成人式
成人式に行くにあたって準備したことといえば、せいぜいシャツを買うくらいのことだった。
それ以外の、例えば「友達と連絡をとって一緒に行く約束をする」とか、「2次会の詳細を確認する」とかは、何一つしないままでその日の朝を迎えたのだった。
では、何も準備をしないとどうなるのか。
「〇〇君見ましたよさっき」
「〇〇君!懐かしいですねえ」
さいたまスーパーアリーナの座席で、私は両脇を誰かの保護者に挟まれ、悟りを開いていた。
さいたま市の成人式(二十歳の集い)は区ごとに3部構成で行われるため、主に会えるのは中学時代の友達で、小学校時の友達はせいぜい半分くらいとしか会えない。
その上中学時代尖っていた私は卒業式の日にLINEのアカウントを削除しているため、塾が一緒だった2、3人としか連絡が取れないのだった。
式が終わり、外に出る。
既に数少ない友達のひとりと連絡をとっていた僕は、無事に5年ぶりの同級生たちと合流することができた。
「久しぶり〜」
と出ていくと、
「うわ、きせのんじゃん!」
「もう一生会えないかと思った!!」
「お前生きてたんか!!」
数年間連絡が取れなかったうちに今生の別れを覚悟されていたらしく、さながら横井庄一軍曹みたいな扱いを受けた。
感動もひとしおで、写真も撮り、ある程度暇になってきたところで私は、一番気になっていた疑問を口にした。
「2次会ってあんの?」
「あるけど、俺らほとんど呼ばれてないんだよな」
意外な答えだった。
当然お誘いなど来るはずもなく、1人で帰宅することも考えていた私にとっては急に仲間ができた気分で安心した。
「〇〇でやるらしいんだけどねー」
「まあとりあえず、行ってみるか」
え?
どうやら2次会に呼ばれなかった彼らは、とりあえず会場まで押しかけ、ダメだったら帰るらしかった。
大丈夫だろうか。
「お金払ってないからお弁当はないけど、椅子だけなら渡すから適当にテーブル選んで座っていいよー」
大丈夫だった。
場内にはいくつかテーブルがあり、それぞれに7〜8人ほどが円形に並んで座っている。そんななか、2次会難民を受け入れたテーブルには15人が集まり、隣との距離感はほとんどワンピースの宴だった。
「きせのんじゃーん!」
「一生会えないかと思った!」
このくだりを繰り返しつつ、食事をしていた。
食事もそこそこに、ビンゴ大会が始まった。
「お、ビンゴ!」
うちのテーブルだった。
お金を払っていないのに、ビンゴの景品だけは持っていく。
「ビンゴ!」
なぜかうちのテーブルだけ、ビンゴ率が高かった。
「次は〜、64!」
「ビンゴ!」
これ、僕です。
景品は紙袋に入っていて、おそらく大きいものから持っていかれたらしく、私の頃には小さいものばかりだった。
お金も払ってないのに高いものを持っていくなんて流石にできないよな、と思って紙袋を選び、テーブルに持って帰る。私のテーブルでは4人が紙袋を持っていた。
隣のやつ(金払ってない)はデカめの加湿器を手に入れており、私は羨ましく思った。
小さい紙袋を開ける。
fire stick tvの4000円ぐらいのやつだった。
みんな本当にごめん。
皆さんの血税によって、景品を持って帰るだけの集団が生まれました。
「俺1年間その月の誕生石と同じ色に染めてたんだけど、気づかれなかったんだよね〜」
とか言ってる奴もいつつ、帰路につく。
3次会に参加できるほど味方はいなかった。
後日、小学校の同級生たちが進んだもう半分の中学校の2次会の話を聞いた。
「ホテルの8階で立食パーティーしたよ!」
え、そんな感じ?
彼らとの差はどこでできてしまったのだろうか。
しかし私はそれで良かったと思う。
ホテルは流石に飛び入り参加できなそうだし。
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