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The Observatory来日公演@桜台pool 雑感

実験音楽の聖地である桜台poolにて開催された全てを凌駕する催し物に行ってきたので以下にその時の感想など。

開演を少し過ぎた頃に入場したらフロアの大半はすでに誰かしらいて空きスペースがないように感じた。なんとなく邪魔にならないようにと最後方に移動。長丁場のイベントで最初からぶっこむ体力はもちあわせていないし、なにより桜台poolにあるドリンクで以前から狙っていたかわいい丸い瓶の林檎ジュースを早く飲みたかったというのもある。薄暗いなかに椅子を見つけたのでひとまず着席。そしてまずは一口ぐびり。おいしい…Σ(゚д゚lll)

薄暗さにも目が慣れてきた頃、隣にも座っている客がいたことを知った。それ自体は別に珍しいわけでもなんでもない。ただ認識しただけのことである。とはいうものの、時間が経つにつれてなぜだか隣の存在が気になりだした。ただならぬ妖気を感じたというか、明らかに他の客と温度感が違っているように思ったのだ。で、なんとなく不自然にならない程度の横目でチラッと隣を見てみた。

俺…どさくさに紛れて灰野敬二の隣に座っちゃってるよ…Σ(゚д゚lll)

これがもし最初からわかっていれば、たとえ隣に座れる椅子があったとしても絶対に行かない。俺ごとき凡夫が灰野さんに近づいていいわけがない。ましてや今の俺はのんきに林檎ジュースとか飲んじゃってるのだ。杖でボコボコに殴り殺されるのも時間の問題だろうなと恐怖に怯える。

まだ 冷たい内に この今に 全ての林檎ジュースを 飲んでしまおう

そう考えた俺は一気に飲み干した。そしてわずかでも匂いが漏れないように呼吸することすら自重した。自分の人生においてこの時ほど緊張感を漲らせながら林檎ジュースを飲んだことはない。

この時に演奏していたMoEというノルウェーのバンド、かっこよさそうな音を鳴らしていたんだけど自らの死に対しての恐怖が勝ってしまって印象に残すことができなかったのが残念である。完結されもしない死…Σ(゚д゚lll) 

転換に乗じて魔空空間より命からがら脱出。次のカイライバンチに備えて最前で待機。続々と運び込まれる殺戮兵器の数々を眺めながらつくづく思った。嗚呼、今日の桜台poolには安全地帯はないのだと。それならば「背中の傷は剣士の恥だ」という某海賊団の腹巻よろしくいっそ派手に死んでやろうと覚悟をきめた。

殺戮兵器その1「地獄の銅板拡声器」

中にスピーカーが組み込まれていて、横にあるアンプから放出されるノイズを拡声する。マイクを近づけてハウリングを引き起こすことも可能。高さの調節ができるほか横に自動回転する万能っぷり。


殺戮兵器その2「アクセル全開 環七ギター」

ガソリンで動くエンジンが搭載されたギター。手動でエンジンをかけるとピックアップ付近に仕込まれたゴムベルトが回転して弦をかき鳴らす。モーターが爆音すぎてギターの音が聞こえにくかったり、ガソリンの臭いが鼻孔直撃してきてあれだったりしたけど、かっこいいから問題なし…Σ(゚д゚lll)


殺戮兵器その3「なんだかわかんねえけど空気砲みたいなやつ」

これに向かって手持ちのレーザーガンを撃ったら光に反応してんだかなんだかよくわかんねえけど、空気砲のように筒からガス砲弾が発射される。鈍すぎる発射音がまたエゲツない。

カイライバンチによって視聴覚を全殺しにされてしまったので、一旦エスケープ。喫煙所で一服した後、フロアに戻ると康勝栄+Yousuke Fuyama+ucnvの演奏が始まっていた。テーブルノイズを演奏する人って、机の面積に収まるように綺麗にエフェクターを配置しているパターンが圧倒的に多い、というかほとんどの方はそうであると思うんだけど、康さんのセッティングはいつ観ても異彩を放っている。圧倒的に無造作な山積み…Σ(゚д゚lll)なんと説明したらいいんだろう。地方のハードオフがエフェクター(ジャンク品)のワゴンセールをしていたとしても、もう少し綺麗に並べているはずだ(知らんけど)あまりにも演奏しづらいであろうセッティングを前に佇みながら、起伏に富んだノイズを顔色ひとつ変えずに表現してるのすげえクール。

