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秩父4D 雑感

秩父には行ったことがなかったので、本当だったら前ノリでもしてゆっくり観光しようと思っていたけれど、連休で宿の予約が全く取れなかったので、しかたなく当日早起きして行くことになった。何を大げさなと思われるかもしれないが、普段遠出をしない俺からすればちょっとした遠足である。テンションは出発の時点で迷子になっていた。

午前中に到着。会場となるライブハウスで受付を済ませてから、周辺を目的もなく散歩した。すぐ近くに昭和モダン建築の権化・パリー食堂があったので入ってみた。登録有形文化財とのことで、お好きな方なら雰囲気だけでご飯3杯は食べられるらしいんだけど、俺はそういうの全然よくわからないので、注文したラーメンを食べることのみに集中。石油ストーブの上にやかんを置いていたり、天井にはナショナルの扇風機が設置されていたり、招き猫だの熊手だのが無造作に供えてあったり。なんだろう。どうぶつの森を始めたばかりの頃に拾ったものをなんでも部屋に飾ってみたらこんな感じになるんじゃねえかっていう統一感のない内装がエモい。

食事を終えてからも周辺の散歩を続行。茶色い建物をこれでもかと見学。天気も良かったし、妙見の杜ステージで演奏していたAlfred Beach Sandal、てあしくちびるの音楽が時折聞こえてくるのも心地よかった。幸せというのは案外こういうことなのかもしれない。

13時を過ぎたあたりで、そろそろフェスに参加しようと思って柞学園ホールに行ってみた。ちょうどアビシェイカーが演奏をしていたんだけど、床にフライパン、シンバルなどを撒き散らして、その上から紐で括り付けたポリタンクをガンガン叩きつけるという逆ギレパフォーマンス。さっきまでの幸せの余韻は瞬時に破壊された。最高かよ…Σ(゚д゚lll)瞬時にスイッチを切り替えて次の美川さんに備える。

美川俊治のソロは、非常階段やインキャパシタンツで見せるノイズとは趣がことなっている。ノイズであることはもちろん大前提なんだけど、肉体性や暴力性を喚起させるというより、緻密に構築されていくノイズスケープを味わう楽しみに満ち溢れている。ノイズに対して耳を澄ませるという表現があっているかはわかんないけど、じっくりと聴いていたくなるのだ。演奏を終えた美川さんが「ご清聴ありがとうございました」って言ってたのもすごく納得できる。とても素晴らしかった。しかし、その一方でJOJO広重さんがとんでもない不幸に襲われていたことを俺はこの時点では知らなかった。

自分のタイムラインでこの一連のツイートを読んだ時は、戦慄がすげえ勢いで走った。この後のライブ、完全に死人が出てもおかしくない。JOJOさんが食の恨みをぶつけるほど心の狭い人ではないのは重々承知しているし、そんな生半可な気持ちで演奏する訳ないからあくまで冗談なんだけど、それでも少しは「怒」モードだよね…Σ(゚д゚lll)

で、灰野敬二×JOJO広重×河端一セッション。のっけから凄まじい熱量で咆哮し始めた。鋭く尖った刃で鼓膜を無慈悲に傷つける音、有無を言わさず重圧でねじ伏せてくる音、冷静に急所だけを貫いてくる音。感じては死ぬを繰り返す地獄の大連鎖。「ぷよぷよ通」で言うところの、えいっ→ファイヤー→アイスストーム→ダイアキュート→ブレインダムド→ジュゲム→ばよえ~ん。頭ばよえ~ん状態のまま、泣く泣くI.S.O.を観るために離脱。同ビル屋上に移動。

屋上にあがってみたら、秩父市内全域を見渡せる抜群のロケーションだった。武甲山は圧倒的な存在感だし、他の山々の紅葉もほんのりと色づいている。駅に到着する電車も、パチンコ屋のネオンも、澄んだ青空の向こうに月だって見える。運よく最前列が空いていたので大友さんの前に座る。たぶん20cmも離れてない。近すぎて悶々とする。近すぎて悶々とする。近すぎて(以下略)

