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夏と冬とぼく『トイレ掃除生活16日目』

おはようございます。
もうそろそろ限界だ。
はやく小説を書き終えたい。
土曜日には「あとがき」を書こうと思っている。
もちろんこの苦悩をより濃く書く事になるだろう。
そしてぼくは今日寝坊した。
へへっ、現実逃避ですな。
それでは大変で時間も掛かって、でもなぜか楽しい小説の続き。
苦悩たっぷりな第4章、いっきまーす。


どうやら冬子を取り巻く環境は複雑らしい。
複雑とはいっても愛されているし満たされている。
ぼくは付き合った翌日にそれを知ることになる。


「赤い薔薇を1本持ってきて。それとこれ地図ね、駅から家までルート書いてあるからその通りに歩いてきて。時間厳守で早すぎてもだめ。」
夏子の指示は的確だった。
昨日のカフェの帰り際、夏子に渡されたのは冬子の家の地図だった。
交際翌日にご両親へ挨拶することになるとは思わなかった。
冬子との交際に浮かれる時間は無さそうだ。
次の日は思っていたよりすぐにきた。

足が重い。
スーツを着て手土産はいい、だが薔薇1本があまりにも不自然だ。
そして夏子の書いた地図は明らかに遠回りだ。住宅街を無駄に歩き回っているせいか住民の視線が痛い。そしてやっぱりみんな薔薇を見ている。
不思議なのは年配の方の眼差しがやたらと温かいこと。
そして同年代の男からの敵意がものすごいことだ。
それとやたらと住民が外で立っていること。
薔薇にこんな効果があるのだろうか。
この時のぼくには分からなかった。

地図通りに歩いて時間通りに着いた。
インターホンを押すと冬子が出迎えてくれた。2度目の冬子もとてもかわいい。問題は後ろから聞こえる声だ。
「ちょっとおじさん聞いてるの!だからー、そこでわたしはピンときちゃったわけ!あっ!来たー遅いぞ泥棒猫ー!」
なぜ夏子がここにいるのだろうか。そして早くてもだめっていったのは夏子だろう。
「はっ初めまして、昨日から冬子さんとお付き合いさせていただくこ「ほらほらこの人!どう?お似合いでしょー」
ぼくの挨拶を遮る夏子。一番大事なとこ邪魔すんじゃないよ。
「あらーかっこいいじゃない!」
「そうだな!父さんの若い頃にそっくりだ」
「ほんとー?ねぇおばさんそうなのー?」
だめだな、ご両親もぼくの話を聞きそうにない。
というかなぜ夏子がここにいるのだろうか。
こうして濃密で明るい時間を過ごすことになった。


「冬子さんの優しいところです。」
ありきたりな褒め文句だ。というより何度訊かれるのだろうか。
冬子の好きなところを訊かれて答えるとこうなる。
「わかるぞ、おれもそれが一番の魅力だと思ってる!冬子の優しさときたら…」
お父さんの一番はいくつあるんだろうか。
その前は笑顔、その前は雰囲気と答えた。
その度にお父さんは受け入れてくれる。
「わかるぞ、それが一番の魅力で…」
【冬子の好きなとこシリーズ】の終わり方を知りたいと思った。

しばらくしてぼくは夏子を問い詰めた。
「冬子に聞いたぞ。地図通りに歩かせたのはぼくを町内への見世物にするためなんだろ。薔薇はその目印って訳だ」
夏子は言った。
「うん」
ニヤニヤしながら夏子は続ける。
「町内のみんなで冬子の事見守ってるの。冬子人気あるんだよー。男の子には睨まれたんじゃない?」
見世物にされて腹が立たないことが何よりも悔しい。だがそれが夏子の魅力なんだろう。
「冬子も夏子もこの町内で一番の人気者なんだぞ!」
だからお父さんの一番はいくつあるんだよ。

娘の彼氏を見世物にする両親と、親友の彼氏を見世物にする夏子。
そして町内は見守ったり敵になったり。
なんて複雑な環境なのだろうか。


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