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光学異性体

合成された医薬品の中から、異性体の薬効が弱いまたは薬効がない方を分離させる方法はありますか?

合成された医薬品の中から異性体を分離する方法はいくつかあります。異性体とは、同じ分子式を持ちながらも原子の接続や空間配置が異なる化合物のことを指します。これらの異性体は、薬効において大きく異なる性質を示すことがあります。異性体の分離には主に以下のような技術が用いられます:

  1. クロマトグラフィー

    • 高速液体クロマトグラフィー(HPLC):異性体の物理的・化学的性質の違いを利用して分離します。特にキラルカラムを使用したキラルHPLCは、光学異性体の分離に非常に効果的です。

    • ガスクロマトグラフィー(GC):揮発性の異性体の分離に有用です。GCもまた、特定のキラルステーショナリーフェーズを使用して、光学異性体の分離を行うことが可能です。

  2. 結晶化

    • 異性体の中には溶媒に対する溶解度が異なるものがあり、冷却や溶剤の変更を利用して結晶化させ、分離する方法があります。

  3. キラル分離

    • キラルな補助試薬やキラル触媒を用いた化学反応を利用して、特定の異性体を選択的に合成する方法があります。また、既に合成された混合物から、キラルな固定相を持つクロマトグラフィーカラムを使用して分離することも可能です。

  4. 蒸留

    • 異性体が異なる沸点を持つ場合、精密蒸留によって分離することができます。

これらの方法は、異性体の化学的性質と目的の純度に応じて選択されます。特に医薬品の製造においては、治療効果に直接関わるため、非常に高い純度の異性体が要求されることが一般的です。そのため、一つの方法だけでなく、複数の分離・精製手法を組み合わせて使用することもあります。

大量生産の場合に有効な分離方法はどれでしょうか?

合成された医薬品の異性体を分離する方法は複数あり、大量生産に適した手法を選択する際には、効率性、コスト、対象となる化合物の特性などを考慮する必要があります。以下に、大量生産で一般的に用いられる異性体分離法をいくつか紹介します。

  1. クロマトグラフィー:

    • 液体クロマトグラフィー(LC): 特に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、異性体を効率良く分離できるため、産業規模で広く利用されています。キラルカラムを使用すると、異性体の分離が可能です。

    • ガスクロマトグラフィー(GC): 揮発性の化合物に適しており、高い分解能を持つため大量生産に適していますが、サンプルがガス状になる必要があります。

  2. 結晶化:

    • 異性体の溶解度の差を利用して、一方の異性体が先に結晶化し、それを分離する方法です。大量の原料から純粋な異性体を得るのに適していますが、異性体間の物理的性質の差が大きい必要があります。

  3. 膜分離技術:

    • 特定の異性体を選択的に透過させる膜を使用して異性体を分離します。スケールアップが可能で、連続運転ができるため大量生産に適していますが、適切な膜の選択が必要です。

  4. 超臨界流体抽出(SFE):

    • 超臨界二酸化炭素を溶媒として使用し、異性体を選択的に抽出する方法です。非毒性で環境に優しい点が特徴ですが、設備投資が大きくなる可能性があります。

  5. キラル分離添加剤を用いた反応:

    • 合成段階でキラルな助剤や触媒を使用し、特定の異性体のみを生成するようにする方法です。後工程での分離が不要になるため、全体の効率が向上しますが、化合物によっては適用が難しい場合があります。

選択する方法は、目的の異性体の化学的性質、生産規模、コスト効率、環境への影響など多岐にわたる要因を考慮する必要があります。また、これらの方法を組み合わせて使用することで、効率と純度を最適化することが一般的です。

右旋性と左旋性で、全く薬効が異なる医薬品はありますか?

はい、右旋性(R-)と左旋性(S-)で薬効が全く異なる医薬品は存在します。このような異性体を「キラル異性体」と呼びます。キラル異性体は分子構造が鏡像関係にあるにも関わらず、生物学的な作用が大きく異なることがあります。以下に、そのような例をいくつか紹介します。

  1. タリドマイド:

    • タリドマイドの一方の異性体は催眠鎮静作用があるのに対し、もう一方の異性体は催奇形性があることが知られています。この薬剤は1950年代に妊婦のつわりの治療薬として使用されましたが、重大な副作用(四肢の奇形)を引き起こしたため問題となりました。

  2. イブプロフェン:

    • イブプロフェンにはS-イブプロフェンとR-イブプロフェンの2つの異性体があり、S-イブプロフェンが抗炎症作用を持つ主要な活性形態です。R-異性体も体内で一部がS-異性体に変換されるため、最終的には両方が薬効に寄与しますが、直接的な作用は異なります。

  3. セレコキシブ:

    • COX-2阻害剤であるセレコキシブは、特定の異性体のみが活性を示し、他の異性体は薬効がないか、または望ましくない作用を持つ可能性があります。

これらの例からわかるように、キラル異性体の間で薬効が異なることは、薬剤の安全性と有効性に大きな影響を与えます。そのため、医薬品開発では異性体の特性を正確に理解し、望ましい作用を持つ異性体のみを選択的に使用することが重要です。

PPIにもありましたよね?