in the sun + Doravideoもすごく楽しみにしていたんだけど、ドラびでおさんがまさかのインフルエンザ発症につき欠場。in the sun単体での出演となった。序盤から爆裂するドラムにギターとシンセとノイズがぐにゃぐにゃ交じり合いながら破滅に向かって加速するクソかっこいいバンド。初見だったけどグッと心をつかまれた。Kuruucrew、BOMBORIなんかと通じるとこあるなと思ったら普通に対バン経験があるようだ。確かにBUSHBASHや二万電圧で観たさある。これにレーザーギターが重なるとか余裕で死ねるだろうな。ドラびでおさんが早く回復しますように。

ENDONは去年「dEnOISE」というイベントで観たことがあった。何も知らないでドセンにいたら、開始数秒で屈強なボーカリストから主成分がほぼ痰に近い唾を顔面に浴びせられたという苦い経験があったので、三列目まで下がって観ることにした。暴力的なパフォーマンスと骨密度の高いノイズ・ハードコアを体感するのに桜台poolは狭すぎて案の定クソヤバかった。怖さとか音のデカさだけが目立つバンドと違って、音楽を諦めていないというか、きちんとした確信をもって表現しているんだろうなと思う。ただ耳栓は必須かもしれない。個人的には表情をひとつも変えることなく壁際の椅子の上に立ってステージを観ていたアナーキー吉田(水中、それは苦しい)を見つけて胸が熱くなりました…Σ(゚д゚lll)

T.美川(とくにソロの場合)の演奏はノイズを音響として聴かせてくれる。ノイズであることはもちろん大前提なんだけど、肉体性や暴力性を喚起させるというより、緻密に構築されていくノイズスケープを味わう楽しみに満ち溢れている。ノイズに対して耳を澄ませるという表現があっているかはわかんないけど、じっくりと聴いていたくなるのだ。ただ、強いて難を言えばこの日の演奏時間が短すぎた。10分くらいで終わってしまったのだ。ただ、持ち時間とか明確に決まってるわけではないので生み出した音楽の流れがそうさせたのであれば仕方がない。でも、もう少し聴いていたかった。

黒パイプ+夏の大△はあまり楽しめなかった。桜台poolはステージに段差がないうえに、客の頭上にPAフロアがあるので体感としては三列目より後ろにいるとほぼステージが見えない。黒パイプは「dEnOISE」で観たことあるのでその姿を追わないでもなんとなくやってることはわかるんだけど、せっかくダンサー乱入~エアロビレッスン~乱痴気騒ぎっていう面白いくだりがあるのにそれが全く見えないというのは単純に辛い。煙も焚きすぎ。

煙で目がしょぼしょぼになりつつ再び最前に移動。大トリはアジアン・ミーティング・フェスティバルにも参加していたユエン・チーワイとレスリー・ロウのバンドThe Observatoryである。鳴りやまぬ残響ノイズと不穏な歌い方に支配された陰鬱な世界観のなかで、何度も何度も感情がそぎ落とされたリフが打ち鳴らされている。冷たく重たい音の塊で心が蝕まれていくような感覚に陥ってしまった。だからといって絶望しかないのかというとそうとも限らない。徐々に熱を帯びるグルーヴは希望とまでは言えないかもしれないが、痛みを背負ったうえでそれでも立ち上がろうとする意志のようなものは確かに感じた。初めて観た彼らのライブは持ち時間も短くて、その魅力の全てを体感できたとは思えないけれど、自分の心が不思議な揺れ方をしていたような、ちょっと独特な余韻に包まれた。

終演後に物販で某バンドのCDでも買おうかと思っていたんだけど、イヤだなと思うことがあった。説明したところで誰も得をしないので詳細は割愛。ただ関係あるようでないようなことをどさくさに紛れて言うならば、アーティストにはもっと貪欲に自分たちの商品を売ってもらいたい。アピールしてもらいたい。いいライブをした後ならば尚更だ。今日来た客が次回来るとも限らないんだし、ましてや物販に誰もいないとか商機を逸してるとしか思えない。まあ、よくある話なんだけど。イベントが全体的にとても楽しかっただけに最後の最後でモヤっとしてしまったのが残念である。

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