視聴者を持つクランチロールとソニーは、アニメ番組を共同制作することで、この問題を解決しようと手を組んだ。さらに2社は、アニメ制作のプロセスをより効率的にすべく、多くのアニメーターを教育するとともに、デジタルツールや新しいソフトウェアを駆使している。

プリニはこう付け加えた。「環境に配慮することを考えると、ソニーをはじめあらゆる企業が、これ以上キャパシティや人員を増やすにはどの方法が最適か考えなければなりません。そして、制作過程でテクノロジーを利用する最適な方法を見つけ出すことも必要です」

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今後の課題


社長の十時は、クランチロール視聴者のサービス向上のため、ソニーがプレイステーションネットワークを通じて培ってきたノウハウも活用していきたいと述べた(たとえば支払い、セキュリティ、データ分析などで)。加えて、この共同プロモーションを通して、ビジネスの機会をさらに広げていきたいという展望も語った。

「プレイステーションネットワーク利用者の30%がアニメを視聴していますが、クランチロールのアカウントを持っているのはわずか5%ほどです」と、十時は説明する。

しかしエンタメ業界へのさらなる進出には、最先端の作品を生み出すべくAIツールを駆使するアニメーターやゲーム製作者、ディレクターたちとの白熱の競争がつきものである。これは、ソニー幹部たちも重々承知だ。

吉田はこう語る。「エンタメ業界でソニーの地位を確立するのは、簡単なことではないでしょう。いかにクリエイターの権利を守りつつテクノロジーを活用していくべきか、私たちは常に考えていかなければなりません」


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