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用語説明/『入社式』


「入社式」という用語について、辞書に書かれている内容を確認してみました。

一般的な企業への入社式の内容と思っていましたが、「入社式」いう用語には、民俗学的・文化人類学的・宗教的な異なる意味が存在することに驚きました。

やや不気味で怖いと思われる内容が含まれています。このような内容が苦手な方々は、本記事を無視していただければ幸いです。

以降、2つの辞書の「入社式」の内容を記載いたします。


■精選版 日本国語大辞典
入社に際し、その初めに新入社員を集めて行なう式典。


■ 日本大百科全書(ニッポニカ)
若者組のような男子結社や秘密結社に加入するために行われる通過儀礼。

この儀礼を通過することによって、その結社のさまざまな地位・権利・特権を獲得することができる。

加入儀礼またはイニシエーション儀礼ともよばれる。

入社式は多くの場合、秘密のうちに行われる。これに対して、成人に達した男女が、個人的、家族的に行う祝い事は「成熟祝い」とよばれ区別される。

成熟祝いは家族のような比較的小さな社会単位のなかで、個人中心的に行われ、秘儀性を伴わないのが普通である。

したがって、成熟祝いは、集団への所属権の変更よりも、個人の地位の変更を強調している。

これに対して入社式は、複数の者に対して同時に行われる。

この儀礼は伝統的社会では思春期またはその前後に行われることが多いので、成年式と区別しにくいこともあるが、儀礼を受けた者が明確な社会集団を構成するという点において、他のすべての通過儀礼と異なっている。

伝統的な種族社会で一般にみられる入社式では、男子をこれまでに属していた女と子供の世界から切り離し、一定の期間彼らを物理的に隔離することが多い。

この場合、若者たちが一度死んでふたたび新しく生まれ変わること、つまり「死と再生」という観念に結び付いた一連の象徴的儀礼をしばしば伴っている。

また、隔離期間には、その種族の祖先や年長者に対する尊敬と服従が教え込まれ、一人前の成人男子として苦難に耐える能力を示す精神的・肉体的な試練を受ける。

こうした試練に耐えて通過した者にのみ、それぞれの結社が理想とする「聖なる世界」の哲学・目的・世界観が啓示されるのである。

入社式の過程で、身体変工とよばれる抜歯、文身(ぶんしん)(いれずみ)、割礼(かつれい)などが若者に施されるが、これは「社会的切断」とよばれる儀礼で、若者を彼の親や親族との依存的紐帯(ちゅうたい)から社会の手で切断することを象徴するものである。

身体変工は若者を一人前の自立的人間たらしめ、同期に施術を経験した他の若者たちとの連帯感を強化し、同じ種族の成員としての責任の自覚を促す目的をもっている。

たとえば西アフリカのリベリア、シエラレオネ、ギニアにかけて住んでいるクペル人のポロとよばれる秘密結社の入社式では、学齢期の少年の数が十分そろっていると考えられたときに、ポロの長老たちによって、村から離れた藪(やぶ)の中にポロとよばれる訓練所が設けられ、仮面をつけた結社の男たちが、少年たちを連れて行くために村に派遣される。

少年たちは腹に鶏の血が入った袋を巻き付けられ、ポロの柵内(さくない)へ投げ入れられるとき、槍(やり)で袋を刺される。

袋が破れて血が流れるが、これは少年たちが一度死んだということを象徴する。また少年たちには割礼を含めた傷身が施される。少年たちの修練期間が終わると、新しく名前をもらい、村へ帰ってきたとき、別人のごとくふるまう。

わが国でも成年式の祝いをナガエ(名替え)という地方があったし、京都付近でヨボシギとよばれる成年式で幼名を改めている。

このように、入社式は種々の儀礼や要素から構成されているが、その中心は、再生を伴う儀礼的死であり、加入候補者の心身に変革をおこし、新しい人間に生まれ変わることを目的としている。




引用元: 「コトバンク」Webサイト

以上

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