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これが女性のすれ違い

私はいま恋をしている。

バイト先のお客さんでよく日曜日に来店する。

初めはちょっと面白い存在だった。

会話をした事もない人を好きになるなんて恋ってホントに不思議だと思った。


「袋入れますか?」「あっはいっお願いします」

「ポイントカードありますか?」「あっはいっお願いします」

私の声にいつもオドオドと答える彼。

横柄なお客も大変だけど丁寧すぎるのも大変だと思った。

私がレシートを渡すと「ありがとうございます」と両手で受け取ってくれる。

まるで表彰式で賞状を渡しているみたいで面白かった。

私は彼を好きになった。

どんな人か話しかけたいけど何を喋ればいいのか悩んでいた。

そんな時彼が辛そうに来店した。

胃腸薬とスポーツドリンクとプリンとヨーグルト。

お腹が痛いと説明しているような品ばかりで、不謹慎にも笑いそうになった。

いつもはカゴに移す所だが、袋詰めをしながらレジをした。

彼はキョトンとしていた。

「体調が悪い様でしたので」とでも言えば怒られないだろう。

あれだけ悩んでいた割に、気が付いたら私は喋っていた。

「いつもありがとうございます。体調大丈夫ですか?」

「えっ?あっいやっあっいつもどうもすいませんっ」


レシートを渡すといつも以上に頭を下げる彼。

まるで卒業式で卒業証書を渡している気分になった。

迷惑だったかな。お節介な奴と思われたかな。

悪気は無いのに悪くなる。いやになってくる。


来週会うときどうしよう。

でも来なかったらもっとどうしよう。

会いたいけど会いたくない。

恋ってやっぱり不思議だと思った。


来て欲しいけど待ってほしい、不思議な今日がやってきた。

休憩終わりに店に戻ると彼を見つけてしまった。

いつもより早い時間で慌てた私はつい隠れてしまった。

あぁどうしよう、小走りで逃げる姿を見られただろうか。

どうしようどうしようどうしよう!

ちょっと待って!もう来たの?まだ心の準備がっ!


おしまい

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