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450分15本勝負 KAGERO vs 観客 in 新宿ロフト

新宿駅で友達と待ち合わせをしてのんびりと昼飯を食べてから新宿ロフトに向かう。LAGITAGIDA好きのMさんが途中にあるドラッグストアでヘパリーゼを買っていきたいというので、俺も煙草を多めに調達することにした。再入場可能なイベントではあるものの、きっと地下で最後まで猛り狂うであろうことは想像していた。外はすごくいい天気だけど、帰る頃には真っ暗なんだよなって当たり前なことを思いながら階段を降りていく。

フロアではすでにトップバッターのGEEKSTREEKSの演奏が始まっていた。とりあえず長丁場に備えて荷物や上着をコインロッカーにねじ込もうとした瞬間、耳を疑うようなメロディがしかし鮮烈に聞こえてきた。

「もう一度 問いかけるよ そこはどうなってるの?
命は燃やしていくものだなんて 冗談だ ばかみたい」

俺が最も好きだったアイドル。BiSの『DiE』という曲である。

いてもたってもいられず、不恰好に荷物や上着を持ったままフロアに突っ込んだ。この日出演するプラニメに敬意を払ったのか、単に俺と同じ研究員の狢なのかはわからないが、心を鷲づかみにされてしまった以上そんなことはどうだっていい。前線には俺を含めて数人しかいなかったけれど、血の滾りを共有できたことがすごく気持ちよかった。

\そどぅぉーこぉぅーぅをー 見ーてぼー たーくさんの ほしーたちー(。з °)/ 

Aureoleはビブラフォンが特徴的なポストロック/シューゲイザー。無機質なエレクトロニクスと有機的なバンドグルーヴが共存する音の流れに身を任せていたら、薄暗い森を抜けた先で射してくる光の眩しさに心が綻ぶというシチュエーションに自分が置かれているような気がした。実際に薄暗い森を歩いたことはないんだけど。あと何がいいかって楽器の配置。中央に向かい合わせでビブラフォンとキーボードがあるとかクソかっこいい。

fox capture planは今回楽しみにしていたバンドのひとつである。しなやかに加速していくメロディが十分な助走を経てダイナミックに飛翔していく瞬間のカタルシスが尋常ではない。SYNCHRONICITY'14で観た時は良くも悪くもバグのない数式っぽい曲だなという印象を受けたけれど、間近で観たら演奏する姿が思いのほかエモーショナルだったのでグッと引き込まれた。と同時に、ピアノの岸本さんはきっとパソコンのEnterキーを強く叩くタイプの人だなという根拠のないイメージが俺の頭のなかで静かに捏造された。

順番が前後するけれど、先に銀幕一楼とTIMECAFE、▲sに触れておく。かたや昭和歌謡、かたやバルカン音楽。どちらもこのイベントの爆弾のような存在で、もちろん生で観たことはない。とはいえ、最近俺が観たライブで強く印象に残っているのは先日の殺害×666で観た鼠先輩だし、今年amazonで初めて注文したCDはElectric Balkan Jazz Clubであることから個人的には両方とも旬なジャンルではあった。

安易に肉体に直結するリズムに頼らず、あくまで甘く切ないメロディを引き立てるTIMECAFEの巧みな演奏にのせて、銀幕さんが河村隆一ばりの甘い声で朗々と歌い上げる。4小節ごとに表情を作ってポーズもキメて観客のハートをロックしようと怪しく仕掛けてくるが、あまりにも鬼瓦すぎる表情から繰り出されるそれはポケモンにおける「にらみつける」と同様の効果をもたらすことになる。

にらみつける はポケモンの技の一種
【たたかうわざ】
てきを にらんで おびえさせて ぼうぎょを さげさせる
【コンテストわざ】
その ターンでは ボルテージが へらなく なる
(ポケモンWikiより)

こちらの防御力は下げられているので、すぐにでも口ずさめるメロディや簡単な振り付けを要求されても拒否することが難しい。というか、一緒に盛り上がったほうが楽しいということをあの場にいた観客のほとんどが理解していた。その結果、謎の連帯感が生まれてバーステージが炎上した。素晴らしいライブだった。

