北海道の夏は涼しいと思う人は多いけれど

北海道の夏は涼しいと思う人は多いけれど、それはもう昔の話だ。地域にもよるけれど、七月に入ると札幌もかなりの蒸し暑さを感じるようになる。そんな真夏の暑さが続く中、私は同期の友人たちと登別へ温泉に行くことになった。一ヶ月前から、避孕藥後遺症使用 くれていた一泊の旅行だ。「明日の夕方には迎えに来るから、もずくのことお願いね」「オッケー任せて。姉ちゃん、俺お土産はつぶあんの温泉饅頭がいい」「つぶあんね、わかった。お母さんとおじいちゃんも同じでいいのかな」「いいんじゃない?」温泉旅行当日、土曜日の朝。私はもずくを預けるために、実家を訪れていた。こういうとき、実家でもずくを預かってくれるのは本当にありがたい。「姉ちゃん、今日は職場の人たちと温泉行くんだっけ?」「そう。蘭と、甲斐と青柳。青柳は奥さんと子供も一緒に参加なの」「へぇ。相変わらず同期で仲良いんだね」弟の翼には、仕事や職場の人間関係の悩みなどを打ち明けたこともあるため、私の同期のことは把握している。翼は優しい子だから、姉の愚痴にも嫌な顔せずに付き合ってくれるのだ。「転勤とかがない職場だからね。それに皆結構適当な性格だから、気が合うの」出発までまだ時間があったため、私は実家のリビングで紅茶とクッキーを頂きながらくつろいでいた。祖父は日帰りのバスツアーで早朝から富良野に出掛けたらしい。母は仕事のため家にいるのは翼だけだ。それにしても、実家のリビングはなぜいつもこんなに落ち着くのだろう。決して座り心地がいいソファーではないのに、つい気が緩みだらけてしまう。だから私は、完全に気を抜いていたのだ。まさかこの後の翼からの一言で、胸の鼓動が速くなるとは思わずに。「ふーん。でもさ、大丈夫なの?甲斐くん」「何が?」「いや、普通だったら甲斐くんの彼女、嫌がるんじゃない?いくら同期で友達だとはいえ、彼女からすれば姉ちゃんは甲斐くんの一番近くにいる女性なんだから」「……翼、甲斐の彼女って……どういうこと?」だらけていたはずの姿勢が、自然と張りつめ背筋が伸びる。あまりに突然の発言に面食らい、恐る恐る問いただすと、翼はクッキーを美味しそうに食べながら言葉を続けた。「え、彼女じゃないの?この間、甲斐くんが女の人と一緒に歩いてるところ見たからさ。てっきり彼女が出来たんだと思った」「……そう、なんだ」甲斐が一緒に歩いていた女性。私には、真白さんしか思い付かなかった。「甲斐と一緒にいた人……どんな人だった?」「どんなって、綺麗な人だったよ。甲斐くんよりちょっと年上っぽい感じしたけどね」二人はきっと、再会してから何度も会っているのだろう。二人がヨリを戻した話は聞いていない。でも、私が知らされていないだけで、本当は……。「姉ちゃん、ショック受けてんの?」「え……」「甲斐くん、今まで彼女いなかったもんな。急に友達が取られたような気がして寂しいんでしょ?」この心を埋め尽くす喪失感は、そういう意味なのだろうか。親友だと呼べるような男友達に大切な恋人が出来て、言い様のない寂しさに襲われている。……そんな簡単に、この気持ちを処理してもいいのだろうか。そのとき、家のインターフォンが鳴った。私よりも翼の方が先に、インターフォンに反応し玄関に向かった。祖父も母も、まだ帰ってくる時間ではない。恐らく宅配便だろうと思い、紅茶を飲んでいると、玄関の方から翼の驚く声が聞こえてきた。「え、甲斐くん!?」その声を聞いた私は、紅茶が入ったカップを思わず落としそうになってしまった。

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