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『豺狼ノーツ』エピローグ

当資料は、N月より実施された第1回【豺狼プロジェクト】の概要、及び経過報告をまとめたものである。

1:プロジェクト概要

N-1月末より、【豺狼プロジェクト】が始動。
東京郊外のとある施設に在籍している青年達を対象に実施したこのプロジェクトのコンセプトは「諦めによる実社会復帰」
施設に収容されている青年達の共通点である以下に対し、価値観の衝突等を元に諦め、現実へ目を向けさせる(実社会に戻す)ことがゴールとなる。

〈共通点〉
・夢、願望への意欲が高い
・自らの才能を過信/盲信している
・自らの持つ架空現実世界に没入している

施設に収容される青年達の保護者に声をかけたところ、志願者はほぼ全員が手を挙げるほどであった。
ただし青年達の間での夢・願望との向き合いや衝突の必要があったため、取り急ぎ被検体として同じ欲望を抱える8人の青年が選ばれ、【豺狼プロジェクト】第1回が開始された。
(プロジェクト担当:荒牧)


2:経過報告まとめ

N月1日〜
4名とも異常なし。精神的にも落ち着きがあるように見受けられる。やはり架空現実に寄り添うことが必要か?

N月5日〜
▼松浦
深夜帯になると壁・枕を叩きはじめる。
口でも「ドン」「シャン」などの擬音を発する。
日記の中身からして、ドラムを叩いていると思い込んでいる。
本人の精神は安定しているが、後述する西巻との状況には注意。

▼幸野
扉から何度も顔を出すようになる。
本人に理由を尋ねると、外出可能な時間帯がいつなのか気になるとのこと。回答しないと爪から血を流すまで壁を引っ掻くので、見回りを強化。
(一旦17時と回答)

▼西巻
松浦の隣室であり叩かれる側の壁を枕に眠っているため、睡眠妨害等を理由に部屋で暴れるように。
日記の書き込みを通じて当人同士での解決が有りうるか?

▼山崎
入浴の手伝いを担当する職員から、大声で歌を歌うようになったとの連絡あり。
本人の精神は安定しているので、このまま経過観察。

N月9日〜
▼松浦
奇行継続。
定期面談に来た保護者に報告し、本人・保護者での会話が行われたようだが、変化はなかった。
なお、N月8日に後述する西巻との言い争いが発生しており、安定剤の投与を実施した。

▼幸野
顔を出す頻度が増加。
17時という回答をもってしても壁を引っ掻くようになる。当人の身体への影響を考慮し、精神の安定が確認できるまで基本的に部屋の鍵を閉めることに。

▼西巻
N月8日の深夜帯、松浦と口論。(松浦には当たっていないものの)暴力沙汰となり、安定剤の投与を実施。
たまたま同じタイミングで部屋の外に出、顔を合わせてしまったためか?ストレスと元から持つ暴力衝動が爆発したとも考えられる。
なお、西巻・松浦ともに日記の相手であることには気付いていない。

▼山崎
本人の精神はやや安定しているが、周囲の部屋の騒がしさや日記の内容(対面への期待感)からか、少しずつ落ち着きがなくなっていく。
また、担当よりN月8日のサイレン(※)にパニックとなり、窓から飛び出そうとしたとの報告を受けている。(担当の強い制止により未遂で終わっている)

※施設から半径500m以内の山で発生した山火事に対するサイレン。

N月13日
▼松浦
安定剤の効果もあってか、落ち着きを取り戻している。
スタジオを借りたい、と連絡があり、電話をしておく旨を伝える。(行動の計画日時であるため、当日に備えてプロジェクト側でも警戒/準備を進めることに。)

▼幸野
テレビの調子が悪い、と連絡を受ける。
普段鍵を開けない時間帯に鍵を開けさせることが可能とわかったからか、以降本人の気まぐれで連絡を受けることに。(高頻度ではないので一旦観察)

▼西巻
安定剤の効果もあってか、落ち着きを取り戻している。

▼山崎
不安定ながら、日記内でバンド名が決まりかけている(我欲の達成へ近づき始めている)ことへの高まりからか、部屋中の紙に「Siren note」と書きなぐっている。

N月17日〜
▼四人共通
期間中最も安定していた。
やはり我欲の達成が近付くほどに被検体となりうる対象者たちは精神的にも身体的にも安定するのではないか。

N月22日 13:00
部屋から出た彼らの顔は、今までで見たなかで最も穏やかであった。
もっとも













第1回【豺狼プロジェクト】は失敗であるが。



The End.




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