▲s(ピラミッドス)もまた、バルカン音楽という市民権を得ているとは言い難いジャンルではあるが、登場するやいなやステージ後方を指さして
「あっ、あそこに高橋ジョージと三船美佳がいる!」
頭ではウソだと理解しているが条件反射的に後ろを振り向いてしまった。二度とは戻れなそうな夫妻がそこにいるはずもなく、再びステージに目を向けるとメンバーが全員段ボールでできた三角マスクを装着していた。

騙された…Σ(゚д゚lll)

こちらが身構える前に一気に距離を詰めてきた彼らは、初っ端からゴリッゴリにジプシーな旋律をぶっこんできた。唄って踊れるバスクラリネット奏者が何気に鋭い演奏していてヤバい。節分にちなんだ寸劇や『だるまさんがころんだ』、ジミヘンやGLAYのカバーも含めてやりたい放題。最高かよ。

LAGITAGIDA。7か月にも及ぶ長い潜伏期間でもちろん新曲の制作をしていたんだろうけど、コーノくんは髪の毛を切り狂ったあげくSuiseiNoboAz、うてなキャンプで大活躍していたり、えーちゃんも去年リキッドルームで観たIdolPunchでの鬼神のごとき叩きっぷりが凄まじすぎたし、コーハンは言うに及ばずあら恋でヒステリックな魅力を存分に発揮している。課外活動の充実が本隊に反映されているのかどうか、そもそも新曲の出来はどうなのか。不安の方が大きかったのはここだけの話である。

万難を排して最前列に陣取る。ステージは隠されているけれど、サウンドチェックを少し聞いただけで血が湧いてキた。これから始まる血塗られた惨劇に心を躍らせつつも、あまりに漏れてくる音がヤバすぎるのでだんだん無性に腹がたってきた。目の前のスクリーンをビリッビリに破り狂いたい衝動にかられつつ、そこは大人なのでグッと堪えた。

開幕しろ開幕しろ開幕しろ開幕しろ開幕しろ開幕しろ開幕しろ開幕しろ
早く殺してくれ早く殺してくれ早く殺してくれ早く殺してくれ早く殺せ
死なせろ死なせろ死なせろ死なせろ死なせろ死なせろ死なせろ死なせろ

(定刻どおりに開演)

らぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎだぎだらぎたぎだらぎたぎだらぎたぎだ
うぉおぉぉぉぉぉぉおおらあぎたぎだああ…Σ(゚д゚lll)

脳を爪で掻き毟り狂って耳からブシューッと血が噴き出しそうな残酷無比かつ鬼の攻撃力とともにLAGITAGIDAがついにライブハウスに戻ってきた。これでまたスピーカーに思いっきり頭を突っ込んで、
「ぎゃぁぁあぁーーー!!!!ぐぉぉぉぉおぉぉおおおぉ!!」
って身悶えしながらぶっ飛んで人間をやめることができる…Σ(゚д゚lll)
新曲はより複雑な構成になっている印象をうけたけど、カオルくんが去ったために空いてしまったスペースでコーノくんのベースラインが躍動しているのも素晴らしかった。

UHNELLYS。瞬間を次々と切り取りループさせる。その音に今を重ねていく。扇動的なアジテーションと優れたストーリーテリングと緊張を加速させるドラム。\音楽は素晴らしい/と自ら宣言してひたすらストイックに可能性を追求するからこそ生まれる唯一無二の独創性。その方法論を指して「発明」と以前から賞賛されていて俺も素直にそう思う。左手一本でギターのネックを掴み、右手のマイクで鬼のアジテーション。演奏というフォーマットからも解放された全く新しい音楽。フロアの前後左右or脳天から爪先まで感じるうねり。ひたすらヤバい。かっこよすぎてクラクラする。頭が煮えてくる。

ちなみにこの日はキムさんの誕生日とのことで、Ruppaさんがサックスでハッピーバースデーを演奏するという粋な演出があったんだけど、まさか「やらせ」だったとは思わなかったヨ…Σ(゚д゚lll)

