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【ドラマ】長安二十四時(原題:長安十二時辰)が良かったので見てほしい

今年度最高の中華ドラマを摂取した気持ちになっています。

中国時代劇で「24-TWENTY FOUR-」をやるっていうコンセプトで、1話45分、全48話。同名の小説が原作です。わたしはWowowで録画していたものをチマチマ見ていたのですが、48話ほんとに息をつく暇がない面白さで、最後の4話はぶっ通しで見ました。

前年度で個人的に中華ドラマ最高だった「海上牧雲記」の監督だし、スタッフにもキャストにも海上牧雲記の人たちを結構起用してるし、作法の監修は「琅琊榜」の人だし、noteで記事にしたぐらいに好きなドラマの関係者が沢山いたのでとても楽しみにしていました。(リンクは自分のnote記事に飛びます)

実際、楽しみにしていた以上のすごみがある、芯の強い群像劇としてスタンディングオベーションするようなドラマだったので、なんかのきっかけがあれば見てほしい……そういう感じのノートです。

長安十二時辰あらすじ

大唐は長安。天保3年(存在しない元号)旧正月の15日を祝う上元節。上司殺しで死刑囚となっていた捕吏の頭領、張小敬(ちょう・しょうけい)は、治安維持機構「靖安司」の若い官僚の李必(り・ひつ)から、ある事件の調査を任される。上元節で警備の緩和された長安、そこに、唐に対して良からぬ事を企む「狼衛」の者たちが入り込んだ。狼衛の首魁である男を探し出して捕らえろ。それができれば刑を免じ、自由の身とする。
刻限は、上元節が終わるまで。長安で一番長い十二時辰が始まる。

導入はこんな感じなんですけど、そこから一枚ずつ真実への薄衣が剥がされていって、その真実を目掛けて奔走する、っていう構図です。

現場主義で荒っぽいけど気は優しい張小敬、官僚的で若さ由来の潔癖さが残る李必の二人が対立しているさまを微笑ましく見ていた序盤、裏で行われる権力闘争のせいで混乱する現場! 思っていたより大規模だった爆破テロ! どう止める張小敬! っていう中盤、そこから、長安が夜明けを迎えるまでに状況が目まぐるしく変わる終盤。だいたい序破急みたいな3幕構成になっています。

とにかく解像度が高い

解像度の高さは、この場合作中世界の完成度として使っています。

長安十二時辰は唐の長安が舞台で、李白や杜甫がバカ売れしていた頃。エンディングテーマや劇中歌にも李白の詩が使われています(余談ですが、エンディング曲は複数ある中から話の内容に沿ったものが選ばれる方式です)。

その中で「短歌行」のMVが、ドラマの絵作りがよく分かるものだったので見てほしい。

この解像度の高さが凄い2020年度受賞では? 存在しない世界へのリアリティの持たせ方は海上牧雲記スタッフの腕の見せ所なんですけど、それにしたって「へえー、長安ってこうだったんだ……」って思わせる説得力がすごい。これ、誰も見たことない時代の首都なんだよなあ。

各所に設けられた伝達用の櫓、祭りの花である芸人の山車、公費をジャブジャブつぎ込んで建てられた巨大な仕掛灯籠。この街並みが昼と夜で表情を一変させる。

さらに、上元節を祝うため集まる、あらゆる階層、あらゆる職業の人々。たとえば、最初と最後に出てきた太鼓の人は、靖安司にいる時報係の人です。この人が太鼓を叩き、「〇の刻 〇〇(時間に関する文言)」をエエ声で知らせてくれる。

他にもいろんな人種や職業の人がいて、MVにはいないんですけど、ペルシャの王族がキリスト教系の寺院で執事やってたり、長安のアンダーグラウンド組織の頭領が元崑崙奴の黒人系男性だったり、当時の長安にいたであろう人間をザバーっと出してくる。すごい。この世界を描くにあたっての解像度の高さ。映像だからやれる作り込み。しかも全員がバックストーリーを持ってる事が分かる。

