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【ニンジャスレイヤー222再掲】マネー、マネー、マネー

 マグロは動かなければ実際死ぬが、マネーも概ねそうである。少なくともシルバーカラスはそう考えている。循環させてこそ生きるのが経済だ。

 マネーの循環は様々な形を取る。例えば、店に入る前に購入した『少し明るい海』は、肺の健康を食い潰す愚者のため、お高い税金がかかっている。

 それを買うため崩した万札の出どころは、ビジネスの報酬が元手で、その報酬は丁寧な迂回路を幾つも経てやってきたユーレイじみたマネーである。

「そういうわけだ。あるはずない所からマネーが出るなら、そいつの巡りをよくしちゃ貰えないかね」

 演説の締めくくりに、シルバーカラスは対面のフィクサーを見た。存在しないマネーでシルバーカラスを雇っている、笑い爺である。オーガニック・トロスシを咀嚼し、チャと一緒に口に残る脂をさっぱりとさせている。

「難しいですねえ、こちらも出せる金額でやらせていただいているので……」

 これは労働争議である。

 最近、割りに合わぬビジネスばかりだ。この前だって、仕事中に所属不明のニンジャに襲われ、カラテの巻き添えで現場に乗りつけたバイクは燃え、携帯IRCも壊れた。浅くない怪我も負った。

 端的に言って、労働と対価のバランスが崩れている。非常に良くない。

「仕事で壊れたのにか?」

 シルバーカラスはオーガニック・タマゴスシを口に放り込む。冷えたサケが欲しかったが、あいにくこの交渉が成立しなければ、追加オーダーは難しいだろう。移動の足、それと、足のつかない携帯IRCは、合わせたらオーガニック冷酒より高くつく。

「難しいですねえ。クライアントに、現場の事情を説明するわけにもいきません」

「お前さんが抜いてるマージンをちょっと回してくれたって良いだろう」

「それはもっと難しいですよね」

 さにあらん。誰だって、自分のスシが減るのは嫌だろう。

「なあ、どうにもダメかね。そちらさんにだって、ノーブレス・オブリージュ精神ぐらいあるだろ」

 自分の価値を量る事はとうに捨てた地を這う虫でも、イーグルに食われっぱなしは癪に障る。この気味悪い笑い顔に、せめて一泡吹かせてやりたいという、稚気じみた意地で食い下がる。

 笑い爺は、一切表情を動かさない。当然だ。そういう顔に整形しているのだから。

「ニンジャでもダメなものはダメです」

「そうかい」

「まあ、お気を落とさず。ここの払いは貴方じゃなく各自持ちにしますから」

 完敗である。ウバステを抜く気にもなれぬ。

 シルバーカラスは煙草に火を点けた。笑い爺にここは禁煙ですと言われたが、無視した。

【マネー、マネー、マネー 終わり】


これは昨日終わったばかりのニンジャスレイヤー222に参加した作品をnoteに再掲したものです。「ニンジャでもダメなものはダメ」をオチに使いたかったやつです。