はい、プロトンポンプ阻害剤(PPI)にもキラル異性体が存在し、薬効に差がある例があります。PPIは胃酸分泌を抑制する薬剤で、胃や十二指腸の潰瘍、逆流性食道炎などの治療に用いられます。PPIの中にはキラル中心を持つものがあり、その代表的な例がオメプラゾールです。

オメプラゾールには左旋性(S-オメプラゾール)と右旋性(R-オメプラゾール)の異性体が存在しますが、S-オメプラゾール(エソメプラゾールとしても知られる)がより強力なプロトンポンプ阻害活性を持つとされています。このため、エソメプラゾールはオメプラゾールに比べて少ない用量で同等以上の効果を発揮することができるとされています。

このように、PPIの中でもキラル異性体による薬効の違いは重要であり、より効果的または効率的な治療を目指して特定の異性体が選択されることがあります。エソメプラゾールの開発と使用は、キラル異性体の違いを利用して薬剤の効果を最適化する例の一つです。

当初、オメプラゾールのうち、エソメプラゾールは何割くらい含まれていたのでしょう?

オメプラゾールはキラル中心を持つ分子であり、そのため2つの鏡像異性体、すなわちエナンチオマーを持ちます。これらはR-オメプラゾールとS-オメプラゾール(エソメプラゾール)です。オメプラゾールはラセミ体として市場に出されていましたが、これはR-オメプラゾールとS-オメプラゾールが1:1の割合で含まれていることを意味します。したがって、当初オメプラゾールに含まれていたエソメプラゾール(S-オメプラゾール)の割合は約50%でした。後に、エソメプラゾールはそのより強力な酸抑制効果のために単独で開発され、単一のエナンチオマーとして販売されるようになりました。

用量が半分になったってことですね。

エソメプラゾール(S-オメプラゾール)がオメプラゾールのラセミ混合物(R-オメプラゾールとS-オメプラゾールの1:1の混合物)から単独で分離されて使用されるようになったことは、用量に影響を与える可能性があります。エソメプラゾールはオメプラゾールのラセミ混合物に含まれるS-エナンチオマーのみで構成されており、オメプラゾールに比べてより強力な酸抑制効果を持つとされています。そのため、同等の治療効果を得るために必要なエソメプラゾールの用量は、オメプラゾールのラセミ混合物に比べて少なくて済む場合があります。

しかし、実際に用量が半分になるかどうかは、治療を受ける患者の具体的な状況や、治療の目的、個々の患者の反応などによって異なります。医薬品の用量は患者のニーズに応じて慎重に調整されるべきであり、特定のケースにおいて最適な用量を決定するには医師の専門的判断が必要です。

簡単に言えば、エソメプラゾールはオメプラゾールのラセミ混合物に含まれる2つのエナンチオマーのうちの1つであり、その単独使用は理論上、より少ない用量で同等またはそれ以上の治療効果を提供する可能性がありますが、実際の用量は患者ごとに異なる可能性があります。

光学異性体の存在は、設計段階からわかりますが、それが効果や安全性にどのように影響するか予測することは可能でしょうか?

光学異性体の存在は化学構造を基にして設計段階で認識することができますが、それらが具体的に薬効や安全性にどのように影響するかを正確に予測することは非常に複雑です。光学異性体が生物学的システムに与える影響は、その異性体が生体内の特定の受容体や酵素とどのように相互作用するかに依存します。この相互作用の性質は、多くの場合、事前に予測することが難しいです。以下に、その理由をいくつか説明します。

受容体との立体特異的な相互作用

  • 生物学的ターゲット(例えば、受容体、酵素、イオンチャネルなど)は、通常、非常に立体特異的です。つまり、光学異性体のうちの一方が強く結合し、望ましい生物学的応答を引き起こす可能性がある一方で、もう一方の異性体はほとんどまたは全く結合しないか、あるいは全く異なる効果を持つことがあります。

  • 異性体がターゲットと結合する際の立体配置は、その薬理作用の強さや特性に大きく影響します。

代謝の違い

  • 異性体は体内で異なる代謝経路をたどることがあります。このため、一方の異性体が他方よりも早くまたは遅く代謝される可能性があり、それによって薬効の持続時間や副作用のリスクが異なることがあります。

