ディズニーの日
その日はディズニーに行くにもかかわらず、13時に起きる喜びを享受していた。
「経済促進の旅行割や千葉県の割引を駆使すると、なぜかディズニーチケットを普通に買って行くよりもホテルに泊まった方が安くディズニーに行けてしまう」
という、バグみたいな方法を見つけた友達の監修の元、男4人でディズニーに行った。
計画通りホテルに泊まり、寝ようかと落ち着いたところで私は、携帯の充電器を忘れていることに気づいた。
ディズニーは多くが待ち時間であり、友達と会話ができるとはいえある程度の充電が必要なのは明白だった。
現在の充電は40%。少し心もとない。
もちろん友達の充電器を借りれば済む話だが、友達のものを借りるには彼らの充電が終わっている必要がある。(そのへんは律儀なので)そこで私は思いついた。
できるだけ早く眠りにつき、早く起きてから友達の充電器を借りれば良い。
光の速さで床についた。23:00のことだった。
目が覚めると、あたりはまだ夜だった。
そして、携帯のブルーライトで示された『2:30』の文字に戦慄した。
予定よりも早すぎる起床であった。
周りを見渡すと、3人はすっかり眠りについていた。(後から聞いたが、氷を投げ合っていたらしく、確かになんか濡れていた)
しかし恐らく、彼らの携帯の充電は100%に達していないだろうと思われ、そこで自分の携帯をこっそり充電するというのは憚られた。
仕方なくもう一度眠ろうと横になる。
しかし、どう努めても眠気が再び訪れることはなかった。
携帯の充電は残り40%。6:30起床、8:00出発の予定であるため、みんなが起きてからの1時間半である程度の充電はできるものと思われた。
いける、と、眠ることを諦め、携帯をいじる。
朝の5時になると、すっかりあたりは明るくなっていた。
私は暇だったので、ホテルの庭に行こうと考えた。
携帯の充電は10%ほどになっていた。
エレベーターで一階まで降りたのち、フロントとロビーを通って中庭へ向かう。その最中に、ある4文字が目に入ってきた。
「急速充電」
たまーに駅などで見かける、携帯充電ステーションみたいなやつだった。
正直誰が使うのかと思っていたが、こんな奴が使うんだなと思った。
15分の充電で200円。
割高な気もするが、逆にパワーに期待できる。
コインを入れ、箱の中にある充電ケーブルを携帯に挿し、パスコードを設定して箱を閉める。
携帯の充電は、その時点で9%だった。
どこか解放されたような気持ちでロビーを離れ、中庭に出る。
何の動物かはわからないが、何かをかたどった植木が目に入る。
覇気のない噴水がちょろちょろと音を立てていた。
何となく空を見上げた。
朝の空を両断するかのような、巨大な飛行機雲が私の視界に現れた。
その筆で書いたような線の端には飛行機の姿があり、この瞬間にもその線を延長していた。
あまりにも見事な光景だった。
私はポケットを探った。
携帯は充電中だった。
慌てて充電ステーションを見に行く。残り時間はあと7分だった。
途中で充電を解除することもできるが、せっかくの200円には換えられない。
人生でも上位に入るような美しい光景なのに、カメラに収めることができないのか。
仕方なく飛行機雲を見つめる。
3分もすると、まっすぐ張っていた雲の線もふにゃふにゃに滲んでいた。
しばらく空を見つめていると、もったいないことをしたと思いつつも、一方でそんな光景をカメラに収められなかったというのもいい話ができたと開き直ることができていた。
清々しく散歩を終え、中庭を後にした。
今日はディズニーの日だ。充電ステーションにパスコードを入力して携帯を取り出す。
充電は、いったいどのくらい増えただろうか。
画面を見る。
『13%』
私はキレた。
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