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国語で「着せ恋」13巻を教えたら

「その着せ替人形は恋をする」、略して「着せ恋」という漫画がある。2024年5月末時点、最新13巻で1000万部越え、2022年にアニメになって2期制作も決定してるらしいので、ふつーに知ってるひとは知っている作品。ちょこちょこタイトルやら目にしたことはあって、つい最近読み始めるまでは本当の人形に人間的な意思が芽生えるファンタジー的な話しだと思っていたのだけど全然違ってた。

いちおう超ざっくり説明しておくと、主人公の五条君という男子高校生が祖父の背中を追って雛人形の職人を目指していて、人形の服を作る手伝いや頭を作る(顔を描く)修行にだけ目を向けてきた陰キャなのだが、コスプレ好きな美少女同級生・海夢(まりん)の服飾制作とメイクを手伝うことになって・・というラブコメである。

もろもろすっとばして13巻の話。ストーリーは五条君が人形職人見習いとしての腕を活かしてクオリティの高いコスを生み出すイベントこなしつつ、ドキドキワクワク2人が仲良くなっていく王道なラブコメ展開を続けてきたのだけれど、12-13巻では五条君が心をつかまれたイラストに対し、創作者としての限界に苦しみながらコスプレ衣装を完成させるというわりとシリアスな展開。

そして海夢は五条君が制作した衣装とメイクのクオリティに匹敵する表現力・存在感でコミケに現れ、ネットでも話題をかっさらうレベルで大勢の撮影者・参加者に囲まれるほどの評判となる、というところがこのエピソードのクライマックス。

このあたりの展開は、コスの原作として断片的に触れられる作中作のテーマと本編ストーリーが重層構造になっていて文学的なシナリオになっている上に、作画が神がかっていて本当に絵に引き込まれるわ、誇張なしで背中にゾクゾクっとくるわで知らずに死んだら損レベルなので、よしんば13巻だけであっても是非是非のぜひ読んでみて欲しい。(ほとんどこれが言いたいためだけにこの記事書いてる)

で、五条君はというと、

「その着せ替え人形は恋をする」(福田晋一・ヤングガンガンコミックス)13巻より

・・・闇落ちである。

ここでなぜ五条君が闇落ちしたか?、というところからやっと本題(一応)だけど、現時点(2024.5.30)の最新話まででは明確な説明描写がなく、X(ツイッター)上でもさまざまな解釈がつぶやかれている。

恋人未満の近しい存在であった海夢が突然自分だけのものでなくなるとの独占欲の自覚であったり、コスプレイヤーである海夢だけが注目されたことに対する嫉妬心であったりとの解釈がよく見受けられる一方、そうした解釈とはまったく異なる見方をする人もいたりとなかなか意見が分かれてる。読み終わってからもあそこはこういうことよねえといろいろ考えたり、様々な解釈論を延々と眺めていられるので、1巻でなんども美味しい本作である。さて、

***

問い:「五条君はなぜ闇落ちしたのか?」
もし、そんな議論を国語の授業でできたとしたら。

最近、高校生の国語は「論理国語」と「文学国語」の選択科目になっているらしい。どっちをどのように教えているのはよく知らないけれど、受験対策を考えて論理的に答えを導き出せる論理国語の選択が優位になっている流れがあるようだし、文学国語といってもテストで採点するなら論理的に答えが定まる問題を出すしかないのだろう。中学・高校受験の物語文もそうなってるし。論理性は大事。

一方で、答えがはっきりしないストーリーや情景を解釈し、あるいは自分が感じたかたちにならない気持ちをつかまえて、言葉でなんとか輪郭をなぞり、テキストに落とした文章・批評やリアルタイムの議論のなかでお互いに主張し解釈を味わえること。論理性とは別に身に着けたほうがいい国語力がある。

受験対策やテストの点にはつながらなくても、そういう授業をもし経験できれば。こころをギュッとつかむ作品を読んで、みんなで五条君のここの心情はあーだこーだと議論できたらめっちゃ楽しいやろうねえ。そういう授業の素材として、着せ恋13巻はいい読み物になるよなあと思った次第。

ちなみにこの「着せ恋」、1巻はこんなエピソードから始まります。

「その着せ替え人形は恋をする」(福田晋一・ヤングガンガンコミックス)1巻より

学校で扱えへんやんけ!


本当におすすめする漫画なのに入り口のハードルが高い。。


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