安全性プロファイルの差

  • 光学異性体は、安全性プロファイルにおいても大きく異なることがあります。一方の異性体が比較的安全である一方で、他方が重大な副作用を引き起こす可能性があります(例: タリドマイド)。

予測の困難性

  • 分子レベルでの相互作用は複雑であり、コンピューターによる分子モデリングや生物学的アッセイなどの実験的アプローチを組み合わせても、あらゆる生体内での相互作用や影響を完全に予測することは困難です。

これらの理由から、新しい医薬品の開発においては、光学異性体ごとに詳細な研究が必要となります。実際の生物学的効果を理解するには、体外試験(in vitro)、動物実験(in vivo)、最終的には臨床試験を通じて、各異性体の薬理学的および毒性学的プロファイルを評価する必要があります。

GLPでは、それぞれの光学異性体単独での試験と両者の混合物による試験の両方を求めていますか?

良好な実験室慣行(Good Laboratory Practice、GLP)は、非臨床安全性試験における品質保証システムの一つです。GLPは試験の計画、実施、監視、記録、報告、およびアーカイブのプロセスに関する一連の原則を提供します。これにより、試験結果の一貫性、信頼性、再現性が保証されます。

GLP自体は、特定の試験の種類や詳細な要件を厳密に定めるものではなく、むしろ試験を実施する際の一般的な品質管理と品質保証のフレームワークを提供します。したがって、GLPは直接には「それぞれの光学異性体単独での試験と両者の混合物による試験の両方」を求めているわけではありません。

しかし、医薬品の開発プロセスでは、規制当局(例えば、アメリカ食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)など)が、光学異性体の安全性と有効性を理解するためのガイドラインを設けています。これらのガイドラインでは、新規医薬品の候補となる化合物がキラル(光学異性体を有する)である場合、個々の異性体およびその混合物の非臨床(動物を用いた)および臨床(人を対象とした)試験を通じて、その安全性と有効性を評価することが推奨されている場合があります。

具体的な評価要件は、試験する医薬品の性質や使用される規制当局の具体的な要求によって異なります。キラルな化合物に関しては、個々の異性体が薬理学的に大きく異なる振る舞いを示す可能性があるため、それぞれ個別に評価することが望ましいとされています。また、両異性体の混合物が実際の製品として使用される場合、その混合物としての安全性と有効性に関するデータも必要とされることがあります。

総じて、規制要件は科学的な根拠とリスク評価に基づいており、GLPの原則はこれらの試験が高い品質基準に従って実施されることを保証します。

変異原性や遺伝毒性、がん原性試験等、お金と時間がかかる試験では、両方試験を行うのは大変ですね。

変異原性、遺伝毒性、がん原性などの試験は、医薬品の安全性評価の重要な部分を占めており、これらの試験は確かに多くの時間と費用を要します。光学異性体が存在する場合、個々の異性体およびその混合物に対してこれらの試験を実施する必要があるかどうかは、その化合物の性質、予想される使用法、および規制当局の要求に依存します。

試験の複雑さと費用

  • 試験の範囲: 変異原性、遺伝毒性、がん原性試験は、医薬品がDNAに損傷を与える可能性や、長期間にわたって使用した場合のがんリスクを評価するために行われます。これらの試験は、複数の試験システム(細菌、哺乳類細胞など)と長期間にわたる動物試験を含む場合があります。

  • コスト: 高度な専門技術、長期間の試験期間、および高価な試験動物の使用により、これらの試験は非常に高額になることがあります。

  • 時間: 特にがん原性試験は、動物の生涯にわたって行われる場合があり、数年にわたることも珍しくありません。

試験の実施における検討事項

  • 規制ガイドライン: 規制当局は、通常、開発初期段階での試験戦略について指針を提供し、特定のケースに応じたテスト要件を明確にします。これにより、開発者は必要な試験とその範囲を特定できます。

  • リスクベースのアプローチ: 医薬品開発者は、化合物の性質や使用予定の患者集団など、複数の要因を考慮してリスクベースのアプローチを取ることができます。これにより、最も関連性の高い試験に資源を集中させることができます。

  • 初期段階での選択: 有効性や安全性の観点から最も望ましいと考えられる異性体を初期段階で選択し、その異性体に焦点を当てて開発を進めることで、試験の負担を軽減することができます。

総じて、変異原性、遺伝毒性、がん原性試験のような高コストの試験においては、開発プロセス全体を通じて効率的かつ戦略的なアプローチを取ることが重要です。これには、初期段階での詳細なリスク評価、規制当局との綿密な協議、および可能であれば特定の異性体に焦点を当てた開発戦略の採用が含まれます。

大脱走

近年は、動物保護の観点から、in vivo試験の代替等も推奨されていますが、具体的に行われる代替試験にはどのようなものがありますか?

