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あらかじめ決められた恋人たちへ TOUR2014 "Dubbing 07"記憶の旅@東京キネマ倶楽部 雑感

「あらかじめ決められた恋人たちへ」(以下:あら恋)について書いてみようと思う。自分にとってはかけがえのないバンドであり、好きすぎて拗らせているところもある。ライブに行くと、常にどセンで派手に燃え尽きて内容を覚えていないパターンも多いが、それでもツイッターにおいて「俺とあら恋」のような、後で読み返すのも気恥ずかしいほどのエモい投稿をたくさんしてきた。熱量は未だ衰えていないけれど、抱く感想が変わるわけでもないし、以下同文になってもあれなので最近ではあまり言語化するようなことはしなくなっている。で、今回なぜこの文章を書いているかというと余韻が残っているうちに、全てが流れていく前に、あの素晴らしかったキネマ倶楽部でのライブについて残しておきたいと思ったからである。いつもと同じ調子になるんだろうけど、んなこたぁどーだっていいのだ。

★world’s end girlfriend(以下:weg)

「みんなの戦艦」で編成は違えど観たことはある。だけど覚えていることはほとんどない。それはライブの内容がどうこうというものではなく、きっと道産子アナルXの後という順番のせいだったのだろうと当時のタイムテーブルを見て思った。場の捻じれ具合がパねえ。ちなみに同日のトリはeastern youth。なんかじわじわくる。それはさておき。ほぼ初見に近いので普段との違いはわからないけれど、バンドを構成するメンバーがいずれも名うてのミュージシャンっていうか、ほぼ全ての方を別現場で観たことがあった。

前田勝彦(Guitar) Jimanica(Drum) かわいしのぶ(Bass) TAKUTO(Guitar) 徳澤青弦(Cello) 岡村美央(Violin) rokapenis(VJ)

たぶんこんな感じの編成。ぶっちゃけwegに関しては食わず嫌いっつーか、今までちゃんと聴こうと思ったことがなかった。轟音のなかに自らが勝手に美を見出すのは全然ありなんだけど、美を前提とした轟音というのが基本的に好きではなくて。ポストロックとかノイズにありがちな構造っつーか。彼らに関してもそういうイメージを少なからずもっていたんだけど、クソみたいな偏見は開演してわずか数分で木っ端微塵に砕け散った。重厚なバンドアンサンブルが鳴らす音の感じは、血生臭さっつーか、とても死の香りがするものだった。かといって絶望や悪意に満ち溢れた世界観のなかでただ朽ち果てるように扇動されるような音楽でもない。美しさも醜さも激しさも明るさもただそこにあって、何よりも雄弁に語るギターの速度に合わせて世界を駆け抜けていくようなカタルシスが確実にあった。映画的と言われるのも納得ができるけど、生身で音を浴びているからさらに一歩突っ込んだめちゃくちゃ凄まじい感動体験として心に刻みつけられた。

★あらかじめ決められた恋人たちへ

wegの表現が抽象的なのに対して、あら恋の表現はどっぷり日常的である。序盤の映像で四ツ谷駅を出発する丸ノ内線の感じとか、モノレールの車窓から見える景色とか、否応なしにありふれた普通の日々を想起する。全ての鬱屈を爆音でぶっ飛ばしてくれる側面はもちろんあったけれど、俺はどちらかというと叙情性によって胸をえぐられて、むき出しになった喜怒哀楽の感情と音楽と映像がリンクして、大げさに言えば日常を抱きしめたくなるような、とてもあたたかい気持ちに包まれていた。鬼の日常肯定感である。

ハットをかぶったイケショーさんが一人で出てきて、新曲からライブが始まった。後ろの映像はDVDに収録されていたような高速道路のシーン(だったよな?)静かな立ち上がりである。ほどなくしてメンバーがステージに登場。あら恋のライブに行くといつも記憶がぶっ飛んで、身体の痛みや疲労だけが数日残るヨボッヨボなおじいちゃんなので、始まる前は毎回、おとなしく上品に楽しもうと思ってはいるんだけど、『カナタ』のイントロ(ダーダーダーダー)を聴くと無条件に、首よもげろ!!と言わんばかり全身で頷く。鳴っている音に対してヘドバンじゃなくて全肯定としての頷き。案の定、開始数分で首に甚大なダメージを負う。なんとか平静を装おうとクールダウンに努めたいところなんだけど、サビ前にコーハンが「ザリーン!!」ってギター弾くじゃん。あれで完全にスイッチ入っちゃうんだわ。で、結局ダーダーダーダーで首がもげる。

