見出し画像

オーディオインターフェイスのためのオーディオインターフェイス

PCやMacなどの機材が増えて、つながっているオーディオインターフェイスもそれに比して増えていくと、こんどはそれらのオーディオインターフェイスをまとめるためのオーディオインターフェイスが欲しくなります。Macで鳴る音を別のPCに取り込んだり、外部のエフェクタやアウトボードに出力して変化を加えた音を再度取り込んだり。もしくはマイクの音声を全てのコンピュータに送りたくなったり。

最初からこうなることを見通して機材ぐりをしていけば、もしくは今の知識を持ってゼロから構築していたならもっとスマートな解決法を選んでいたはず。しかし現実には音関係を始めた当時はそのような方法は知る由もなく、コンピュータの類が増えたら安直にオーディオインターフェイスを追加していたわけです。

それからややしばらく。

多入出力タイプのオーディオインターフェイスにはルーティングができるものとできないものがあることに気づきました。

たとえば通常のオーディオインターフェイスであればCh1の入力はUSB入力のCh1に入力されます。また、USB出力のCh1はオーディオインターフェイスのCh1(もしくはメインアウトの左Ch)に出力されることがほとんどです。
ですが中にはCh1に入力された音をCh1の出力にスルーできたり、Ch1の入力をUSB入力の5chに入力したりすることができるタイプがあることを知ります。
また、オーディオインターフェイス内のミキサーを使ってCh1入力をUSBのCh1のみならずCh2の入力としても使えたり、3ch、4chのステレオ信号に5ch、6chをミックスして出力したり入力したりできるものがあることにも気づきました。

めっちゃ便利。こうなると世界が一気に広がります。オーディオインターフェイスにシンセなどを接続し、ミックスしたものをメインの出力から出してそれをまた別のオーディオインターフェイスに入力したり。とあるMacから出力した音声を別のMacやPCの入力に送ったり。

そのうち思うようになることはコンピュータ間でデジタルの信号をアナログにして出力し、さらにアナログの入力をデジタルに変換したりしているのが気持ち悪いなと。通す音にもよりますがAD DA AD DA AD DAと何度も繰り返して音をただただ劣化させたくありません。
いっそデジタルならデジタルのままオーディオを伝送して最初と最後だけADとDAする方法はないものかとデジタルオーディオインターフェイスを探し始めました。

主要なデジタルオーディオ伝送規格は
Dante, Ravenna
AVB, MILAN
MADI
ADAT, SMUX
S/PDIF, AES/EBU
SMPTE ST 2110-30
などなど

この中ですと放送用にMADIが多く使われていましたが、最近ではPAや設備方面からDanteの勢いが強くなってきていたりします。ただ小規模向けにはDanteやMADI、AVBはオーバースペックかつ高価ということでいまだにADATも根強く残っていて、手持ちのオーディオインターフェイスを見てもADATのついているものがたくさんあります。

そこでADATを中心に据えて音声ルーティングを組んでみようと思い立ちました。

ADATを自由に使える機材というのは少なからずあって、RMEだとDigiface USBやHDSPe RayDAT、Ferrofishのコンバータ群もADATを積んでいるものが多いです。ほかにもADATが2系統でよければもっと多くの選択肢があります。今回はそういった製品群からADAT入出力4系統のMOTU LP32を選びました。自分としてはM4、UltraLite AVBに続いて3台目のMOTUです。

MOTU LP32

先ほども述べた通りMOTUのADAT4系統付きインターフェイスです。1系統を8chとするとLP32のADATではIn-Outで32chずつ使えることになります。さらにAVBが4ストリーム(1ストリームあたり8ch)ということでIn-Outこちらもそれぞれ32chまで使えそう。
LP32はデジタルインターフェイスではありますがDAも積んでいてヘッドホン出力を行うこともできます。USB入出力で利用できるのはIn-Outともに64ch、ということで総計は入力が128ch、出力が130chとなります。
ちなみにADATの8ch伝送というのはbit depthが16bitもしくは24bit、サンプリングレートが44.1kHz、もしくは48kHzまでの話で、SMUXという拡張プロトコルを利用してもっと高いサンプリングレート、たとえば192kHzを利用すると2chしか使えません。自分のところでは24bit/48kHzを標準利用しています。

おそらくこのLP32という名称はLightPipe32chあたりから来ているのでしょう。他のMOTUのプロラインナップの製品と同様、マトリクス式のUIを利用してルーティングやスプリットなどが自由に行えます。MOTUの製品で嬉しいのはコンピュータのUSB入出力チャンネルへの割り当ても自由に設定できる点で、たとえばADAT機器の1台目の入力ch1をUSB入力の7chに、入力ch2を同8chに設定というようなことができます。RMEだとこの、どのUSB入力に信号を持ってくるかの設定はできないんです(ですよね?)