ここ何年か「大作」って言われる中華ドラマはこの辺に絶対手を抜かない印象があるし、自分がnoteに書いた作品もだいたいそこについて言及しています。解像度高いのとても好きなので……

あと、名前を呼ばれないけど要所で出てくる市民の人々もとても良くて、わたしは床屋の親子と、紫姑神を呼び出しているババアが好き。名前を呼ばれる人だと、先に挙げたペルシャの伊斯(イス)王子がパルクール上手で善良なお調子者だったので好きです。王子がいる間は空気がちょっと軽やかになった。

気持ちいいテンポで気になる展開が来る

こういうサスペンス系のドラマを見ていると、あからさまに怪しい挙動のやつがいたりしてマークしとく、みたいな見方をしがちなんですけど、長安十二時辰はやべえ奴ほど違和感を隠す。

その、違和感から正体の露見までがとてもテンポが良く(もともと全体的にテンポの良い作りなんだけど)、予想を裏切られることも多々ありました。で、予想外の展開を咀嚼し終わると次がよそわれる。わんこそば式ですね。個人的には、おかわりが来るタイミングが丁度良くて楽しかったです。毎日一話ぐらいで見続けると人の顔忘れたりしないので良いと思います。続けて見ないと大事なこと忘れる。

意志の強い人間しかいない

その人が「そうする」と決めて腹におさめた意志の力が、上元節の長安で起きる事件を左右する。それは例えば、困っている時は助けあう、という素朴な市民の姿だったり、絶対に勝ち馬に乗ってやる、という出世欲がダダ漏れの小役人の姿だったりする。

全力で勝ち馬に乗ると決めた小役人は、すげえ速さで状況判断を行い、より強い者に尻尾を振る犬になる。見てるこっちは「お前ひどいな!」って思うんだけど、そいつはそいつなりに必死で、その必死さが面白みになる(それはそれとして、こいつ来世は犬かな……っていう気持ちにはなる)。

そもそも主人公の張小敬が、めちゃくちゃに意志の強い人間なんですよ。もと一兵卒で、過酷な戦地(張小敬含め数人しか生還できなかった所)にいた人で、その時の仲間が死んでも守った国の象徴たる長安を、どんなにボロボロになっても守ろうとする。精神的にも肉体的にも時間を追うごとに喪失が増えるんだけど、その誓いだけは折れない。

もう一人の主人公である李必(役者さん当時17とか18だったらしい)は、まだその「意志」を育んでいる途中、という若者。道教の教えを守り、世を良くしたいとも思いつつ、後ろ盾になってくれる貴人の意向にも振り回される。彼がどういう「意志」を手に入れたのかもドラマの見どころです。

主要な登場人物のほとんどが「長安」という都に縛られているようなドラマなので、長安にとどまる理由、あるいは長安にやってきた動機が登場人物の「意志」のコアになっている。でも、彼ら彼女らは「意志」のバックグラウンドまで全て見えてしまうと、生死問わず退場してしまう。長安、おっかないところだな……人間の物語を食い物にして輝いている。

時間がたつほど事件のヤバさが増していき、それに比例して捜査であちこち走り回る主人公たちはジリ貧になっていくため、最後に試されるのが「意志」であるっていうのも好みの展開でした。

後は、いわゆる鉄火場のブラザーフッドみたいなものが様々な二人組に存在するのでそこも大変良かったです。

未来へ……

長安十二時辰は、緊張感のあるサスペンスが見たい人の欲望をある程度の水準で満たしてくれるし、高解像度群像劇が大好きな人間は間違いなく刺さります。あとは自分の事を大事にしないハードボイルドなおじさん好きだと、たぶん楽しいです。パワーのある時に今度はネタバレありの感想をウワーッとすると思います。

で、この長安十二時辰、5月にCSのチャンネル銀河さんで放送が始まるそうです。ブルーレイも4月以降発売なのでぜひ見てね。

おまけ

ジャパンの販促動画があまりに好みではなかったので作品とタイアップしたMV貼って終わりにします。これは作中のアクションが多めに使われている方です。言い忘れていたけどアクションもすごかった。