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質問: 地球寒冷化はいつ起こるのか?

回答: 少なくとも数万年は寒冷化しない。


東京大学 工学系研究科 古気候学
助教 木野佳音さん(KINO Kanon)



〈目次〉
1.温暖な間氷期はあと数万年続く
2.過去は将来を解く鍵

1.温暖な間氷期はあと数万年続く

図1

水安定同位体の存在比(水同位体比)は、特に極域においては、気温が低いほど、降水中の重い水同位体の存在比率が低い傾向がある。


過去100万年の間、天文学的な要因(地球の公転軌道の離心率や自転軸の傾き、自転軸の歳差運動の準周期的な変化)により、地球上の日射量分布が変化することで、寒冷な氷期と温暖な間氷期が数万年単位で繰り返されてきた。

現在は、後者の間氷期にあたる。間氷期の長さは時代によって異なるが、約1万年前に始まった今の間氷期においては、将来の日射量変化のみを考慮した場合で3~5万年続くとされている(Archer and Ganopolski, 2005)。

人間活動による二酸化炭素 (CO2) などの温室効果ガス排出は、間氷期の長さに大きな影響を与えている。

氷期と間氷期が繰り返される間に大気中のCO2濃度 (以下、単にCO2) がどのように変化してきたか、南極の氷床コア(図1)から知ることができる。

氷期と間氷期が繰り返される間、CO2はおよそ180から280 ppmの間で推移してきた(図2)。

それが、直近100年余りの間に人間活動によって急激に増加し、2022年には約416 ppmに達した。

このCO2の増加は、今の間氷期をさらに長引かせることが分かっている。つまり、地球の寒冷化は当面起こらないと考えてよいだろう。

図2:大気中のCO2濃度の変遷
過去80万年間は一定幅に収まってきたが、
過去100年余りで一気に上昇している。


2.過去は将来を解く鍵
将来の気候変動予測にあたっては、世界中の気候モデルによるシミュレーションが精力的に行われているが、それらの将来予測はどの程度確からしいのだろうか。

タイムマシンに乗って21世紀末の気候がどれくらい暖かくなっているか、確かめることは残念ながらできない。

一方で、過去の気候がどのような状態だったかについては、タイムマシンに乗らずとも、間接的な方法で調べることができる。

たとえば南極の氷床コアは、図2で示したCO2の他にも、さまざまな過去の気候に関する情報を教えてくれる。

中でも、水の安定同位体には、気温が低いほど重い同位体の存在比率 (水同位体比) が減るという特徴があり (図1)、水同位体比は気温の変化傾向の情報を含む。

そこで、氷床コアが記録した過去の水同位体比変動から推定される気温変動を気候モデルによって再現できれば、気候モデルによる将来予測の信頼性を高めることにつながる。

この場合の課題は、氷床コア中の水同位体比変動から実際の気温変動をどのように推定すればよいかである。

従来の研究では、水同位体比と気温の換算には経験的な手法や簡便な1次元理論モデルが使用されてきた。

一方、実際に将来の気候変動予測に使われている気候モデルの中でも、地球上の大気の水の輸送に伴う水同位体の挙動を直接計算できるモデルを使って、過去の気候をシミュレートしている。

これにより、偏西風や低気圧・高気圧といった気象要素が、南極に降る雪の水同位体比と気温の関係にとって重要であることがわかっていた。

今後は、南極氷床コアや世界中の過去の気候復元を利用しながら、気候モデルの評価を進めていく予定である。


参照元: 「UTokyo FOCUS」Webサイト

以上

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