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実験音楽家なりきりボーカリスト大会 雑感

(※本文中に出てくる出演者さんのコメントは大意です。おおよその雰囲気を味わっていただければと思います)

この企画を最初に知ったのはどこかで貰ったフライヤーだった。

2014年12月14日 桜台POOL
実験音楽家なりきりボーカリスト大会
出演:美川俊治、吉田隆一、田中悠美子、Sachiko M ほか
ゲスト:七尾旅人(歌/コメント)
伴奏ゲスト:近藤達郎、小林武文

日時と場所、出演者のみが記載されたシンプルなものだったので、どんな展開になるのか全く想像もつかなかった。ただ、どう転んでも楽しくなるに違いないという確信はあった。

普段は大衆受けしにくい実験音楽をメインに活動している音楽家たちが、大衆受けする音楽を表現するとどうなるのか。実験音楽と歌モノに分断はあるのか。というような意図であることを田中悠美子さんの前説で知ってビビった。この企画自体がそもそも実験だったのである。

忘年会のカラオケみたいな感じだと思っていてごめんなさい…Σ(゚д゚lll)

☆美川俊治
歌唱曲→『大阪ラプソディー』『恋におちて』
開演前からガッツリ日本酒を飲んでいたようで赤ら顔がすごくかわいらしい。日頃から歌いこんでいる曲とのことで堂々としたパフォーマンスだった。

「いきなりクライマックスがきましたね。ただのカバーではなく、歌詞をきちんと自分なりに解釈されていて、声もぬけてるし、ちゃんと美川さんの歌になっている」

というようなことを旅人がコメントしていて、本当にそのとおりだったと思う。とくに『恋におちて』の英語詞パートのエモさがハンパなかった。「私はノイズ」Tシャツを着た美川さんが「I'm just a woman〜♫」って歌い上げてんの超ヤバい。他の候補曲として『ここでキスして』も考えていたらしく、アカペラで少しだけ披露してくれたんだけど、これが尋常じゃない破壊力だったことも付け加えておく。ちなみに、全て女性の曲であることを指摘されて、なにかしらの女心が憑依するのかと聞かれていた美川さんは「自分のキーが高いだけです」ときっぱり。徳永英明を超える女性ボーカルのカバーアルバム発売が待たれるところである。

田中悠美子
歌唱曲→『明治一代女』〜『Close To You』
『明治一代女』は、花井お梅事件を題材にした川口松太郎の小説を元につくられたもので、美人芸者お梅がなんやかんやあって使用人に逆上して出刃包丁で殺害するというなんとも恐ろしい曲である(←ネットで調べた)言うに及ばず悠美子さんチョー歌うまいんだけど、間奏でセリフが入る部分があって、

「巳之さん堪忍してください。騙すつもりじゃなかったけど、どうしてもあの人と別れられないこのお梅の気持ち。騙したんじゃない、騙したんじゃない・・・巳之さんお前さん何をするの!危ない!危ない!堪忍して!・・・ウワーン!!やっと議員になったんですううう!オレの存在を頭から輝かせてくれ!メシ喰わせろ!メシ喰わせろ!」

なんか後半おかしくね…Σ(゚д゚lll)

バグった思考を修正する間も無く、気づけば曲がカーペンターズ『Close To You』にすり替わっていた。アヴァンギャルドすぎる…Σ(゚д゚lll)

吉田隆一
歌唱曲→『風の谷のナウシカ 風の伝説』『ターミネーターのテーマ』
ともにインスト曲であるが自ら歌詞をつけて熱唱。『風の伝説』では都会の男女の恋愛模様を描いていた。この着想はスガダイローさんの一言がきっかけであるとのこと。