つづく『Res』では、天上の神が「多幸感」って書いてあるふりかけのビンを鬼の形相で振り狂ってんじゃねえかっていうくらい完璧な旋律が空から降ってきて、目の前にはひたすら明るい世界が広がっていて、きゃほー言いながら突っ込んで行った先に待ち受けている「デレデ、デレデ、デレデ、デレデ、デレデ」で再び首がもげる。もげ落ちる。「首の強い者は世界を制する」とは、カール・ゴッチがアントニオ猪木に送った言葉らしいんだけど、それにならって俺もこれからは寝る前にブリッジしようかと思い始めている。っていうか、このエピソードすげえ嘘くさいけど。

披露されたもうひとつの新曲は、『テン』に近い質感。怒りや情念を纏った赤黒いなにかが蠢いているような。あら恋にしてはめずらしく、大きなビルが爆破解体されるような映像なんかもあったりして。音の重心も低いし、これからこの曲がどんなことになるのかが楽しみでもあり怖くもある。

その後が『キオク』男の子と女の子が手をつないで町を歩いている映像。逆再生なんかもあって完全にあの曲と同じパターン。ん?これってもしかして?男の子と女の子が大きくなった姿?誰もがきっとそうなんだろうなと思ってうわーっ!!てなってるうちに、本家『back』に繋がった流れは今回のライブのクライマックスのひとつだった。この瞬間を言語化するのほとんど無理なんだけど、なんかよくわかんねえ感動がすげえ勢いで全身を駆け巡ったことだけは間違いない。

最近あら恋のライブをイベントやフェスで見ていても、どこか物足りなさを感じていた。それは別に彼らが悪いわけではない。持ち時間が短いなかでなんとなく『back』を演奏しちゃうことに俺が勝手に居心地の悪さを覚えたのが要因っつーか。この曲は肉体性に依存するのではなく、紡がれた叙情性がスクリーンに「あらかじめ決められた恋人たちへ」って出た瞬間に大爆発して自らの感受性の全てが呼応するようなものだと思っている。圧倒的破壊力を安売りしないでもいいんじゃないかなと。ほら、だんだん気持ち悪い文章になってきたよ…Σ(゚д゚lll)それはさておき。本当にこの日の『back』は素晴らしかったんだ。

その後の『前日』では、滾った血の勢いそのままに因果や定めから解放されて命の叫びをキネマ倶楽部に響かせる。なんて書けばグレンラガンみたいでかっこいいんだろうけど、実際のところ俺は「ギャーーーー!!!」だの「ぐをぉおおぉぉぉおおおおお!!!!」だの叫びながら、ひたすら快楽をむさぼり踊り狂っていただけである。メンバーのソロ回しで劔さんがいつものように渾身のベースを弾いているのを残りのメンバーが全員にこにこしながら見守ってるのとても最高だった。

本編最後は吉野寿さんをゲストに迎えての『Fly』
声と音。羽を持たない人間たちを二つの異なるエモが重なり合うことでゆっくりと力強く上昇させていく。大きなスクリーンに映しだされる映像と相まってとんでもないスケール感がキネマ倶楽部を支配した。壮大なドラミングを背に受けた鍵盤ハーモニカの音はひたすら美しいし、テルミンが鳴らす旋律はアンテナにも俺にも触れることなく心の琴線をぐわんぐわん震わせてくる。自分のパートでない時に缶ビールを飲みながら映像を眺めている吉野さんの表情も名シーンのひとつだった。

アンコールは『翌日』
肉体性に依存しないで、より叙情的な側面を見せてくれる象徴的な曲。感動が大きすぎて精根尽き果てた身体にじんわりと染み渡った。なんなら浄化された。完璧なセットリスト。終演してしばらくは放心状態。傍から見ればすげえ気持ち悪い表情を浮かべたまま友達と合流する羽目に。つらい。

全ての必然がキネマ倶楽部で大爆発した、感動の向こう側で全身をぷるぷる震わせた夜のことを雑文ながらここに残しておく。やっぱりあら恋のことになると言葉が感情に追いつかないし、なんなら気持ち悪い表現のオンパレードなんだけど、まあしょーがねえ。あら恋なんて大好きだ。

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