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探偵はバーにいる  東 直己

1995年発刊の小説。
この小説を手に取ったのはタイトルに惹かれたからだった。
読み進めて最初に思ったのは「そんなにバーにいないんだな」ということ。
ぼくはてっきりバーのマスターが探偵業もしているのかなと思っていた。

始まりは大学生の依頼だった。
「同棲している彼女がアパートに帰ってこない」
主人公の探偵はなかなか口が悪く、別れる口実だろうとタカをくくっていた。
調べていくと彼女は裏で売春をしていて、ヤクザやチンピラとの関わりの中で彼女を見つけていくのだった。

この時代には携帯電話は無く、毎日顔を出すバーに伝言を頼む様になっている。
「ただの常連客じゃないか」と思ったが、内容はとても面白い。

「子供が最初にぶつかる関門は、約分や通分だ。」
このセリフはチンピラの少年を思って出た言葉だった。
この関門を軽く乗り越える者、努力して乗り越える者、そして脱落するもの。
この脱落者の中で手を差し伸べてもらえなかった者が頭の悪いチンピラになると探偵は続けた。
口の悪い探偵の心の奥が見えた言葉だった。

「おれは心底驚いた、なんとこのガキは字を読めるらしい。」
こんな言葉で相手を馬鹿にする探偵の奥底にも優しさを感じた場面だった。

物語はすっきりした内容では無かった。
不必要な登場人物もいて、描くとややこしくなる場面もあった。
ただしそのごちゃごちゃ感がこの探偵らしさを引き立たせる要因のひとつだと感じたので、作家の東直己さんの手法なんだろう。

目的の女性を見つけた探偵。
だがその女性は探偵の嫌いな頭の悪いタイプだった。
女性を乗せて車で帰っている時、探偵は運転手にこう言った。
「おれが何を言っても車を止めないでくれ、そしたらおれはこの女を殺しちまう」
「よし運転手、頼みがあるんだ。車を止めてくれ」
物語の中でこの探偵の魅力に引き込まれたのは言うまでもない。
ぼくはそう思った。
お求めは近くの本屋さんもいいですね。

おしまい。

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