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PARK ROCK ISHINOMAKI 2015 雑感

いつか被災地に行こう。あの頃漠然としたまま掲げた決意を忘れてしまったわけではないが、実際には足を運ぶこともせずに時間だけが過ぎてしまった。当時のことや復興の進捗状況などをインターネットで調べたりするものの「自分が行ったところで何かできるわけでもない…」なんていかにも知ったかぶりの、もっともらしい態度でいることにも慣れてしまったのかもしれない。

石巻で楽しい音楽のイベントを行なうからこれをきっかけに石巻に来て、ついでに被災地の2年たった「現実」を見て下さい。そして石巻で楽しんで帰って行って下さい。結果、最後には今の石巻っておもしろいなっ!と感じてもらえると思ってます。ここで石巻を見てもらったから、今後石巻の為に何かしてほしいとは思いません。ただ、個人個人で何かを感じてもらえたらと思ってます。それぞれ、命の大切さを感じる人、家族を大事にしようと思う人、もう一度防災意識を高めようと思う人、それぞれ何かを感じてもらえたらそれで十分です。そんな想いをのせて行ないます。費用分を除いて、利益分は震災復興の支援金として寄付させて頂きます。
PARK ROCK ISHINOMAKI 実行委員一同
(一部引用)

引用させていただいた文章は2013年にPARK ROCK ISHINOMAKIを初めて開催するという時に書かれていたものであるが、これをたまたま読んだ時に自分の気持ちがスッと楽になったような気がした。現地で生活している人が遊びに来なよって誘ってくれてるんだから、こっちも気軽に「行くよ!」ってレスポンスすればいいだけのことだったのだ。だから難しいことを考えずに行くことにした。

今回はPARK ROCK ISHINOMAKIで用意されている格安バスツアーを利用したので、ここでは当日の流れを紹介しながら自分の感じたことも交えて書いていくことにする。石巻に限らず被災地に行きたいと思っている人の一助になれば幸いである。

・東京〜石巻(往復)
新宿0時頃出発→翌朝石巻到着→小休憩→被災地語り部ツアー→11時会場付近到着→PARK ROCK ISHINOMAKI→21時イベント終了→22時頃石巻出発→翌朝新宿着

被災地語り部ツアーではバスに同乗した語り部さんの説明を受けながら石巻市と女川市の現状を見てまわった。「がんばろう!石巻」の看板(門脇町)~女川駅女川町地域医療センターでは降車して間近に見ることができた。当時にくらべれば復興は進んでいると思うけど、同時にまだまだ途方もない時間がかかる場所も多くて複雑な気持ちになった。

11時頃、開催地に到着。ここでバスツアーは解散。BLUE RESISTANCE寿DANCEHALL橋通りCOMMONIRORIの4会場を使ったサーキットイベントPARK ROCK ISHINOMAKIがいよいよ開演した。

BLUE RESISTANCEは東北ライブハウス大作戦というプロジェクトによって2012年10月30日に産声をあげたライブハウスである。

中に入って最初に目に飛び込んできたのは数多くの木札で作られた壁だった。木札作戦によって全国から寄せられた復興への願い、そのひとつひとつが目に見えるかたちで存在していることに胸が熱くなる。サウンドチェックで初めて体感した出音も新代田FEVERのローを少し丸くしたような感じで自分好みの鳴りかたをしていた。震災風化抑制、石巻の活性化、石巻の新たな音楽文化の創出というPARK ROCK ISHINOMAKIが掲げるテーマに相応しいライブハウスである。

夜行バスではほとんど寝ることができなかった。被災地を見てまわったことで言葉にしがたい複雑な感情に押しつぶされそうにもなった。精神的にも肉体的にもあまり良くないコンディションを一瞬にして吹き飛ばしてくれたのは喧嘩ごしに鳴らされるKAGEROの爆音波状攻撃だった。先手必勝とばかりに一気呵成に攻めてくる彼らの勝ちパターンはいつでも自分がライブハウスにいることを強く実感させてくれる。

