明日の分かぬ境遇にありながら

明日の分かぬ境遇にありながら、今この時の幸せを堪能するかのようなロキの食事振りに、ラシャレーは不思議の思いを抱いた。長く人間を見て来たラシャレーにとっては、ロキは珍しい人間に見えた。そして、珍しいという事がロキの人物をラシャレーに買い被らせていた。買い被り・・・或いは正解かも知れないが、一文看清避孕藥副作用ロキの人物、能力とロキの食事振りは全く脈絡のないものである。だが、この珍しいという一点がラシャレーをして、ロキに一目置かせたのであった。両者とも、食事を終えた。ロキは幸せそうな顔をして食べたが、どちらかというと質素な物であった。ラシャレーは年齢の事もあり、あまり贅沢な物を好まない。己のいいと思う範囲でロキを遇していた。別に食い物でロキを籠落するつもりはないので、普段どおりの物であったのであるが、これほど幸せそうな顔をするなら、もっといい物を手配させても良かったな、とラシャレーはチラリと思った。ラシャレーは料理人を呼んで食事を下げさせると、お茶の用意をさせた。茶は緑茶で、朝摘みの物をこんがりと煎った、極めて香ばしい物であった。それを美味そうに啜りながら、ラシャレーは、「さて、本題に入ろうかの。」と言った。「本題? ふーん。」「この手紙の中身は知っているかな?」「見てはいないけど、ハンベエをタゴロロームの連隊長に推薦する手紙でしょお。「さようじゃ。時にロキ、ハンベエとは、どんな奴じゃ?」「どんな奴って・・・悪い奴じゃないらしいよお。」「らしい・・・とはどういう事かの?」「実はオイラもハンベエには良く分からないところがあるんだよお。」「分からないところ。」「無造作に人を斬るから、冷血な人斬り鬼かと思うとそうでもない。無愛想でぶっきらぼうかと思うと、妙に人懐っこい一面もあるし。直情径行の喧嘩屋かと思えば、用意周到なところもあるし。雲みたいに掴み所がないのかと思うと、どっこい存在感に満ち満ちて、周りを圧倒してるしね。」「ふむ。・・・では、ハンベエという男、野心家なのかな?」「野心?・・・野心あるかも知れないよお。でも、王国を乗っ取ったりっていうのはハンベエからは想像できないよお。」「その方はハンベエが好きなのかな?」「ハンベエの事?・・・好きかと言われたら、好きだけど、それ以前にハンベエとオイラにはきっと一つの運命があるに違いないんだよお。それが何か分からないけど。」ロキはハンベエについて明け透けに語った。古い言葉で言えば、八方破れ或いは無手勝つ流、比較的新しい言葉で云えば、かの有名なノーガード戦法と言ったところを狙っているようだ。「ハンベエのどんなところが好きなのじゃ?」「ええ?・・・ええとねえ、ハンベエの事が好きな理由は色々あるけど、一番好きな理由はオイラを一人前の人間として扱ってくれる所さ。」「ふむ。・・・」「オイラまだ子供だろう。大人振って商売とかしてても、世間ではまだ子供と値踏みされるわけなんだよお。でも、ハンベエは初めて出会った時からオイラを一人前の男として尊重してくれたんだよお。」「ほお、嬉しかったのか?」「嬉しかったよお。」「バンケルク将軍はどうじゃ?」「バンケルク将軍・・・最初はオイラ、国の将来を案じる立派な人だと思ってたよ。・・・でも、手紙を届けて、ハンベエと帰って見ると何だか別の人みたいになってたよお。」「では、嫌いかな?」「好きとか嫌いとか言う前に、将軍おかしいよ。王女様の紹介状を持って行ったハンベエを下っぱ兵士にするし、アルハインド族との戦いでは味方を騙すような事をするし、おまけに将軍の手下のモルフィネスとかいう奴のその又手下がオイラをかどわかしに来るし。」「アルハインド族との戦いで騙すような事をしたとは誰から聞いた話かな?」「ハンベエからだけど。」「ふむ。バンケルク将軍よりハンベエの方を信じるのじゃな?」「当然ハンベエを信じるよお。」「仮に、タゴロローム守備軍の司令官をバンケルクとハンベエのどちらかにするとしたら、その方ならいかがいたす。」「え?・・・」ラシャレーの大胆な問いにロキは思わず絶句した。そして、どんぐりマナコを見開いて相手の顔をマジマジと見つめた。ラシャレーの顔には特に感情が読み取れるものは浮かんでいない。

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