I.S.O.とは一楽儀光、Sachiko M、大友良英によるトリオである。一楽さんがシンバルのような金属的ななにかを弓で擦り、Sachiko Mがサイン波を操り、大友さんがギターノイズを鳴らす。ざっくり説明するとアンビエントなノイズということになるんだけど、彼らの音楽の最も特徴的だと思えるところは、彼らを、または観客をとりまく不可避な環境音や自然音といったものと調和するように演奏するという点である。今回のシチュエーションで言えば、電車の到着を知らせる踏切の音、どこかで「オーライ、オーライ」と車を誘導する男性の声、ファンの回る音、観客の咳払い、夕方5時に鳴らされる夕焼け小焼けのメロディなどに対して、抵抗することなく受け入れて、対話して、調和して、そういったものと音楽として共存していくっつーか。聞こえる音の全てが音楽として感じられるっつーか。ウソくさい?いや、マジだって。意識ひとつで空間を音楽で満たすことが出来る。素敵すぎるぜI.S.O.。

日没を迎える頃には、見えていたものも見えなくなってきて、しかもすげえ寒くなってきた。そのかわりに月がすごく綺麗に見えた。普段の生活のなかで月なんてさほど興味のない俺が、暗くなってからは月だけを見ていた。雲の流れる速度まで情報処理速度をさげて、小難しいことは考えずに、ぼんやりと。ただあまりに寒かったので、今年の3月に新宿ピットインの廊下でJAZZBiS階段のチケットを買うために徹夜で並んだことを一瞬思い出した。あの時、椅子に突っ伏しながら寝てたんだけどすげえ寒くて。その時になぜかI.S.O.をずっと聴いててさ。まあ、それはさておき。

I.S.Oが終わって妙見の杜に行ったらテニスコーツが演奏をしていたので、最後だけ少し聴くことができた。二人の鳴らす柔らかな音は、これまた月夜にぴったりだったのは言うまでもないことかもしれない。

自分のすぐ近くにテンコちゃん(元BiS)がいて、内心では「うおおおおおおおおおおおおテンテンコーーーーーー!!!!」ってなってたんだけど、さすがにこういった場で騒ぐのは大人のすることじゃないのでグッと堪えた。BiSが解散してからは誰の現場にもまだ行ってないこともあるけど、さすがに感慨深いっつーか、一人でエモくなってた。

予定ではBOMBORIも観ようと思ってたんだけど、先日の東高円寺二万電圧で耳を派手に殺されたばかりだったので自重。駅前で晩飯を食べて東京に帰ることにした。特急に乗って発車を待ってたら、最後の最後に奇跡が舞い込んできた。自分の座っている車両の前から、見覚えのある、見覚えしかない人が歩いてきたのである。頭の中が一瞬でパニックになった。自分の横を通ろうとした時にその人が俺に気づいてくれた。

その人「あっ!」
俺「(ひきつった笑顔で会釈)」

テンコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

テンコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

テンテンコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

あっ、ちなみに、テンコちゃんがなんで俺に気がついたかっていうと、別に俺がBiSの頃に接触を鬼してたとか認知されてるとかそういうことでは全然なくて、たんに俺がIDOLパーカー着てただけなんだけどな…Σ(゚д゚lll)

東京に戻ってきて、家までの道すがらに、なんとなく空を見上げてみた。いろんなものが視界を遮っていたけれども、やっぱり月が浮かんでいた。心なしかいつもより綺麗な気がしたし、これからも月を見るようにしようと思った。しばらくはI.S.O.やテニスコーツの音楽が脳内で流れるんだろうな。吐き気がするほどロマンチックだぜ。秩父4D、めっちゃ楽しかった。

この日の雰囲気が少しだけ味わえる動画を貼っておくのでよかったらどーぞ。来年の開催も決まったようなので、みんなで秩父に行こうぜ。

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