少年は純粋だった。よく水晶に例えられるが、まさにそんなところだったのだろうか。だがその水晶は脆かった。

 小学生。普通といえれば良かった。あまり思い出せないが、少なくともこの頃からまともでは無かった。うちの親は現代文化を嫌う傾向があった。漫画やゲームといった娯楽を許さなかった。だから友達も出来にくかった。彼が唯一見ていたテレビ、その中でもアニメもあまり許されていたかどうか。だから彼は未だにヒーロー物という子供じみた趣味しかない。それにすがっていた。

 そして人との馴染み方を忘れた小学生時代。自分が正しい、自分の思い通りにならないのはおかしい。3,4年生の頃になっても、そう言って小さな子供のように喚き散らした。他人との関わりが薄く、他人を思いやる心など持ち合わせていなかった。彼はその頃から疑念を抱き始めていた。

「何故だ。自分は間違っていないのに。何故こいつらは。俺が間違ってるのか。」

 そうして覚えた、『死にたい』という感情。本気ではない。本気にすれば怖気づく。だが自己否定という概念は間違いなく持ち合わせるようになっていた。

 5,6年生。この頃は完全に問題児と化していた。下級生を脅して怪我をさせ、他人の物を壊し、他にも思い出せないが色々とやっていた。ついには担任にも嫌われていた。この頃から言われていた『お前は将来まともな人間にならない』という言葉。細かい文句は忘れたのでニュアンスも間違ってるかもしれないが、恐らくあの言葉は間違ってない。

 中学時代。身長で虐められた。後ろ指を刺され、バカにされ、もう思い出せもしないが色々言われた。幸い金銭や暴力は絡むことは無かった。でも辛かった。

 中学三年。ついに破綻した。学校に行けなくなった。朝起きれず学校では眠り続け、それをキッカケに生徒と上手くいかず、そのトラブルを担任に言っても取り合ってもらえなかった。何もかも信じられなくなった。誰も信じない。誰も頼れない。いや、頼りたくない。誰かに期待してもどうにもならない。そうして卒業を迎えた。

 高校生になっても尚、彼の生活は治らなかった。朝は起きれず遅刻は常の事、新しい環境に馴染めず、かつ授業中が騒音被害レベルの煩さ。ついには人にコンパスの針を向け、窓を殴るといった異常行動に出始めた。そしてついには、五階にある教室の窓から飛び降りた。誰からも止められる事もなく。彼は窓のすぐ下に足場があるのがわかってた上だったので、何も怖くはなかった。それ以上に、その現状に耐えられなかった。そして高校を辞めた。

 いや、厳密には転入と言うべきか。聞こえがマシになるだけだが。通信制高校に転入し、何とか授業に出始めた。だがそこでも人とのコミュニケーションの取り方を間違え、結局孤立。そしてますます周りの人間の声を騒音としか思えないようになり、再びその元凶に刃を向けて引きこもった。

 籍は置いている。必要最低限の単位も取っている。だがそれ以外は只の引きこもり。堕ちきったニートだ。誰とも話さず、ただ液晶画面を睨む毎日。もはや何が好きかもわからず偶像を追いかけ、意味もわからず時間を使う毎日。ネットで人と話すこともあるが、それで心の孔は塞がりはしない。小説を書いてみても、それが果たして誰かが読んでくれてるのかわからない。自分がそれに納得しきっている自信もない。空虚な毎日の中で、少しずつ感情は消えて行った。

 僕の人生にタイトルは付かない。

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