LP32は内部にミキサーを持っており、接続した機器から出力される音声を自由にミックスできます。このミックスの際に複数のコンピュータや機材から音が鳴らせるのはいいですが音が重なった時にクリップしてしまうという問題に対してDSPでリミッターをかけられるのもありがたいです。

ほかにもゲートにコンプ、EQ、リバーブまで使えます。コンプはLA2Aのモデリング、EQはイギリスのアナログミキシングコンソールをモデリングしたとあります。どこのコンソールでしょうね、Trident、Helios、Neve、そしてSSL。どうしても気になってしまいます。

ということでデジタルミキサーとしても使うことができるのがLP32。しかも手頃な価格で実現しているのが嬉しいです。

到着当時はファームウェアが最新ではなかったためにアップデートしました。注意点としてはUSB接続ではファームウェアをアップデートできず、MacとEthernetで接続する必要があるということに気づかずしばらく悩んでいました(マニュアルにもそうするよう記載がありました)

オーディオインターフェイスのためのオーディオインターフェイスのためのオーディオインターフェイス

さて、LP32に接続するオーディオインターフェイスはどのようなものが向いてるのでしょうか。

ADAT入出力の付いているオーディオインターフェイスでは、一般的にはADAT出力端子のついたマイクプリアンプなどを使用してADAT経由でADした音声信号をそのままコンピュータに送ったり、DAWからADATのチャンネルを直接指定してその先の機材に音声を送ることが多いです。

しかし、自分が目指しているのはADATを介してコンピューターやオーディオインターフェイス間で音声をミキシングしつつ自由にやり取りすること。この目的を達成するために少なくともADATで送受信する音声をルーティング&ミキシング可能なオーディオインターフェイスが必要で、そうなると対象となるオーディオインターフェイスは一気に絞り込まれます。

一例を挙げるとRMEのBabyface ProやFireface、MOTUだとUltraLite以上のプロ向けのライン、ApogeeならSymphony以上でしょうか。ADATのIN/OUTを好きなようにルーティングやミキシングできるかどうかはマニュアルを見ても非常にわかりにくいことが多いので素直に代理店さんやメーカーさんに聞くのが良いでしょう。
楽器屋さんで聞いてみるとしたら「オーディオインターフェイスで、ADATの入力と出力がついていて、スタンドアローンで動作して、アナログとADAT経由の入出力を自由にルーティングとミキシングできる機種はどれですか?」となるでしょうか。
USB側の入出力チャンネルも自由に設定したいですと付け加えると答えはさらに絞り込まれるでしょう。

ちなみにルーティングやミキシングできないオーディオインターフェイスが悪いというわけではありません。たいていドライバいらずで動作して、OSアップデート後も安心して使えるのがいいですね。

LP32の物理接続

LP32はMacに接続していてADAT4系統のうち普段は2系統を利用しています。RME UCX IIとAVID MBOX Studioです。設定は24bit/48kHz。
さらにAVB経由でMOTU UltraLite AVBと接続しています。

太いケーブルは重いし取り回しがかなり大変

クロックについてはBNCケーブル経由でRME UCXIIのワードクロックを利用しています。48kHzを利用するのでUCXII側のクロックスピードの設定はフルでもシングルでも一緒ですが、シングルスピードの設定は外しています。

UCX IIもLP32もClockの設定を行うとWCLKという表示に

UCXIIはメインのAD/DAとして活躍しており、SSL SiX経由でモニタースピーカーやマイクなどと繋がっていてヘッドホンもSiX経由で利用しています。これもLP32同様Macに接続。

AVID Mbox StudioはWindows機のメインオーディオインターフェイスとして利用しています。

UltraLite AVBはもう一台のMac用オーディオインターフェイス。
LP32とはAVBで接続することによりUltraLite AVBのADATがフリーになるのでさらにその先にADAT機器を繋げることもできるようになります。

こんな感じで繋げています

ほか、AndroidやiPhoneにもインターフェイスを接続することがありますが通常はアナログで出力してほかのオーディオインターフェイスの入力に接続しています。デジタルでも繋げないことはないのですがスマホやタブレットのサンプリング周波数ってまちまちなのでデジタルだと繋ぎにくいんですよね。Mutecが販売しているサンプリングレートコンバーターなどを利用することも考えられますがそこまでする必要は感じられず。
iPadだけはMPEやXYパッド系を入力できるアプリから直接MIDIをMacに流し込みたいことがあるのでUSB-CケーブルでMacと直結してあってIDAM接続しています。自分の使っているiPadはシステム標準のサンプリング周波数が44.1kHzなんですけどMacの中でアップコンバートやダウンコンバートされているっぽい。

