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新垣隆に萌え狂った夜

新垣隆という音楽家をご存知だろうか?
現代音楽を得意とする作曲家、ピアニストで大学の非常勤講師も勤めていた人であるが、おそらく現在いちばん知られている彼の側面は「現代のベートーベン」とまで称された佐村河内守のゴーストライターであったということであろう。失礼ながら俺もそういう認識でしかなかった。ところが、先日行われたニコニコ23時間テレビで彼の評判がよかったことに対して興味をもったので、以前より大好きなバリトンサックス奏者の吉田隆一との共演を観るべく荻窪ベルベットサンに行ってきた。

吉田さんが率いるSFの世界観+フリージャズを標榜としたblacksheep3DAYS企画の一環で行われた新垣さんとのデュオ演奏は自分の中でなにかがレベルアップしたような、新鮮さと驚きに満ちあふれていた素晴らしい音楽体感だったように思う。

前半は即興演奏。両者の鳴らす音のファーストコンタクトの時点である種の違和感を感じた。なんといえばいいのだろう。プロレスに例えるなら試合開始早々にガッツリとロックアップ(組み合うこと)してみたら組み手がいつもと違ってうわーみたいな。俺は普段から即興演奏を主体とするライブに行くことが多いんだけど、ほとんどはフリージャズか勝井祐二さんの流れである。で、新垣さんが背負ってる四文字は現代音楽。っていうか、現代音楽ってなんだよ。俺、ほとんど知らねえ…Σ(゚д゚lll)思い浮かぶのライヒくらいしかいねえ…Σ(゚д゚lll)無知な俺の余り腐った余白にしっとりと注入される現代音楽の調べ。ヤバさしかなかった。

新垣さんは即興演奏を会話に例えていたけど、演奏表現もまさにそんな感じだった。吉田さんの太いバリサクの音を包み込むようなやわらかな打鍵。言葉を選ぶように話す彼のしゃべり方にも似た選定された音符の無駄のなさ。人を傷つけることなく、なるべくあるがままを受け入れる寛大なマインドと長年培われてきた技術表現の引き出しの多さ。とはいえ、全てが受身な訳ではなく、わからない音に対してはつきあわない局面もあった。なによりいちばんグッときたのが演奏していて興がのってくると打鍵が強くなって自然と明るい音になったことである。裏方のイメージが強かっただけに演奏しているのが楽しいという気持ちがダイレクトに伝わってきて観ているほうまで心がぴょんぴょんした。

後半のトークコーナーでも新垣さんの音楽愛が炸裂していた。
「ジョン・ケージのサインもってるんですよ…」
って自慢したり、好きな音楽の話をしている時の彼の笑顔。最高だった。吉田さんが「天才と萌えという言葉は安易に使うものではない」って言いつつも最後には「新垣隆、萌えー!!」って叫び狂ってたのすげえわかる。新垣さんって、萌えるんだよ。

改めて思うのが吉田さんもまた懐が広いっつーか。演奏家としても単純に多彩な表現の引き出しがあって面白いのに、好奇心が旺盛で知識も豊富でジェントルで、ちょっと意味わかんねえところもあって。blacksheep名義でのライブはとくにそれが顕著にあらわれる。今回のライブも同日開催のコミケに対抗して来場者に薄い本(吉田さん書き下ろしの短編小説)が配られたり、ブッキングミスにより本来はカルテットだったものがデュオに変更となったことの責任を取るかたちで土下座&切腹ショーが敢行されたり。吉田さんが豪快にメビウス斬りと称して腹を掻っ捌いてる姿を後ろで暖かく見守っている新垣さんチョーヤバかった。萌え。

冒頭にも書いたニコニコ23時間テレビで披露されたライブ動画をのせてティロ・フィナーレ。ん~メビウス!

新垣隆(ピアノ)、新垣さんの選んだ弦楽四重奏、大谷安宏(ギター)、千葉広樹(ベース)、服部マサツグ(ドラム)、松本ちはや(パーカッション)、類家心平&辰巳光英(トランペット)、後藤篤(トロンボーン)、藤原大輔(テナーサックス)、吉田隆一(バリトンサックス)。ジャズサイドの選出は吉田さんによるものだそうで鬼豪華。
ヤバイ!アツイ!まちがいない!

(2015.2.19加筆)
ニコニコ23時間テレビの動画が視聴不可になっていたので、当日のライブ動画に差し替えます。


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