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東京30人弾き語り 雑感

今年も東京30人弾き語りに行ってきた。
ステージ上に置かれた1本のギターを、30人のミュージシャンが1人1曲ずつ、次々と回し弾きしながら歌っていくという企画である。ヨコチンレーベルを主宰するボギーさん渾身のブッキングにより、去年以上にガチなメンツが揃ってしまったこともあってチケットは完売。もちろん俺もこの日をすごく楽しみにしていたんだけど、終わってみれば興奮はおさまらないし、笑いがとまらないし、こんなに家に帰るのがイヤになったのも久々というか、できればずっとあの場にいたかったとすら思っている。

出演順に沿ったかたちで、思い出せることを以下にまとめてみようと思う。人数が多いのでなるべく手短に。

1、金佑龍(キム・ウリョン)
トップバッターは大事な役どころのひとつ。後に続く出演者を観るうえでの基準になるので地力のある人でないとまずいんだけど、金佑龍は大役を見事に果たしていた。10代の頃に作った曲でコンテストに出場するも審査員のaikoに「10代っぽくない」と酷評されたらしいんだけど、聴いてみたら確かにそのとおりだった。aiko is ジャスティス。イントロでギターに重ねられたトランペットの音まねが実に渋かった。声もいい。

2、鴨田潤(イルリメ)
事前の段階では出演順は後半だったらしいんだけど、本人の強い要望で前半に変更を直訴したとのこと。その理由が・・・「潔癖症」だから…Σ(゚д゚lll)何度か彼を観たことあるけど、フロアライブでサンプラーを観客に触らせるのは平気なのだろうか?片想いに提供した曲(踊る理由だったかな?)を披露。

3、代々木原シゲル
あまり存じ上げないんだけど、JAPAN FOLK FESTIVALというイベントを企画されている方らしい。J-POPにありがちな歌詞(例:不器用な俺だけどおまえのこと守りすぎ)を取り上げてはdisるという構造の自作曲。

4、柴田聡子
月の浮かぶこれ以上ないシチュエーションで「酒を呑みたきゃ墓場に行けよ~」って細々と歌う非凡なセンス。郷愁にかられるメロディを紡ぐ素朴な佇まいの聡子。天才なのか天然なのか初見なので判別しづらいけれど、あの風貌はとても素晴らしい。なんか知らないけどついイタズラしたくなるような表情してる。

5、ムスキ・アルバボ・リー
言語化するの難しいし披露した曲の動画があったので貼っておく。ちなみに彼の名前で検索かけてみたら公式ホームページが「魔法のiランド」という悪夢。THE ACT WE ACTかよ…Σ(゚д゚lll)

6、藤岡孝章(藤岡藤巻)
氏いわく大嫌いな曲(手のひらを太陽に)のマイナー調アレンジ。

私はなんとか生きている 生きているとは言えないが
私はそれでも生きている 生きていたって意味ないが
手のひらを太陽にかざして思う
ほんのちょっと ここを切れば楽になれるよね
ミミズだって オケラだって アメンボだって
みんなみんな俺のことをバカにしてるんだ

歌詞、最高かよ…Σ(゚д゚lll)

7、藤岡みなみ(藤岡みなみ&ザ・モローンズ)
本人のキャラクターに沿ったかわいらしいカバー曲(タイトル失念)を披露してたんだけど、藤岡孝章の暗すぎる歌のあとだったので順番が悪かったかなという気がしないでもない。いっそのこと自作曲が聴きたかった。

8、佐々木健太郎(アナログフィッシュ)
事前のツイートを読むとこの企画に半信半疑というか少し戸惑っているようにも感じたが、いざ出番ということで吹っ切れたのか堂々とした佇まいで登場。で、選んだ曲が「Good Bye Girlfriend」うわー、自分の魅力がダダ漏れの勝負曲じゃねえか…Σ(゚д゚lll)なんかずるい(いや、ずるくはない)案の定、伸びのあるメロディを惜しみなく歌いきる熱演。アップピッキングの余韻にエロさあり。

9、ヒューマン(INN JAPAN)
BOØWY「NO NEW YORK」の替え歌。本職はベーシストらしく、ギターで松井常松のベースラインをチープに弾いていた。

10、前田由紀(Whiteberry)
昨年思うように演奏できなかったという「夏祭り」のリベンジ。今回はしっかりと練習もしたらしく、後半の高速コードチェンジ地獄もなんとか乗り切っていた。

11、松本敏将(tobaccojuice)
tobaccojuice「アメリカ」弾き語り。米軍基地の開放日って俺は行ったことないのでよくわからないんだけどお祭りみたいなイメージなのだろうか?で、子供たちは無邪気に基地内できゃっきゃうふふと楽しんでいるのを、おじいちゃんおばあちゃん世代が複雑な気持ちでそれを見ているみたいな歌詞だった(ような気がする)すごくいい曲。「くふき」のメンバーでもあることを後で知ってなんかじわじわきてる。

