夏と冬とぼく『トイレ掃除生活17日目』
おはようございます。
いよいよ最終章の金曜日を迎えることができた。
いやー、もうやらない。
だって大変なんだもの。
楽しかったけど。
ではこれが最終章のはじまりだ。
いっきまーす。
「というわけで明日から旅に出る」
開口一番で夏子は言った。
「やっぱりな」
ぼくの予想は的中した。
相談があると言ってアパートに夏子がやってきた。
だがぼくは相談ではなく報告だろうと思っていた。なにせ夏子は悩まない。
【というわけで】の前置きは夏子らしい。
報告から始まる相談もやっぱり夏子らしいと思った。
「わたし、冬子に甘えてた」
夏子は続けた。
「冬子にはわたしが必要だと思ってた。でも違う、わたしに冬子が必要だったんだ」
夏子の言葉に誰も何も言えなかった。
思ってたより悩んでいたらしい。
冬子と夏子はこれまでずっと同じ道を歩んできたという。
仲良しの二人組。
ずっと二人だけだともいえた。仲良しの弊害だろうか。
お互いがお互いを一番に思う、それはいまでも変わらないだろう。
ぼくと結婚してアパートに越したいまでも週三日は会いにくる。
「わたしも引っ越す」
そう言って向かいのアパートに夏子が越してきたのも随分前のことだ。
仲良しな二人、仲が良すぎる二人。
二人組にぼくがすんなり入れたのが不思議だった。
たまにぼくと夏子で買い物に出ることもあるぐらいだ。
二人組はいつのまにか三人になっていた。
冬子は泣いていた。
どこへ行くのか、いつまで行くのか。
訊きたい事があるだろうから代わりにぼくが訊いといた。
途中から夏子も泣いていた。
そういえば聞いた事があった。
今までに冬子と夏子が会わなかった期間は一週間もないらしい。
これまでずっと、受験やテスト勉強も一緒にしていたそうだ。
そんな二人が会わないと決めた。その心中はぼくには分からない。
【分からない事には口を出さない】というのは夫婦仲良しの秘訣だ。
大変だねだなんて分かった振りをしない。してほしくもない。
夫婦円満の秘訣とは【違う価値観を尊重すること】だと思う。
でも…、でもさぁ。
会社の有給使って二週間九州旅行いくだけなのにさぁ。
泣いて抱き合わなくてもいいんじゃないかとは思う。
その泣き方は海外へ数年行く泣き方だろう。
言わなかったけどそんな顔してたみたいだ。
ぼくは二人に睨まれた。
次の日、ぼくたちは夏子を見送らなかった。
これからしばらくの間、この二人は日常の中でひとりぼっちの非日常を過ごすことになる。
不安と寂しさが浮かぶ冬子の困った様な苦笑い。
ぼくの一番好きな冬子の表情だった。
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