LP32に繋がる各オーディオインターフェイスの設定

各オーディオインターフェイスのアナログ接続は出力よりも入力がメインです。シンセ類やアナログ出力しかもたないオーディオインターフェイスを接続したり、他にもUltraLite AVBではターンテーブルの音声をRadialのJ33というフォノイコ機能を持ったダイレクトボックス経由で受け取ってそれをUltraLiteのプリアンプを通して信号を増幅しています。これもっと流行ってもいいやつです。たとえばターンテーブルのプリアンプとしてNeveやAPI使えるのって嬉しいですよね。

出力のDAはもっぱらUCXIIの役目。UCXIIにはSSL SiXと500モジュールをアナログで入出力ともに繋げてあってスピーカーやヘッドホンへの出力はSSL SiXの担当です。SiXからはMainとBusBをUCXIIの入力に、このうちBusBはマイクのミックスをもっぱら流してあって、各オーディオインターフェイスにルーティングしています。BusBはアナログのステレオ入力もスイッチ一つでミックスできるのでループバックとしても使えて便利です。SiX側の接続をもうすこしだけ解説しておくと、Foldback / St Cueは演者が別にいるわけではないのでもっぱらリバーブやディレイのエフェクトバス用。エフェクトのリターンはExtの1、2を使えて、こちらは+20dBまでゲイン上げられるので便利。SSL SiXからはスネークケーブルでパッチベイに繋げてあって、マイク入力にエクスパンダーやディエッサーをインサートとして接続しています。スネークケーブルを使うとAlt Inputとしてさらに2ch入力を増やせたりも。
SiXは凄まじく便利に使えるのでいろんな人に勧めたい機材です。

ほかに出力を使うものですとMBox StudioにElektron OctatrackやRoland SP-404 mk2などに出力を結線してサンプリングに使ったり、ペダルのエフェクトやリアンプをかけるときに使っているくらいでしょうか。

アナログ接続とは対照的にADAT側の出力はプレイバックの出力とそのオーディオインターフェイスにつながっている機材のアナログ信号入力をそのまま、あるいはミックスしてLP32に出力するという重要な役目を担い、入力側ではメインミックスを受け取るほか、マイク入力などを受け取っています。

ルーティングとミキシング

マイクのヘッドアンプはSSL SiXもしくは500モジュールを使うことが多く、それらはUCX IIでADしてから各インターフェイスに分配して、どのコンピュータでもマイクの音声を捕まえられるようにしています。

オーディオインターフェイスのADATの出力側の事例というと外部DAを利用したアウトボードの掛け録り用途などが多いですが、自分のところはコンピュータのプレイバックやアナログ入力をそのまま出力に向けて他でも利用可能にするという使い方にするため、ミックスの必要なものはLP32のミキサーチャンネルに、マイク入力などミックスの必要のないものはそれぞれのオーディオインターフェイスの入力にガシガシと割り当てていきます。

LP32以外のオーディオインターフェイスのADAT入出力の設定は

  • INの1-2: プレイバックのメインミックス(ミックスマイナス)

  • INの3-8: マイクやシンセ、サブミックス

  • OUT1-2は接続コンピュータのメインのプレイバック

  • OUT3-8はアナログ入力をそのまま出力あるいはプレイバックのサブミックス

を基本としています。ここまで決まればあとは設計を実際にマトリクスUIでポチポチと落とし込んでいくだけ。

これが地味にたいへん

LP32のミキサーではそれぞれのコンピュータのプレイバック音声などをミックスしてメインのミックスを作成してRMEのUCX IIのADAT入力1chと2chにルーティングします。
で、そのメインのミックスからマイナスワンしたものとマイク音声をコンピュータに接続されているオーディオインターフェイスの入力に出力します。どのコンピュータでもマイク音声やメインミックスを使えるようにするためですね。
LP32のグループバスは1から6chまで、Reverbバスが1,2、AUXバスが1から14chまであります。チャンネル数は最大48。チャンネル数が48chというとたくさんあるように思えますが実際に使ってみるとあっという間です。

まとめ

MOTU LP32を利用することでADAT/AVB経由でマイクやシンセ、コンピュータなどの音声入出力を一気にまとめ、ひと組みのモニタースピーカーでモニターできる環境を整えることができました。イマーシブ系の開発案件が取れればMOTUの16Aとスピーカーを追加してコンピュータ3台構成でもそれぞれのマシン上の音を7.1.4などでモニタできるようにしたいところです。