12、安部コウセイ(HINTO)
チューリップ「青春の影」をカバー。歌い方を財津和夫に寄せてた気がしないでもないけどすごく綺麗な声だった。BEN DAVISのニット帽+ほっぺに絆創膏というわんぱくなビジュアルも好印象。

13、石橋英子
カフカ鼾、ソロ、七尾旅人との共演。個人的に最近ものすごい頻度で観ている英子様だが、この日の夜も次元の違うパフォーマンスが炸裂していた。英子様がパニックスマイルの前にオオクボTと一緒に組んでいたグループ「危々と裸々」で登場。それまで出ていた12組を前座とこきおろしたかと思えば、おもむろにギターに▲二枚つけてフライングVに進化させたりと傍若無人な立ち振る舞い。

「♪愛と平和と宇宙の宙で、I HATE YOU~」
\やっぱ英子様だなー!/


14、高木克(ソウルフラワーユニオン)
ポケットからさりげなくスライドバーだしてボトルネック奏法キメてくるあたりさすがギタリストだと感心したことは覚えてるんだけど、英子様の衝撃がエグすぎてそれ以上のことが思い出せず。

15、笹口騒音ハーモニカ
笹口騒音(さわね)として登場。「ボギーさんとモンドくんと3Pしたい」って言った瞬間、くい気味に袖にいたボギーさんが「やめろ!」って言ってたのチョー面白かった。新譜の告知を挟んだり、客を無理やり舞台に上げてピラミッドを作ったりと乱戦模様を演出してはいたんだけど、全体的にすべり倒してた印象はある。この企画において例えば演奏がへろへろだったり、キャラがぶっ飛んでるいわゆるヘボい役回りの人ってのは絶対に必要なんだけど、笹騒がそれをやらなくてもいいんじゃないかなとは思った。余談だけど、最近発売した「笹口が女の娘になったら」すげえいいよ。マストバイ。

16、大久保潤也(アナ)
もとは英語表記だったバンド名も某航空会社からの圧力により現在のカナ表記となる。晴れて順風満帆な音楽活動に専念できるかと思えば、エゴサーチをして出てくる感想は全て某映画のものだったりと苦難の連続すぎて泣ける。本人曰く「ありのままって大切だよ」みたいな曲。

17、中川五郎
自らの原点でもあるボブ・ディランの替え歌。参加者のなかで一番の年長者であったが、奇をてらうことなく熱量の高いパフォーマンスを観ることができた。マイクスタンド蹴り上げたりした場面にグッときた。

18、見汐麻衣(ex.埋火)
和田弘とマヒナスターズ「愛して愛して愛しちゃったのよ」を見汐さんが歌っているのを聴いてガチ恋まっしぐらにならない男がいるとしたら、そいつはとっとと帰ってメシでも食べてママの下着でフィーバーしてろよ…Σ(゚д゚lll)美しかったよなー。

19、田畑満(アシッドマザーズテンプル)
30年前に作った?とされる曲をガチャガチャと演奏。本来エレキで弾くような曲をアコギでガリガリかき鳴らしているような感じに聴こえた。

20、ジム・オルーク
この企画のために30分強の曲を作ったらしいんだけど、当然のように却下されたので、しょんぼりしながらピーター・ガブリエルのカバー。これ、元曲を俺は全然知らないんだけど、自分のレパートリーなんじゃねってくらい抜群にハマっていた。ギターの鳴りも素晴らしかった。ジム・オルークはどんな楽器を使ってもその持ち味を最大限に引き出すことのできる魔法使いのような人だと思っている。厚揚げ色のカーディガンも健在。肘のほつれがエグい。

21、K(カシミールナポレオン)
ジム・オルークからのK様。この流れこそが30人弾き語りの真骨頂。世界一安っぽいヴィジュアル系バンド「カシミールナポレオン」の魔王。今宵も地を這うほどに低レベルな歌が会場を大爆笑の渦に叩き込んでいた。
「♪カシナポ祭り~フェスティバル~」
とくにテンション高く歌われるわけでもないので、カシナポ祭りって本当にあったとしてもつまんなそうだなと普通に思った。

22、石川浩司(ex.たま)
みんなが知ってる「たま」のランニングがみんなが知らない物悲しい曲を歌う。俺が初めて石川さんのソロを観た時にそう感じたんだけど、同じような人って結構いると思うんだけどどうなんだろう。ギターをかき鳴らしながら舞台上を縦横無尽に練り歩いてひとしきり場を盛り上げたあとに炸裂した名曲「夜の牛たちのダンスを見たかい」このギャップがいいんだよな。

23、FUCKER(less than TV、FOLK SHOCK FUCKERS)
弾き語りにありがちな弛緩した空気感の完全否定。アイデンティティー叩きつけ系ハードコア弾き叫び。怖い顔して鬼の疾走感で駆け抜けてったんだけど、次の出演者(嫁)を照れながら呼び込んでるの萌えた。

