「人間が作った創作物という根拠はどこから?」

 おはようございます。世の人たちが口にする「AIが人間の仕事を奪うか否か」という話題に関して、少し切り口を変えた話を、ご提案いたします。

 「物語の執筆」、という分野に関してです。

 小説、テキストを媒体とした、フィクションの創作物を、AIが書き連ねることができるか否かを考えてみます。

 おそらくは、2020年の現代を生きる人々の大勢は、「まだしばらく先のことじゃないかな」と、解答する方が多いのではないでしょうか。

 一冊じっくり読めば、少なくともそれが「人の書いた作品」であることぐらいはわかる。と、自信をもって応えられる方も多いでしょう。

 しかし一方で、「物語(商品)のキャッチコピー」を見た時に、はたしてそれが、人間の想像性によって作られたメッセージか、AIによって抽出された、無差別な単語の集合体であるか、判別することはできるでしょうか。

 この試みは、すでに各方面で実践されています。結果は、現段階において、すでに40%もの人々が「AIの文章だと見抜けなかった」あるいは「AIのコピーの方が秀逸であった」という解答がでています。

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 話は変わりますが、小説の新人賞では、大体において「あらすじ」というものが募集要項として求められます。

 「あらすじ」は、原則として、物語の冒頭から結末までの内容をまとめたものになります。新人賞の部門によっても変わりますが、だいたい800文字から1200文字前後といったところでしょうか。

 応募された原稿の内容の、すべてに目をしていくことは、時間的に大きな労力を必要としますから、審査する側は、まずはこの「あらすじ」を読んで、おおよその見当をつけることになります。

 審査員の中には、この「あらすじ」を見ただけで、応募者の実力の大体のところはわかると言う方も少なくありません。

 「あらすじ」とは、いわば、要点を抑えたメモです。
 社会人でも、優れた人たちは、自身の意見やアイディアを、要点を抑えて、わかりやすく、相手に伝えることができます。

 では、この「あらすじ」を書くことに特化したAIを作ることは、不可能でしょうか。2020年において、50文字未満のキャッチコピーが、大体半数の人間の支持を得られるわけですから、少なくとも私は「0%」ではない。と考えています。

 仮に3年後、800文字の「あらすじ」を、AIが書いた場合、それに興味を惹かれる人間の割合が、三割(30%)いるとしましょう。

 また、物語というものは、往々にして「最初が肝心」「終わりよければすべて良し」と言われることもあります。

 これは小説のみならず、創作物というものは「最初と最後を見れば」、大体の実力が分かってしまう。ということです。

 では、「800文字のあらすじ」をAIが書き、さらに、最初の1ページと、最後の1ページ、仮にこれらも800字ずつ、合わせて1600文字だとしましょう。すなわち小説全体のうち、2400字の文章を、AIが担っていることになります。

 この上で、選定する人間が、従来までの最適化された評価手順を踏むとします。あらすじ、最初の1ページ、最後の1ページを読み、その時点で興味を抱いたり、惹かれるものがあれば、内容にも目を通すわけです。

 すると、ひとりの選定者が
 作者の本文に、興味を持って目を通す確率は

 0.3x0.3x0.3=0.027 (2.7%) と言えます。
 
 AIの精度は今後も上がるでしょうから、この確率自体は、年々上昇の一途をたどるでしょう。まずはたった2400文字をAIに任せることで、「他人から読まれる小説をうみだす」条件は、クリアされると言えます。

 つまり、AIが直接小説をかかずとも、「人間の感情を利用して攻略する」「人間に等しい創作を行ったと錯覚させること自体」は、これより数年以内に、十分に達成できる条件です。

 さらにこの例からは、「AIが人間の仕事を奪うわけではない」ということも視えてきます。

 むしろ人間が、「AIというツール」を駆使することで、べつの人間を操作する。利を得るようになるだろうと考えるのが自然です。反して、そのような人間に上手く利用される者が、信用を失い、職を失っていくことも、予想できます。

 「わたしは騙されない」「人を見る目がある」「一部を見れば大体わかる」という、自信を持った人たち。そうした人たちで構成された組織。

 個人の「目利き」で判断して、新人を採用する。そのシステムの枠組みを変えられなかった業界は、結局のところ、今後大きな変化を生みだせる可能性は低いだろうと予想できます。

 あるいはそもそも、「新しいもの」を見出そうとする気持ちが、ないのかもしれません。今が良ければそれで良い。そうした考えを持つ当人たちこそが、望んでAIを利用する側にも回るでしょう。

 それがこの先、もっとも効率が良くて、楽ですからね。