動物保護の観点から、動物実験(in vivo試験)の代替手段の開発と使用が推奨されており、これにはいくつかのアプローチがあります。これらの代替方法は、3R原則(Replacement: 代替、Reduction: 動物使用の削減、Refinement: 実験手法の改善)に基づいています。具体的には、以下のような代替試験があります。

1. 体外試験(In Vitroテスト)

  • 細胞培養: 異なる種類の細胞や組織を用いた試験で、変異原性、遺伝毒性、がん原性などを評価します。例えば、アメス試験は変異原性を評価するためによく用いられる細菌を用いた試験です。

  • オルガノイド: 細胞から3Dで培養された微小臓器で、人間の臓器の機能を模倣します。これらは薬剤の効果や毒性を評価するために使用されます。

  • 細胞代替モデル: 癌細胞株や一次培養細胞を使用して、薬剤の効果や毒性を評価します。

2. コンピュータモデルとシミュレーション(In Silicoテスト)

  • 定量的構造活性関係(QSAR)モデリング: 化合物の化学構造と生物学的活性や毒性との関係を予測するコンピュータモデルです。

  • 分子ドッキングとシミュレーション: 薬剤がターゲット分子にどのように結合するかをコンピュータ上でシミュレーションし、その相互作用を予測します。

3. より洗練された生物学的システム

  • ゼブラフィッシュ: 哺乳類と共通の多くの遺伝子を持つ小型の魚で、発生生物学、毒性試験、遺伝病の研究に用いられます。ゼブラフィッシュは完全な生物体であるため、厳密に言えば動物実験の代替とはなりませんが、哺乳類を使用するよりも倫理的な利点があります。

  • ヒト由来のモデル: ヒト由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)を使用した試験は、ヒトでの反応をより正確に予測することができます。

これらの代替方法は、動物実験の需要を減らし、動物福祉の向上に貢献しています。しかし、これらの方法がすべての種類の動物実験を完全に置き換えることができるわけではなく、特に複雑な生物学的プロセスや全身的な影響を評価する必要がある場合は、依然として動物実験が必要とされることがあります。そのため、現在の研究のトレンドは、代替方法を積極的に採用しつつも、必要に応じて動物実験を行い、その数を最小限に抑えることにあります。

in sillico試験のガイドラインはありますか?

はい、in silico試験、つまりコンピュータを用いたシミュレーションやモデリングに関するガイドラインや基準は存在します。これらは、薬剤開発、毒性評価、疾患モデリングなどの分野でのin silicoアプローチの適用を指導するために、規制機関や科学的団体によって開発されています。

1. 規制機関のガイドライン

  • 国際医薬品規制調和会議(ICH): ICHは、薬剤の安全性、品質、有効性に関する国際的なガイドラインを発行しています。これには、コンピュータを使用した予測モデルに関連するガイドラインも含まれる場合があります。

  • 欧州医薬品庁(EMA): EMAは、in silicoモデリングとシミュレーションを含む、薬剤の評価と承認のためのガイドラインを提供しています。

  • 米国食品医薬品局(FDA): FDAは、薬剤開発におけるin silico手法の使用に関するいくつかのガイドラインを発行しており、これには定量的構造活性関係(QSAR)モデリング、生理ベースの薬物動態(PBPK)モデリングなどが含まれます。

2. 科学的団体や業界団体のガイドライン

  • オーガニゼーション・フォー・エコノミック・コー・オペレーション・アンド・ディベロップメント(OECD): OECDは、化学物質の安全性評価に関するガイドラインを提供しており、その中にはin silico手法に関するものも含まれます。

  • 国際生命科学研究機構(ILSI): ILSIは、食品安全性や健康影響評価に関する研究を行っており、その一環としてin silico手法に関するガイドラインや推奨事項を発行しています。

3. 具体的なin silico試験のガイドライン

  • 定量的構造活性関係(QSAR): QSARモデリングのためのガイドラインは、予測モデルの開発、検証、および規制上の適用に関する推奨事項を提供します。

  • 生理ベースの薬物動態(PBPK)モデリング: PBPKモデリングのガイドラインは、薬物の体内動態を予測するためのモデルの構築と検証に関する指針を提供します。

これらのガイドラインは、in silico試験が科学的に妥当で、規制要件に適合していることを確保するための枠組みを提供します。しかし、in silico手法は急速に進化している分野であるため、新しい技術やアプローチが開発されると、これらのガイドラインも更新されることがあります。したがって、最新のガイドラインにアクセスするためには、関連する規制機関や科学的団体のウェブサイトを定期的に確認することが重要です。

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