語弊を恐れずに書くならば、石巻だろうが被災地だろうがステージで音楽を鳴らす者とフロアにいる自分が向き合っている時は疑似被災的な感情なんて全くいらないのだ。必要なことがあるとすればライブで感受するさまざまな刺激を自らの活力に変換して、被災地に対して自分なりにできることを惜しみなくしていくことだと思っている。拙いながらもこうして文章として残しておくということもそのひとつである。

SAWAGIの『ibiza』でフロアにいる全ての人の胸の高鳴りが聞こえた。
縦横無尽にいろんなジャンルの垣根を飛び越えて気持ち良く踊らせてくれる笑顔の絶えない音楽がそこにはあった。

ATATAの『Star Soldier』でフロアにいる全ての人と一緒に歌った。
タイトな爆音で鳴らされる強い気持ちに呼応するように、拳を突き上げ、声の限り叫び、自由に踊る。双方向で魂が共鳴すればするほどエモーショナルな感情が沸き起こってくる。

GAGLEの『聞えるよ』の歌詞にじっと耳を傾ける。

好奇心が頬ずる 縮こまる心持ちを
生温く刺激する
しんどい時は 何となく吹く風の便りに
力を借りて 踏ん張ってられる

「石巻に新曲を持ってくることができなかったから、
そのかわりにいつもより1.5倍はりきってライブをする」

って照れながら話していたHungerが見せる努力の結晶としての圧倒的なスキルと飾らない実直さに目も心も釘付けにされた。

Shing02の『Luv(Sic)』メドレーで披露されたある一節の訳詩。

音楽を信じれば、詩は心を癒す
病んでいるあなたを放っては置かない
ビートとメロディーがレシピ
あなたの心が、僕を高めてくれる

HIP HOPというループミュージックの魅力と可能性を最大限に引き出したNujabesのトラックに石巻の空気もたっぷり染みこませて聴くことができたあのひと時は一生忘れることがないだろう。

「ファーストイン・ラストアウト」
最初に入れたデータが最後に取り出されるというコンピューターにおける基本的なデータ構造のひとつで、Shing02がMCで音楽の世界になぞらえるかたちで触れていたんだけど、今回の石巻遠征を自分なりに総括するとこの言葉がすごくしっくりくる。石巻にいる人が厳しい現状と立ち向かいながら誰もが遊びに来れる場所を作って待っていてくれるから、自分はそこにふらっと遊びに行くことができる。そして自分が帰ったあとも、彼らは石巻での生活を続けていく。当たり前なことに感じるかもしれないが、実際に被災地をまわったり生活している人の話を聞いて目を覆いたくなることが何度もあった。どれだけたいへんなことか痛いほど身に染みた。

PARK ROCK ISHINOMAKIが開催された5月30日。
仙台と石巻を結ぶJR仙石線が4年2カ月ぶりに全線で運転を再開した。
石巻はこれからもっともっと魅力の溢れる町になっていくだろう。
ならば自分がまた石巻を訪れる時には、いろんな場所に行って、たくさんの人と話をして、つながりをたくさん築こう。いままでも他人事でいたつもりはないけれど、せめてこれからは自分のことのように笑ったり泣いたりしよう。
風化なんてさせてたまるか。

余談なんだけど、そう遠くないうちに石巻に行かなければいけない理由もできたので必ずまた行こうと思っている。この話の続きは別頁で。

※今回の石巻遠征で書ききれなかったことや撮ってきた写真などを別頁に投稿してあります。興味のある方は読んでいただけると幸いです。

【関連頁】

●書ききれなかった石巻での思い出

●石巻・女川で撮った写真

昨年のPARK ROCK ISHINOMAKI開催時の映像を中心に石巻の今を伝えるショートムービーも素晴らしいのでぜひ視聴してみてください。


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