さすがにここまでずっとヤバイ音を喰らい続けてきて、HPが危うくなってきたのでバーに移動。ラーメンを吸い込みながらNabekawa Mitsuyoshi。今回はKAGEROの智恵子さんがピアノで伴奏という特別な仕様。ナベッカム先輩はATATAで歌う時よりも丁寧にメロディを紡いでいるし、智恵子さんの演奏もリリカルに美しい打鍵で歌に寄り添っている。『Minority Fight Song』をやってたんだけど、ATATAの曲をアコースティック化すると冬にマッチする事案を改めて感じた。

プラニメに関しては自家発電とUNITでのワンマンを観てはいるものの、どこかモヤッとしてしまうのでツイートを含めて文章化することを避けているところもあるけれど、せっかくなので現時点で感じていることを書いてみる。結論から言ってしまうと、たしかツイッターで他の方も言っていたけれど、サキちゃんは好き。マリちゃんも好き。だけどプラニメは・・・?この一言に尽きてしまうのだ。

去年のTIFでのお披露目ライブをYoutubeで観た時は『Plastic 2 Mercy』という楽曲の破壊力に悶絶し狂ってこれは今後ヤバイ現場になるんだろうなって思ったんだけど、諸刃の剣というかその後に披露された様々な楽曲もパターンが似通っているように感じていまいちノリきれないのである。

プラニメのジャンルをざっくりとEDMと定義するとして、この手の音楽って観客が自由に踊れて(狂えて)ナンボだと思っている。ところが彼女たちのライブでは決まったところでMIXが打たれたりoiコールが発生する。アイドルの現場である以上、避けられないのもわかるんだけど窮屈にも感じてしまう。「圧」一辺倒で攻めてくる楽曲に対してあらかじめ決められた約束事で呼応するという構図そのものを否定するつもりはない。それを楽しんでいる人が多いのもわかる。ただ自分の肌に合わないだけなので。

とは言うものの、Ruppaさんを交えて披露された『Plastic 2 Mercy』は、楽曲そのものがもつ破壊力とフリーキーなサックスがもたらす混沌が高次元で融合していてとんでもないことになっていた。少なくとも俺はこの瞬間は約束事よりも完全に興奮が勝っていた。うまく言葉にはできないけれど、ひとつの理想系が見えたような気がした。自分が少し彼女たちに対して構えすぎているという自覚もあるので、もう少し柔軟に接することができればいいんだろうけど。

KAGERO。撃ちてし止まむ、全弾撃ち尽くしジャズパンクハードコア。絶えず爆発を引き起こすドラムはもちろんのこと、ベースやキーボードですらもはや打楽器にしか見えなくなるほどひたすら暴力的に塊を叩きつけてくる。力強く鳴らされるサックスの響きは、暴風雨に入ってしまって絶叫するしかない者に対しての死刑宣告のようにも感じる。一切の妥協もなく、顔面ボッコボコに殴ってきて、めちゃくちゃ痛いからうつ伏せになってもお構いなしに後頭部を殴られた挙句、チョークスリーパーまでガッツリ極められて失神に追い込まれたうえにどさくさに紛れて身包みまで剥ぎ取られるっつーか。強烈な危機感を覚えながらもアドレナリンはだだ漏れる一方である。ライブハウスで自分のドMな性癖が剥き出しにされるのって最高の快感なのかもしれない。KAGEROはひたすらかっこよかった。

KAGEROは自分たちの音楽と、自分たちが選んだ14組のアーティストを、心から信頼していた。俺も出演者を心から信頼することにした。共犯になって楽しみ尽くしたこの日の夜の勝敗はフルタイムドローといったところ。

7時間30分。総勢15組のアーティストによる壮絶を極めたイベントで完全燃焼したせいで、翌日の仕事は当たり前のようにヨボッヨボで全く使い物にならなかったけれど、この日の新宿ロフトは今でも振り返ってみればひたすら楽しくて刺激に満ち溢れていた最高の遊び場だった。白水さんが来てくれたお客さんに感謝しているというようなことをステージ上でも言っていたけれど、お礼を言いたいのは俺らの方だ。他のどのアーティストでも真似することのできないクソヤバい一日を作ってくれてありがとうございました。

また機が熟したら勝負の場を作ってください。
その時はできれば土曜日にしてくださいね…Σ(゚д゚lll)

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