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『甘酸っぱい青春物語』

あの日は確かに快晴だった
風も穏やかで心地よかったし
午後の教室では睡眠学習も盛んだった
友達との帰り道では
先週から置き忘れていた傘を
クルクル回しながらも足取りは軽やかで
春の訪れを思わせる香りを
胸いっぱいに吸い込んだもんだ

考えてみれば家に帰った時から
母に違和感を感じていた
当時ぼくは17歳
母の瞳の奥底に
戸惑いがあることぐらい気付ける歳だ
この思いは数分後
確信に変わることになる
だってぼくの部屋に答えがあったから

【机の上に積み上がったエロ本】

その日の朝
部屋を出る時には押入れの奥にあったのに


ナンデソレガココニアル
何も分からない
何も聴こえない
誰も応えてはくれない
「母さん、部屋の掃除してくれたんだ…」
靄のかかった脳内でそれだけは分かった
暗闇の奥底で
乱雑に隠されてたはずの本が
机上で見事に整っている

気付かなかったフリもできたはずなのに
あえて出す
むしろ出す
母さんのこの意図は何なのか
考えても分からない
この日のぼくには何も分からなかった

いつも待ち遠しい母さんの声が
「ご飯できたよ」の声がこんなにも怖いとは
いっそこのまま眠りたい
そして汚い部屋で目を覚まし
「夢だったか」と言えたらいいのに

この日の夕飯は
大好物のオムライス
でも分からない
味がまったく分からない
この日のぼくには
本当に何も分からなかった

こんな甘酸っぱい青春の1ページ
あなたも刻んでいますか
色とりどりのページもあって
キラキラ輝くページもあって
破り捨てたいページもあって
そんな一冊を書き上げるのが人生なんですね
おしまい

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