24、YUKARI(Limited Express(has gone?)、ニーハオ!)
自称・ポン中の嫁。妙に巧みな一人寸劇からのキャンディキャンディの曲?元ネタは知らないけど、演奏中の表情がとても豊かだったので楽しめた。

25、杉林恭雄(くじら)
「♪カッパ カッパ 踊るよ カッパ 靴を脱いでいっしょに」
っていうサビのコール&レスポンス地獄。最初のうちは楽しかったけどかなりひっぱったので後半ちょっとしんどくなってきたのは今だから言える話。

26、原田茶飯事
ステージ上にあるギターを使わないといけないのに、自分のギターを持ってきたり(演奏中は調度品と称して傍らのスタンドに置いていた)、ストラップは無理やり短くするし、楽曲自体はメロディがひねくれてるし、なぜかメガネは飛ばしてるし。聡子と同様に彼もまた天才なのか天然なのか判別しにくい。すぐにでもまた観たい。

27、氏原ワタル(DOES)
剥き出しのメジャー感がまぶしい。DOESの曲でもなく、カバーでもなく、この夜のために作ってきたという曲(名前のない星?)を披露するというその気持ちが素晴らしい。打ち上げも最後まで残っていたようだし、ボギーさん愛されてるよ。言動が誤解されやすい人なようだけど、きっと根っこは純粋なのではないかと思う。

28、有馬和樹(おとぎ話)
この企画の趣旨を完璧にわかってる妖怪。去年はトップバッターとして後に続く出演者にプレッシャーを与える役回りだったが、今年は奥村兄弟に繋ぐというまたしても重要なポジション。自分がなぜこの曲を歌うのかという必然性もあるし、終わってないのに企画の総括までしてしまうしたたかさもある。いざ歌い出せば圧倒的な地力でもって心にグッと入ってくるからたまんねえ。演奏中は会場の隅々にまで視線を送っていたのが印象的だった。きっと観客全員に歌を届けようとしてたんだな。

29、オクムラユウスケ
得体のしれない狂気が憑依した瞬間、誰にも止めることができない爆発が空間を焼き尽くす。呆気にとられるっつーか、度肝が抜かれる。弾き語りっつーか、全身表現。のほほんと観ることなんて絶対にできない。杉林さんが歌った「KAPPA」を展開の流れでぶちこむあたりに即興センスの高さも窺えた。袖で観ているボギーさんの表情もまたよかった。これがオクムラユウスケなんだね。

30、ボギー(nontroppo、東京ノントロッポ)
この夜のために福岡から1曲だけを歌いに来た弟に敬意を表するといい、弟が南米旅行でおみやげに買ってきたポンチョを羽織って登場。曲はもちろん「青い春」である。出演者がそれぞれのやり方で歌い繋いできたリレーの最終走者は、きわめて誠実に丁寧に歌い上げていた。ギターしか使っちゃいけないのに、ハーモニカを思いっきり吹いていたことはさておき。

会場全体がすごくいいムードに包まれていたさなか、目をうたがうようなアクシデントがボギーさんを襲った。昂ぶった状態でジャンプ→着地した瞬間どこかに手をぶつけたらしい。おまけに通風の症状までなぜか悪化。ステージ上にうずくまるボギーさん。全く動けない。場内に緊張が走る。固唾をのんで見守ることしかできない観客。

誰もが企画の中止を考えていたその時、客席から沈黙を切り裂く勇者が現れた。


「お兄ちゃーん!!!俺がギター弾いてやるよ!!!」
「・・・弟!!」

弟・オクムラユウスケの兄を思う気持ちに場内のテンションが最高潮に達した。

一件落着かと思われたが、ひとつ問題があった。この企画は出演者が一人が身一つで演奏するという大前提がある。弟がギターを弾いてしまっては、ただの兄弟ユニットになってしまう。ダメじゃん…Σ(゚д゚lll)

誰もが企画の中止を考えていた(2度目)すると、ボギーさんが支離滅裂なことを言い出した。


「俺のポンチョの後ろに弟が隠れて二人羽織でやっちゃおう!」

…Σ(゚д゚lll)

張り巡らされていた伏線が回収された瞬間である。
ポンチョ最高かよ…Σ(゚д゚lll)

兄弟二人羽織で再び歌いだされた「青い春」
ただただ美しさしかなかった。

企画の最後は、恒例の「送る言葉」→ボギーさん胴上げ。
常に面白いことだけを考えて実践するボギーさんが仕切る企画はいつだってこちらの予想を笑っちゃうほど鮮やかに超える。音楽の楽しさを存分に味わわせてくれて、バカみたいに笑っちゃう。こんな夜を何度も体験させてくれた。ありがとう、ボギーさん。めっちゃ楽しかった!めっちゃ楽しかった!

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