「いいこと考えましたよ〜。風の伝説に勝手に歌詞つけんの面白くないすか?」

 話を振るだけ振っておいて後は知らんぷりな感じ、すげえダイローさんっぽくてヤバい。と同時にケツをしっかりともつ隆一さんのジェントルさ。『ターミネーターのテーマ』では、「おりてこい!アルバート・アイラー!」と自らを鼓舞した後、アイルビーバック!アイルビーバック!言いながら親指を立てて溶鉱炉に沈んでいく十八番が飛び出して俺歓喜。

Sachiko M
歌唱曲→『潮騒のメモリー』『地元に帰ろう』『暦の上ではディセンバー』
完璧すぎる選曲。忘れかけてたあまロス感情を呼び起こされて、完膚なきまでに成仏した。桜台POOLがスナック梨明日にも東京EDOシアターにも見えた。いや、マジで。ただでさえドラマやアニメの主題歌や挿入歌というのは、聴くと一瞬で脳裏に名シーンがフラッシュバックしてきて涙腺が決壊するっつーのに、その曲を作った張本人が歌うとかもう殺傷力が高スギル…Σ(゚д゚lll)会場にいる誰もが聴きたかった曲は、やっぱり誰もが感動する不朽の名曲だった。 簡単に聴けるものではないからこそ大切に聴かせていただいた。

4名のパフォーマンスが終了した後に感想戦が行われた。実験音楽と歌モノに分断はあったのかという問いに対してである。それに対する回答は以下の通り。

美川さん→ノイズも歌も人前でやることは恥ずかしいという点では一緒。ただノイズの方がやり慣れているだけである→分断はない

隆一さん→サックスも歌も自分の呼吸が音楽に変換するという点では一緒である→分断はない

悠美子さん→義太夫も歌もまず覚えることから始まる→でも分断はあるかもしれない

七尾旅人
歌唱曲→『星に願いを』『Your Song』
場所は狭いハコでも青空の下でもいいんだけど、彼の発する優しい声や息遣い、繊細に鳴らされるギターの音を、集まっているお客さんと聴き入りながら一緒に音楽を共有している心地よさが大好きだ。桜台POOLの高い天井を何度も見上げながら星を感じることに夢中になっていた。エルトン・ジョンの『Your Song』も日本語詞で歌われることで素朴で純粋な愛の深さがヤバいくらい心に沁みてきた。個人的に思うところがあってすげえ凹んでいたりもしてたんだけど、彼の音楽の前ではそれも些細なことのように思えた。だからこうして文章を書いたりしてるんだけど。

休憩を挟んだ後、出演者全員による即興セッションが行われた。これがまた見所だらけっつーか、悶絶につぐ悶絶っつーか。凄まじいエネルギーが渦巻いていた。美川さんのノイズと旅人のエフェクトボイスが絶えずフロアを爆撃するなかで、悠美子さんの大正琴がギャリギャリと空間を刻んでいく。本来は伴奏に専念するはずだった近藤さんと小林さんもそれぞれ上着を脱ぎだすほどに熱くなって音のうねりに飛び込んでいった。隆一さんも最初こそバリサクでぶっとい音を炸裂させていて男前だったんだけど、途中でフルートに持ち替えてからは、規則的に「ピロリ♫ピロリ♫ピロリ♫」と反復を繰り出す奇手に転じてきた。終わることのない地獄の反復フレーズで俺のマックフライポテトは揚がり狂ってしまった。その後、フルートすらも置いてしまって、ひたすら規則正しく「ホーッ!」「ホーッ!」ってシャウトしてんの。無秩序のなかに秩序が突然あらわれるとどうしてもそっちに耳がいってしまうんだよね…Σ(゚д゚lll)

目の前で起こったことの情報量が多すぎて、言語化するのがものすごく大変なんだけど、あまりに楽しすぎる企画だったのでどうしても残しておきたかった。いつにも増してまとまってないような気もするけど、んなこたぁどーだっていいのだ。楽しかった!楽しかった!楽しかった!チョー楽しかった!!

(この日のことについて、田中悠美子さんやSachiko Mさんがツイートしているので合わせて読んでもらうとより楽しさや奥深さが伝わるのではないかと思います)

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