トイレ
「へぇ〜⤵︎」
この声を文字に起こすとこうなるだろうな、というイメージがずっと頭にあった。
秋葉原のトイレで用を足している時、おじさんの声が近づいてきた。
「へぇ〜⤵︎」
小便器の前に立っていた私は、その声が真左に着地するのを確かめると、こう決意した。
——絶対左は向かないでおこう。
おじさんは言う。
「あぁ〜こうやってな、トイレはな、こうやるからな、へぇ〜ん⤵︎」
怖すぎる。小便中という身動きの取れない状況において、誰よりも怖い男かもしれないと思った。
おじさんは小便を続ける。
「こうやってな、しっかりな、こうするとな、へぇぇ〜⤵︎」
横目に、勢いよく腰を振って、恐らく尿を切ろうとしているおじさんの姿が見える。
私はそんな状況で小便などできるはずもなく、ひたすら耐え忍ぶのみだった。
「こうやってなあ、へええぇ〜ん」
当社比で大きめの鳴き声を残し、おじさんはトイレを去る。
『手を洗わない』という行為に、逆に納得と安心感が生まれた私は胸を撫で下ろし、おじさんのいた場所を見た。
めっちゃこぼしてた。
あんなに腰振ってたのに。
腰振ってたからこそなのか。
東京って怖い。
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